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2.ひみつ
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しおりを挟む耳障りな電子音で目が覚める。半分寝ながら、スマホを手探りで探し当てると、眩しい光が目に飛び込んできた。表示されたメッセージ画面をタップして、内容を確認する。
『24:05着』
画面上に表示された時刻は『23:40』で、俺は数秒布団の上でゴロゴロした後、勢いよく起き上がった。
さっきのメッセージは先輩からのものだ。バイト終わりに、アパートの最寄り駅への到着時間を教えてくれる。このメッセージで俺が起きなかったら駅からアパートまでは電話をしながら、俺が起きることができれば駅まで迎えに行く。そういう約束になっていた。最初は電話だけという話だったが、やはり心配なので、迎えに行くことになった。先輩は俺が迎えに来ることを最後まで渋ったが、最終的には了承してくれた。やはり電話だけでは、怖いときがあるらしい。
俺はパジャマのスウェットの上から、フットサルで使うジャージを羽織って、外に出た。秋の夜は静かで寒い。寝ぼけた頭は歩くうちに覚醒してきた。ぼんやりと空に浮かぶ月を見上げながら、駅までゆっくり歩く。
深夜だと言うのに、駅は明るく、人の行き来が絶えない。サラリーマンやカップル、大勢が慌ただしく改札を出入りしていく。俺はそれを眺めながら、大きくあくびをして、先輩の到着を待つ。目を瞑れば立ったままでも眠れそうだ。
もしこれが友達相手なら、絶対迎えには来ずに、電話で済ましている。多分璃真先輩だから、ここまでしているのだ。その理由、というか原動力は何かを聞かれれば、俺は首を傾げるだろう。
大学に入学した頃から、ずっと仲良く、優しくしてくれる先輩。勉強を教えてもらったり、フットサルで汗を流したり、二人で旅行に行ったり、思い出はたくさんある。恩もあるが、それ以上に俺は先輩のことを……。
俺の思考はそこで中断された。改札の向こうから先輩が歩いてくる姿を見つけたからだ。先輩も俺に気づいたようで、小走りで俺に近寄ってきた。先輩は一瞬嬉しそうに頬をゆるめた後、すぐに申し訳なさそうな表情になる。
「遅いのに悪いな」
「全然、気にしないでください」
「気にしないでって顔じゃないんだよ。めちゃくちゃ眠そう」
先輩は申し訳なさそうな表情のまま、優しく笑って、俺の髪に触れた。
「寝ぐせついてる」
「帰って寝るだけだからいいんです」
俺は先輩の手から逃れて、「帰りますよ」と歩き始めた。先輩は俺の隣に並んで歩く。
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