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異世界編-スノー編
クロノ(2)
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「あーー、頭いてぇーーー」
ソアラはトントンと傾けた頭を傾けた頭と逆の右手で叩く。
ツーと鼻から流れる鼻血をまた逆の手で拭う。
「せっかくノッテきたのいうのに、ちょっとちょーしに乗りすぎたかなぁーー」
ザザーと古いテレビが壊れたように、
映像は砂嵐に……
ザザーと言葉は音楽は雑音《ノイズ》のように……
それは神の言葉すら届かせない。
諸刃の剣……
とはいえ、この男の能力は神を……その領域を……
パンッと手のひらを合わせる大きな音……
壊れた白黒の世界、砂嵐の世界に光が戻る。
「全く……せっかく出てきたのだから……」
合掌した姿勢のまま……フィーリアを中心に視界と音が回復していく。
「領域解除《ルールブレイク》……」
「ははっ……あんま抵抗すんなよっ……くっそ、ノッテきた」
ムキになり、その音すらも騙そうとする。
それは、どれだけの彼の身体を犠牲にするのか……
「なーんちゃってね……」
ソアラはベーと舌をだしながら、両手をポケットに収める。
「顔見せ程度のつもりだったのに……随分とムキになってしまったよ」
敵対していたことが嘘のように、猫背の姿勢でシャカシャカとヘッドフォンから音楽の音を零しながら、俺の横を横切る。
「……騙されるなよ、映るモノ……聴こえるオトなんて……本物か嘘か……なんて誰にも気づけない……だーれもその真実を知らないんだ……」
目に映る速度で、俺の真横に移動し、その普通の声で俺に告げる。
「……かもな……」
俺はその言葉に返すように……
「所詮……そんな真意なんてもんは……本物も嘘かも……結局は、人間《それぞれ》の都合だ……」
そんな言葉に無言で前髪で隠れた瞳を俺に向ける。
「……結局、その言葉が正解でも正義だとしても……自分に都合が悪ければ、結局それは嘘になる……」
無言でソアラは俺の横を横切りながら……
「さっすが……噂に聞いた詐欺師《しれごとつかい》……中々にいい言葉《おと》を最後に聴けたよ」
「……弱者の言葉《あまえ》だよ……気にするな」
「聴こえたよ……君《その》……声《おと》……」
そして、俺の真横で手のひらを合わせるようにパンと音を立てると……
その姿を消す。
恐らく、この部屋からすでに退場している。
俺、フィーリア、クリア、レイムの四人は、その部屋に倒れるエリードを横切り、奥の部屋を目指す。
漆黒の弓を脇に挟み立っている男。
クリアとは正反対の黒い髪……
ゆっくりと振り返りこちらを見る。
「クロノ……クリアの兄……か」
ミルザという女は一緒じゃないのか……
俺は周囲を見渡しながら……
「そうか……邪神《かれ》は負けたか……」
なんとなく、その結末を見据えていたように。
相変わらずの疲れた目でこちらを見ている。
「……邪神っていえど、先の戦いでだいぶ魔力を消耗しちまってたようだしな……」
神域魔力《かみ》の加護があったとはいえ、ライトとセティが大暴れだったからな……
にしても、あの男《ソアラ》も十分に危険そうだが……
「それで……ここに現れたというのはさ……レス君、君は俺の敵となるのかい?」
「正直さ……よくわかってねぇんだ」
素直な意見を言う。
「異世界《せかい》そのものをさ……ようやく少しずつ受け入れて……守りたいものがあってさ……」
前を向いたまま、瞳をクリアの方に向ける。
その瞳に気づくようにクリアと目が合うと何故か照れるようにクリアが顔を伏せる。
「あげくに神代理だ……過去改変だ……神を養成する……そのための巫女……正直、考えるのも面倒くさいだけどな……」
頭をかきながら、クロノを見る。
「俺はさ……クリアの兄さん、今……あなたと守りたいものは多分だけど同じなんだ……」
「俺は……あんたの妹《クリア》を守りたい……そして、彼女《きつねめん》の事も助けたい……人として失格かもしれないけど、そのためなら邪神《かれ》がどうなろうと……その犠牲で済むのなら俺は悪いけど切り捨てるつもりだった……」
「正直さ……あんたのことも……」
切り捨てるつもりだった……と残酷な瞳を向ける。
この異世界での日が浅い俺が生意気だろうが……
それでも、日常を守れるというのなら……
俺の取ってのイレギュラーは排除する。
「でも……あんたはクリアもキツネ面の両方を守ろうとしているんだろ?」
