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異世界編ー瘴気落

リザ=エンド

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 多分……彼女のその能力《ちから》は全てを


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 15年前……

 異世界《こっち》に来てから5年近くたっただろうか……

 リエンが自宅とは別に仕事の拠点としている建物。
 そこで、マナトは紙にペンを忙しそうに走らせている。

 「学園……?」
 そうリエンがマナトに尋ねる。

 「うん……異世界《こっち》には無いみたいだからね……」
 リエンがマナトが懸命に書いている資料を見ながら……

 「こっちね……君の言うは、マナトが居た世界《いせかい》のことかい?」
 5年たった今でも、元居た世界を異世界と呼ばれるのは不思議なものだ。

 「しかし……凄いな、正直理解できていないが……子供の頃から学や武術を学べるような場所を作るということか?」
 そう資料を見ながらリエンが推測して言う。

 「現世《いせかい》にあったものをわたしがこちらで再現しようとするだけさ……」
 そうリエンに言う。

 「……しかし、どうして……確かにこれを実現できれば相当な施設だ、一気に億万長者にでもなれる企画だよ」
 そう褒めながらも、不服そうにリエンがマナトを見る。

 「……君のこの書類から見るに、余りにも過ぎる……もっと標的を金持ちに絞るべきではないのかい?」
 そう……入学金を多額に設定するべき、今、この世界で学園《それ》を実現すれば、それだけの価値があるものだとリエンが言う。

 「……リエン、実にそこなんだよ」
 そうマナトは寂しそうな目で笑い……

 「わたしがこの世界に来てからの数年……たった数年で多くの悲劇を見てきた……不幸《さわりおち》を見てきた……たったの一瞬で人生《すべて》が終わる瞬間を見てきた……」
 そう……寂しそうに……

 「……だから、一人でも多く誰かを救うんだ……能力を知り……体も心も鍛えて魔力に負けない身体を作らなきゃならない……それは金持ちだから……魔力が強いからではなく……むしろ、劣勢《そうじゃない》人たちを助けないとならないんだっ」
 そう力説する。

 「早々、立派だぜ……マナト」
 いつの間にかマナトの後ろに居たラーク=フレイムがマナトの肩に手を回して、
 そのまわした手でマナトの肩をポンポンと2回叩く。

 「顔も剣術も勇者なんて肩書きも……人生勝ち組の人間にはわかりゃしねーんだ」
 そう、リエンの存在を否定するようにラークが首をふりながら言う。

 「僕は別に顔も良くなければ……魔力《つよさ》に置いても、ラーク君も十分に強い、そして勇者なんて肩書きに縋るような真似もしたつもりは無い」
 そうはっきりと言い返す。

 「……無自覚は怖いねぇ、出なければお前がモテまくって、俺がモテないのはおかしいだろ」
 そうジロリと瞳だけをリエンに向ける。

 「で、ラーク、君は僕にそんな言いがかりを言いたくてこんな場所に?」
 そうリエンがラークに尋ねる。

 「いや……あの女性がマナトは何処だぁって?」
 そうラークが指す方を見ると、無表情な女性が一人立っている。

 「……リザ?」
 そうマナトがその女性の名を呟く。

 「何回も言った……勝手にどっかに行かないで」
 そう無表情にリザがマナトの前に来て言う。

 正直……ここに来てから5年の間……
 彼女の感情らしい感情を目にしたことがない。
 あんな生活をしてきたのだ……理解はできるが……
 わたしに彼女を笑わせるだけの資格《ちから》が無いのも理解できるが……

 それは、どこか不気味《こわい》くらいに……

 「それじゃ、今日のところはこの辺で……」
 マナトは座っていた椅子から立ち上がると

 リエンが再びマナトの資料を興味深そうに見ながら……

 「マナト、君に欲が無いのは残念だが……この話は私でよければ力になる……」
 そう少しだけ残念そうな顔で……
 もっと金儲けの欲を出していれば、ブレイブ家として協力できた。
 しかし、その平等《やさし》過ぎる企画では自分の資産《ポケットマネー》が限界だ……

