先輩、それなら俺が恋人になります！

2.ひみつ

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　駅から離れるにつれ、周囲は暗くなっていく。細くて暗い道があって、俺でも不気味に感じた。 ストーカーの気配があれば、さらに怖いだろう。先輩はいつもより俺の近くを歩いている。俺は先輩の歩くスピードに合わせて、足を進めた。
　先輩からは、ふわりと嗅ぎなれない匂いがした。タバコと香水が混ざったような匂い。カフェの客から移ったのだろうか。日によって纏う匂いが違うのが気になっていた。カフェなんていろんな客が来るから、仕方ないのかもしれない。
「今日はバイトどうでしたか？」
「ん？いつも通り」
「っていうか、先輩バイト入れすぎじゃないですか？」
「そうか？」
「今って週五くらいですよね？」
　俺は直近で先輩を迎えに行った日を思い返していた。
「んー、だいたいそれくらい？だって学費と生活費稼がなきゃだし」
　先輩は必要経費はほぼ自分の稼いだ金で賄っている。奨学金は利用しているらしいが、最終的には金は必要になる。俺は仕送りがあって、かつ学費は親が払っている。週一から二回程度の家庭教師のバイトをして、遊ぶ金を稼いでいるだけ。先輩から比べれば暢気なものだ。
「カフェのバイトっていつから始めたんですか？」
　先輩は少し考えた後、「二年の秋くらいかな」と答えた。
「必修科目あるときも、こんな夜遅くまでバイトしてたんですか？」
「そのときは、週三くらい。あと家庭教師のバイトを週四でしてた」
「……週七じゃないですか」
「まぁ体力あったから。今は絶対無理」
　先輩は自嘲するように笑った。俺は体力あっても、週七でバイトはきつい。
「あんまり無理しないでくださいよ」
「お前は俺のお母さんかよ」
　先輩はふふっと笑いを零し、自然と表情が柔らかくなった。俺はそれを見て、妙に嬉しくなった。
「先輩、アパートまで競走しません？」
「急に何だよ」
「ちょっと走りたい気分になって」
「俺バイトで疲れてるし、元陸上部に勝てるわけないし」
「ハンデつけますから。それに、買った方が、明日の昼飯奢るってことで」
「学食のデラックス定食」
「俺はラーメン炒飯セットで」
　先輩と視線を交わし、先輩は暗黙の了解でスタートを切った。俺は心の中でゆっくり十秒を数える。正直勝っても負けても、どちらでもよかった俺は、先輩に勝ちを譲るつもりだった。
「やまとー！おいてくぞー！」
先輩は後ろを振り返りながら、俺を呼ぶ。俺はふはっと笑いをこぼして、軽く駆けだした。