クロノが疲れた目をこちらに向けて……
「……見つからない……レス君、見つけられないんだよ……」
疲れた目でうっすらと笑い、こちらを見る。
「俺は……俺が全部……放棄すれば……三人《かのじょたち》は救われるのか……」
クリア……キツネ面……それて、彼はさらにもう一人を……
「……あんたが、本気で彼女たちを救いたいってのは信じている……でも一つ聞きたい……」
クロノが無言で……俺の言葉を待つように目を向ける。
「本気で殺そうとは思っていなかっただろうけど……」
「なんで、クリア……あんたの母親をその矢で狙った?」
マシロさんを狙った……その矢を俺が結界で防いだ瞬間《シーン》を思い返す。
「妹……クリアに会いたかった……無事を確かめたかった……神代理が力を失った瞬間……巫女の器として、自慢じゃないけど、俺の妹は……クリアにその気さえあれば、俺より……ミルザより巫女《それ》に適した逸材なんだ……」
多分、その言葉に偽りは無くて……
「スノー家は、巫女としての適正が有り、必要であれば巫女《それ》にあてがわれる……それはスノー家には名誉であるのであろう……さて……本当にそんな器になる事は幸福なのだろうか……」
「世界は……神を必要としている……昔からね……」
その言葉にフィーリアが反応するように、自分が召喚された日の王の言葉を思い返す。
「争い、傷つけあい……犠牲を得て……そんな傲慢などこかの権力を振るったおっさんに誰が本気で命をかける、救いを求める……神秘、奇跡……そんな神なる存在……疲れ果てた人間にはそんな存在が必要だった……それを演じる人間《ぎせい》が必要だった……そして、そんな神をそんな養成を担当する巫女が必要だった」
「だけど、そんなモノに選ばれてしまえば残りの人生……全てを投げ出して残りの時間を全てそこにつぎ込むことになる……神代理……あなたには本当に申し訳ないとは思っている……どうしても、俺たちにはその犠牲《あなた》が必要だった……」
「……話さなければ……ならないんだろう……君《フィーリア》にはもちろん……クリア、レス君……君たちに」
疲れた目で……これまでの罪を語るように……
「……神の子の翼が黒く染まった本当の理由を……俺が黒に染まった理由を……」
「……兄さん……」
不安そうなクリアの頭に俺は黙って手のひらを乗せる。
たぶん……聞き入れなければならない……
「……ある日、ミルザは巫女に選ばれて……神となる子を授かった……初めは普通にその役目を……そしてその子を立派な神へと育てるつもりだった……」
・
・
・
ミルザは、そんなリーヴァと……
何も無い……世界の中心地……ただまっさらな空間で……
ただ、日々を過ごした。
でも……やっぱり、ミルザも一人のただの女。
リーヴァもただの子供なんだ。
残りの生涯を……ただ、そんな空間で人々の生き様を見据えるなんてのは……
地獄だろ……
考えろ……考えろよ……
神、そんな肩書きを得た事で人としての生き方を放棄させられる。
そして、そんな代償に人より長く生きる権利を得られる。
だが、それは何することなく……
そんな肩書きを名乗るためだけに……
何も無い空間でただ……生き続けるだけだ。
そんなことに耐えかねた……
そんなことに見かねた……
ミルザは、リーヴァの手を取り……
その場所から逃げ出した。
そこから、ずっとずっと……北に……ただ、世界の果てを目指すように。
そんな彼女の裏切り行為……
そして、そんな彼女の行動は……リーヴァの翼を黒く染め上げる結果になる。
神としての役目、使命を放棄した裏切り者……
そんな見せしめのように、世界はその理はその翼を黒く染め上げる。
そして、俺は神聖教会に呼ばれ、
そんな裏切り者を捕らえ、処刑を命じられる。
7歳という年で……
長い……長い……旅だった……
俺は……ようやく、世界の果てで……彼女を追い詰めた。
これまでに……俺以外の人間《おって》が幾人も差し向けられていたのだろう。
彼女《ミルザ》の身体はボロボロで……
世界の最果て……
その先に何も無い……空間の崖の前で……
ただ、リーヴァの手を握り立っていた。
俺は……弓を構え……
何て彼女に声をかけたか……覚えていない。
ただ、彼女の降伏を望んだ……
抵抗しなかった……
ただ……自分はここで果てても……
代わりにこの子を……守ってほしいと……
無言でそのさびしい笑顔は語っていて……
だから……
犠牲を……探した。
此処に居る……これまでの歴史に築かれた神という歴史……
それに勝る、神という犠牲が必要だった。
