先輩、それなら俺が恋人になります！

2.ひみつ

8

「ばか、見るなっ……」
　先輩の焦る声は遠くに聞こえていた。先輩の履いている下着が、それほど強烈だったからだ。
　黒色で、局部は布で覆われているが、それ以外はレース生地のため、白い肌が透けて見える。腰のところで紐がリボン結びされている。それを引っ張れば、解ける仕組みなのだろう。
「っ、えろ……」
　思わず言葉が漏れた。下着がえろいだけでなく、それが似合っている先輩自体がえろいと思った。というか、セーラー服も似合っていて、スカートの中にこんな下着をつけているというギャップがたまらない。ぶわりと熱が身体を包む。このまま服を脱がせて、全身触って、滅茶苦茶にしたい。頭の中で想像だけが熱く展開していく。
「大和、ほんとに……」
　先輩のか細い声で、俺は我に返る。間接照明に照らされた先輩の表情は、泣きそうで、目が潤んでいる。一気に興奮が醒めて、俺は慌てて先輩から手を離した。
「すいません、俺、どうにかしてて……」
　謝りながら、先輩の乱れた服を整える。先輩はゆっくりと起き上がり、何も言わずに俯いた。
「俺、もう触りませんから、安心してください」
「……嫌だ」
「え？」
「触らないのは、嫌だ」
「先輩？」
　先輩は顔を上げると、俺をじっと見つめた。照明のせいで、涙目がきらきらと反射して、綺麗だ。先輩は一度まばたきをしてから、口を開いた。
「俺、大和のことが、好きだ」
　先輩の言葉は耳に届いたが、理解ができなかった。
「大和になら、触られてもいい」
　先輩は頬を赤く染め、恥ずかしそうに視線を落とした。
　俺の頭の中はパニック状態だった。セーラー服姿の先輩、ピンクと紫の間接照明、白くて滑らかな肌、レースの下着、先輩の赤い頬、スカートから伸びるなまめかしい足、先輩が、俺を、好き。璃真先輩が、俺を、好き。好き？
「一旦考えさせてください」
　俺はベッドから降りて、逃げるように部屋から飛びだした。


　地下から階段を駆け上がり、大きく息を吸った。それから、駅へと走り出す。キャッチの声を無視して、行き交う人の視線を振り払って、走り続けた。陸上部でよかったと思う瞬間だった。
　駅につき、改札内へ入ると、そのままトイレに駆けこんだ。幸い個室が空いていたので、そこに入る。ドアを閉めると、一気に汗がふきだした。リュックからタオルを取り出して、汗を拭き、呼吸を整える。鼓動が速いのは、走ったせいだけではない。目を瞑ると店での光景がフラッシュバックする。今まで一緒にいた先輩の、見たことのない姿に、俺は確かに興奮していた。その証拠に、俺自身は下着の中で窮屈そうにしている。
「くそっ」
　一人小さく愚痴る。治まる気配のない性器はどうにかするしかない。俺はズボンの前をくつろがせ、下着から自身を取り出した。タオルを噛みしめて声を殺しながら、勃起した性器を手で扱く。これは生理的現象だと言い聞かせ、心を無にする。が、うまくはいかない。
　先輩の姿や肌の感触が頭の中にちらついて、ぐぐっと俺自身が硬くなる。個室の外は人の往来があって、遠くに駅の構内アナウンスが聞こえる。背徳感を感じながら、俺は手の中に射精した。
　どっと疲れが身体に伸しかかってくる。汚れた手をトイレットペーパーで拭き、身支度を整えて、個室を出た。俺は電車には乗らず、再びあの店へと足を向けた。