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3.きもち
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しおりを挟む「あれ、璃真は?」
部長の声で目が覚めた。古いソファから寝ぼけた身体を起こすと、部長がロッカーを開けて、ゴソゴソとしている。図体がでかい部長がいるだけで、部室は急に狭く感じる。俺は両手を上に上げ、伸びをした。バイトまで部室で仮眠をとっていたところだった。
「えっと、ゼミじゃないですか?」
「ふぅん」
部長は興味なさげな反応だ。
「璃真先輩に用ですか?」
「別に、いつも一緒にいるから、片割れはどこにいるかっていう、確認?点呼?みたいな」
「なるほど」
よくわからない返事に俺は曖昧に相槌を打つ。スマホを取り出せば、セットしたアラームがもうすぐ鳴る時間だった。俺はこのまま起きることにする。
「喧嘩した?」
「え?俺ですか?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
部長は明るく笑って、ロッカーを閉めた。長年酷使されたロッカーはガタリと音が鳴る。
「璃真と喧嘩したかって」
「俺と璃真先輩が?喧嘩?してないですよ」
俺は首を横に振る。思い返す限り、先輩と喧嘩したことはない。些細な言い争いはあったが、結局丸く収まってきた。
「ならいいけど」
部長は勝手に納得して、部室を出て行こうとする。納得していない俺は「何でですか?」と尋ねた。
「最近、お前ら一人でいること多いから、なんかあったのかなって思って。そんだけだよ」
「あぁ……」
俺はため息まじりに唸った。
「何があったか知らないけど、早くいつも通りになってくれよ。サークル名物のりまやまがいないと、勝てる試合も勝てないからな」
部長は「戸締まりよろしく」と言い残し、部室を出て行った。一人残された俺は、再びソファに身体を沈めた。大きくため息を吐くと、さらにソファに身体が落ちる。
確かに、喧嘩はしていない。バイト終わりの迎えは続いている。しかし、あの夜から、先輩と俺の間には気まずい空気が漂っている。先輩は俺への告白を、俺は先輩への気持ちを、はっきりさせていないままだからだ。それらをはっきりさせると、俺たちの関係は確実に変わってしまう。それをお互い望んでいないからこそ、曖昧なままにしている。
今の状態が良くないことはわかっている。隣に先輩がいないことは寂しいこともわかっている。
先輩への欲情と、見知らぬ相手への嫉妬。答えは出ているのと同じだ。あとは、俺が一歩踏み出す勇気がないだけ。
ガチャと部室のドアが開く音がする。俺はてっきり部長が戻ってきたと思い、「忘れ物ですか?」と寝転んだまま尋ねた。しかし、返事が返ってこず、俺はソファから起き上がる。そこにいたのは、璃真先輩だった。
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