そして、それをリーヴァを誕生する過去に植えつける必要があった。
それが、召喚者……
人々がすがる……そんな救世主……
異世界の人間……そんな人間が世界に立つ。
それは……救世主、神……奇跡を振るうに相応しい存在だったのだろう。
そして、エリード……
彼の本当の能力は……
時間転移……
たった一度だけ、その身体を過去を遡りその存在を転移させる。
そんな、彼に召喚……そんな力を持つ石とその利用方法を……彼には告げず、その情報を過去で出会った権力者に託すように言った。
そこで、誕生したのが……神代理《フィーリア》……あなただ。
そして、そこで得られるだろう……神の力……
それを……そんな神の力を吸い取るナイフで奪うことまでが想定だった。
思いの他、過去に居た神的存在《セシル》は優秀過ぎた……
それでも、邪神としての力を持ち帰ってくれたんだけどね……
・
・
・
「ここまで……したんだ……」
疲れた目を俺に向ける。
「ここで……今更……全部無駄でした……なんて言う訳にいかないだろ……」
クロノはその過去を語り、俺を見る。
「なぁ……フィーリア……お前は……彼を許せるか?」
クロノを許せるのかをフィーリアに問う。
「許さない……」
そう意地悪にフィーリアは笑い……
「なんて、台詞は……そんな神代理《ぎせい》を放棄し、貴方と他5人の人間を召喚《てんせい》させた私に、言える台詞ではありません」
少しだけ恨めしい目をクロノに向けながらもフィーリアが言う。
フィーリアを犠牲に……神という器、巫女という使命を放棄した。
エリードという犠牲に……そんな宿命に抗う力を手に入れた。
それでも……彼が願う望み……守りたいものを全て守る事は難しくて……
護るものを見誤るな……
護るものを見失うな……
閉ざした瞳を開き……
目に映る光景をはっきりと見渡す。
誰かをただ守る……
それが、この異世界で俺が望んだ能力《ねがい》だと言うのなら……
目に映る……彼女達《それら》を……
ただ……守り続けるだけだ。
それが俺の出来ること。
ソアラはトントンと傾けた頭を傾けた頭と逆の右手で叩く。
ツーと鼻から流れる鼻血をまた逆の手で拭う。
「せっかくノッテきたのいうのに、ちょっとちょーしに乗りすぎたかなぁーー」
ザザーと古いテレビが壊れたように、
映像は砂嵐に……
ザザーと言葉は音楽は雑音《ノイズ》のように……
それは神の言葉すら届かせない。
諸刃の剣……
とはいえ、この男の能力は神を……その領域を……
パンッと手のひらを合わせる大きな音……
壊れた白黒の世界、砂嵐の世界に光が戻る。
「全く……せっかく出てきたのだから……」
合掌した姿勢のまま……フィーリアを中心に視界と音が回復していく。
「領域解除《ルールブレイク》……」
「ははっ……あんま抵抗すんなよっ……くっそ、ノッテきた」
ムキになり、その音すらも騙そうとする。
それは、どれだけの彼の身体を犠牲にするのか……
「なーんちゃってね……」
ソアラはベーと舌をだしながら、両手をポケットに収める。
「顔見せ程度のつもりだったのに……随分とムキになってしまったよ」
敵対していたことが嘘のように、猫背の姿勢でシャカシャカとヘッドフォンから音楽の音を零しながら、俺の横を横切る。
「……騙されるなよ、映るモノ……聴こえるオトなんて……本物か嘘か……なんて誰にも気づけない……だーれもその真実を知らないんだ……」
目に映る速度で、俺の真横に移動し、その普通の声で俺に告げる。
「……かもな……」
俺はその言葉に返すように……
「所詮……そんな真意なんてもんは……本物も嘘かも……結局は、人間《それぞれ》の都合だ……」
そんな言葉に無言で前髪で隠れた瞳を俺に向ける。
「……結局、その言葉が正解でも正義だとしても……自分に都合が悪ければ、結局それは嘘になる……」
無言でソアラは俺の横を横切りながら……
「さっすが……噂に聞いた詐欺師《しれごとつかい》……中々にいい言葉《おと》を最後に聴けたよ」
「……弱者の言葉《あまえ》だよ……気にするな」
「聴こえたよ……君《その》……声《おと》……」
そして、俺の真横で手のひらを合わせるようにパンと音を立てると……
その姿を消す。
恐らく、この部屋からすでに退場している。
俺、フィーリア、クリア、レイムの四人は、その部屋に倒れるエリードを横切り、奥の部屋を目指す。
漆黒の弓を脇に挟み立っている男。
クリアとは正反対の黒い髪……
ゆっくりと振り返りこちらを見る。
「クロノ……クリアの兄……か」
ミルザという女は一緒じゃないのか……
俺は周囲を見渡しながら……
