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3.きもち
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しおりを挟む「おれのこと、きらい?」
先輩の表情は、徐々に泣きそうなものに変わる。完全に子供だ、と俺は会話を諦めた。俺はベッドの上を移動して、先輩に近づく。
「ほら、璃真先輩」
俺は先輩に向けて両手を広げる。先輩は首を傾げたが、俺の意図を悟り、おずおずと俺の腕の中に入ってきた。俺は先輩をそっと抱きしめて、その背中をとんとんと優しく叩く。小さい頃、弟をなだめるときに、同じようにしたことがある。
先輩は俺の肩口に顔を埋める。腕の中には、先輩の体温。そして、女性よりも骨張って、筋肉質な先輩の身体。俺はそれが意外と愛おしいことに気づいた。しかし、僅かに香る煙草と香水の匂いに、胸がもやっとする。さっきまでバイトをしていたから、誰かの匂いがうつったのだろうと自分を納得させた。
「先輩のこと、嫌いじゃないですから、大丈夫ですよ」
「じゃあ、すき?」
「……それは……」
返答に困っていると、先輩は顔を上げて「すき?」と再度尋ねてくる。上辺だけの言葉だけでならすぐに返せるのに、俺は不誠実だと思ってしまった。俺は答えないことに決めて、先輩を抱き締める力を強くした。背中を優しく撫でると、先輩は気持ちよさそうに目を細めた。先輩の瞼は緩慢に動き、徐々に閉じていく。
「やまと、やだ……、こたえ、ろ……」
「はい」
「やま、と……」
こてん、と先輩の頭が俺の肩口にもたれかかる。全身の体重がぐっと俺の身体にのしかかってきて、先輩が眠りに落ちたことがわかった。俺はふぅと安堵の息を吐き、しばらくそのままの姿勢を保つ。
先輩の規則的な寝息が聞こえてから、ゆっくりと先輩をベッドに横たえる。起きないように、細心の注意を払って、体勢を変えさせた。
「よし」
ようやく先輩の身体をベッドに寝かせると、俺は独り言をこぼした。
先輩の額にかかる前髪を横にかき分けると、整った顔が現れる。邪気のない顔で、幸せそうに眠っていた。俺はその頬に優しく触れ「おやすみなさい」と告げた。
俺は先輩を起こさないように、そっとベッドから降りた。いかにもな部屋の内装をぐるり見回して、バスルームを発見する。身体は疲れているが、頭は変に冴えていて、眠れる気がしない。シャワーを浴びることに決め、濃厚な一日を反芻しながら、バスルームへと向かった。
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