「そうか……邪神《かれ》は負けたか……」
なんとなく、その結末を見据えていたように。
相変わらずの疲れた目でこちらを見ている。
「……邪神っていえど、先の戦いでだいぶ魔力を消耗しちまってたようだしな……」
神域魔力《かみ》の加護があったとはいえ、ライトとセティが大暴れだったからな……
にしても、あの男《ソアラ》も十分に危険そうだが……
「それで……ここに現れたというのはさ……レス君、君は俺の敵となるのかい?」
「正直さ……よくわかってねぇんだ」
素直な意見を言う。
「異世界《せかい》そのものをさ……ようやく少しずつ受け入れて……守りたいものがあってさ……」
前を向いたまま、瞳をクリアの方に向ける。
その瞳に気づくようにクリアと目が合うと何故か照れるようにクリアが顔を伏せる。
「あげくに神代理だ……過去改変だ……神を養成する……そのための巫女……正直、考えるのも面倒くさいだけどな……」
頭をかきながら、クロノを見る。
「俺はさ……クリアの兄さん、今……あなたと守りたいものは多分だけど同じなんだ……」
「俺は……あんたの妹《クリア》を守りたい……そして、彼女《きつねめん》の事も助けたい……人として失格かもしれないけど、そのためなら邪神《かれ》がどうなろうと……その犠牲で済むのなら俺は悪いけど切り捨てるつもりだった……」
「正直さ……あんたのことも……」
切り捨てるつもりだった……と残酷な瞳を向ける。
この異世界での日が浅い俺が生意気だろうが……
それでも、日常を守れるというのなら……
俺の取ってのイレギュラーは排除する。
「でも……あんたはクリアもキツネ面の両方を守ろうとしているんだろ?」
クロノが疲れた目をこちらに向けて……
「……見つからない……レス君、見つけられないんだよ……」
疲れた目でうっすらと笑い、こちらを見る。
「俺は……俺が全部……放棄すれば……三人《かのじょたち》は救われるのか……」
クリア……キツネ面……それて、彼はさらにもう一人を……
「……あんたが、本気で彼女たちを救いたいってのは信じている……でも一つ聞きたい……」
クロノが無言で……俺の言葉を待つように目を向ける。
「本気で殺そうとは思っていなかっただろうけど……」
「なんで、クリア……あんたの母親をその矢で狙った?」
マシロさんを狙った……その矢を俺が結界で防いだ瞬間《シーン》を思い返す。
「妹……クリアに会いたかった……無事を確かめたかった……神代理が力を失った瞬間……巫女の器として、自慢じゃないけど、俺の妹は……クリアにその気さえあれば、俺より……ミルザより巫女《それ》に適した逸材なんだ……」
多分、その言葉に偽りは無くて……
「スノー家は、巫女としての適正が有り、必要であれば巫女《それ》にあてがわれる……それはスノー家には名誉であるのであろう……さて……本当にそんな器になる事は幸福なのだろうか……」
「世界は……神を必要としている……昔からね……」
その言葉にフィーリアが反応するように、自分が召喚された日の王の言葉を思い返す。
「争い、傷つけあい……犠牲を得て……そんな傲慢などこかの権力を振るったおっさんに誰が本気で命をかける、救いを求める……神秘、奇跡……そんな神なる存在……疲れ果てた人間にはそんな存在が必要だった……それを演じる人間《ぎせい》が必要だった……そして、そんな神をそんな養成を担当する巫女が必要だった」
「だけど、そんなモノに選ばれてしまえば残りの人生……全てを投げ出して残りの時間を全てそこにつぎ込むことになる……神代理……あなたには本当に申し訳ないとは思っている……どうしても、俺たちにはその犠牲《あなた》が必要だった……」
「……話さなければ……ならないんだろう……君《フィーリア》にはもちろん……クリア、レス君……君たちに」
疲れた目で……これまでの罪を語るように……
「……神の子の翼が黒く染まった本当の理由を……俺が黒に染まった理由を……」
「……兄さん……」
不安そうなクリアの頭に俺は黙って手のひらを乗せる。
たぶん……聞き入れなければならない……
「……ある日、ミルザは巫女に選ばれて……神となる子を授かった……初めは普通にその役目を……そしてその子を立派な神へと育てるつもりだった……」
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ミルザは、そんなリーヴァと……
何も無い……世界の中心地……ただまっさらな空間で……
ただ、日々を過ごした。
でも……やっぱり、ミルザも一人のただの女。
リーヴァもただの子供なんだ。
残りの生涯を……ただ、そんな空間で人々の生き様を見据えるなんてのは……
地獄だろ……
考えろ……考えろよ……
神、そんな肩書きを得た事で人としての生き方を放棄させられる。
そして、そんな代償に人より長く生きる権利を得られる。
だが、それは何することなく……
そんな肩書きを名乗るためだけに……
何も無い空間でただ……生き続けるだけだ。
そんなことに耐えかねた……
そんなことに見かねた……
ミルザは、リーヴァの手を取り……
その場所から逃げ出した。
そこから、ずっとずっと……北に……ただ、世界の果てを目指すように。
そんな彼女の裏切り行為……
そして、そんな彼女の行動は……リーヴァの翼を黒く染め上げる結果になる。
神としての役目、使命を放棄した裏切り者……
そんな見せしめのように、世界はその理はその翼を黒く染め上げる。
そして、俺は神聖教会に呼ばれ、
そんな裏切り者を捕らえ、処刑を命じられる。
7歳という年で……
長い……長い……旅だった……
俺は……ようやく、世界の果てで……彼女を追い詰めた。
これまでに……俺以外の人間《おって》が幾人も差し向けられていたのだろう。
彼女《ミルザ》の身体はボロボロで……
世界の最果て……
その先に何も無い……空間の崖の前で……
ただ、リーヴァの手を握り立っていた。
俺は……弓を構え……
何て彼女に声をかけたか……覚えていない。
ただ、彼女の降伏を望んだ……
抵抗しなかった……
ただ……自分はここで果てても……
代わりにこの子を……守ってほしいと……
無言でそのさびしい笑顔は語っていて……
だから……
犠牲を……探した。
此処に居る……これまでの歴史に築かれた神という歴史……
それに勝る、神という犠牲が必要だった。
そして、それをリーヴァを誕生する過去に植えつける必要があった。
それが、召喚者……
人々がすがる……そんな救世主……
異世界の人間……そんな人間が世界に立つ。
それは……救世主、神……奇跡を振るうに相応しい存在だったのだろう。
そして、エリード……
彼の本当の能力は……
時間転移……
たった一度だけ、その身体を過去を遡りその存在を転移させる。
そんな、彼に召喚……そんな力を持つ石とその利用方法を……彼には告げず、その情報を過去で出会った権力者に託すように言った。
そこで、誕生したのが……神代理《フィーリア》……あなただ。
そして、そこで得られるだろう……神の力……
それを……そんな神の力を吸い取るナイフで奪うことまでが想定だった。
思いの他、過去に居た神的存在《セシル》は優秀過ぎた……
それでも、邪神としての力を持ち帰ってくれたんだけどね……
・
・
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「ここまで……したんだ……」
疲れた目を俺に向ける。
「ここで……今更……全部無駄でした……なんて言う訳にいかないだろ……」
クロノはその過去を語り、俺を見る。
「なぁ……フィーリア……お前は……彼を許せるか?」
クロノを許せるのかをフィーリアに問う。
「許さない……」
そう意地悪にフィーリアは笑い……
「なんて、台詞は……そんな神代理《ぎせい》を放棄し、貴方と他5人の人間を召喚《てんせい》させた私に、言える台詞ではありません」
少しだけ恨めしい目をクロノに向けながらもフィーリアが言う。
フィーリアを犠牲に……神という器、巫女という使命を放棄した。
エリードという犠牲に……そんな宿命に抗う力を手に入れた。
それでも……彼が願う望み……守りたいものを全て守る事は難しくて……
護るものを見誤るな……
護るものを見失うな……
閉ざした瞳を開き……
目に映る光景をはっきりと見渡す。
誰かをただ守る……
それが、この異世界で俺が望んだ能力《ねがい》だと言うのなら……
目に映る……彼女達《それら》を……
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こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。
そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。
さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
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