 「リエン……ありがとう、多分……お願いすることになる」
 そう言いながら、リザの手を取る。

 「うへぇ、マナト……お前も俺の敵な」
 そう、手を繋ぎその場を離れるマナトの背中にラークが台詞を投げ捨てる。

 無表情に……ただその手に導かれるままに……
 何処かに心を捨ててしまったかのように……
 その理由などいまのマナトにはわからなくて……

 「……どうかした?」
 黙って振り返り優しく笑いかける表情でリザを見ていた。
 無表情に……それでもその行為が不思議そうにリザが見る。

 「ん?その果実は?」
 そう言葉をかける頃には一齧りしているリザに尋ねる。

 「……拾った、食べる?」
 そうマナトも食べる?と自分が一度齧ったその果実をマナトに差し出しながら言う。

 「……拾った?どこで?」
 そううっすらと嫌な予感がする……
 5年も一緒にいる……こういうのは初めてじゃない……

 「ドロボーーーっ」
 露店の広がる道……奥から走ってくる一人の男。

 「……リザ……またなの?」
 そう、右手で両目を塞ぐように呆れた表情をするマナト。

 「……凄い剣幕で走ってくる人が居るけどどうするの?」
 そのマナトの返しに、彼女はやはり無表情に……

 「……逃げる」
 そう呟くように答える。


 ・・・

 リエンの仕事を手伝ったりして、この世界のお金は少しは手に入れていた。
 支払いをすませ、再度マナトは店主に頭を下げる。

 そんなマナトの苦労も知らずにリザはトコトコと一人歩き……
 そして、空をぼぅと眺めている。

 立ち去る店主を確認し、マナトは頭をあげると、
 いつの間にか隣に居ないリザを探すように振り替えると……

 ……スンと鼻から息を噴出すようにため息を漏らし、
 ゆっくりと空を眺めるリザの後ろに立つ。
 たまにこうやって彼女は黙って空を見る。
 自分には見えない何かを見ているのだろうか?

 「星でも……見えた」
 まだ、日が昇っている時間……
 見えるわけはないが……

 「塊……瘴気塊《あれ》が落ちたら……世界は終わるかな?」
 そう……マナトには見えない何かを見ながら……
 その疑問をマナトに投げかける。

 「……塊……?」
 自分には見えない何かを……そんな能力が……?
 そういえば……この5年……
 自分は彼女の力を知らずにいた……

 「……リザ……君の能力は?」
 その質問に……やはり無表情に……
 喜怒哀楽……物事の善悪すらも彼女には平等《むかち》で……
 たぶん……その能力のせいだったのだろう……

 「……障落ちた……」
 彼女の瞳はひつの間にかマナトの後ろを見ていて……

 「えっ……障り……落ち?」
 そう、少し会話の理解が追いつかなかったが、その背に顔を向ける。

 一人の男が障落ちし化け物に姿を変える。

 「倒して……」
 そうリザの言葉に少しマナトが驚く。
 普段なら、彼女はそんな誰かの幸福や不幸に目を向けない。
 常に無表情で……ただ我侭《むかんしん》に向き合う。

 このまま放っておくわけにはいかない……
 その被害はさらなる不幸《さわりおち》を産む。

 少しだけ慣れてきた念動力《のうりょく》……
 宙に念動力の魔力……青白い光が発生する。
 この世界で見た魔法を頭の中でイメージする。

 念で炎の槍を形作るとその槍をさらに念動力で化け物に向かい飛ばす。
 化け物が消滅する。
 同時に、瘴気がその場に散らばる。

 その瘴気は時間と共に再び形となり化け物となるか……
 魔王という器に吸収されてしまうか……そうリエンに教えられた。

 トコトコとリザがマナトの前を歩き……
 化け物の居た場所まで歩く。

 無表情に黙って……右手を差し出すと……

 「リ……ザ……?」
 その右手に化け物から散った瘴気が吸い込まれていく。

 「……憎悪《しょうき》を取り込める」
 そう無表情に言う。
 障落ち……恐怖や怒り、負の感情が爆発した時に増幅された魔力に耐え切れず主にその現象に落ちる。
 そうして、バケモノになった人間が消滅した時に憎悪が瘴気になって世界に残る。
 その瘴気を吸い上げることが彼女《リザ》の能力だというのだろうか……

 「でも……それを自分の魔力に変換する力はない」
 そう無表情に……
 戦う力は無く……ただ瘴気を吸い込むだけだと。

 「でも……マナト、手を貸して」
 そうマナトの手を取ると……

 「……っう」
 恐怖……憎しみのような感情が一瞬体内を駆け巡る。

 「今、取り込んだ瘴気をマナトに押し付けた」
 そうリザが説明する。
 自分の魔力にはできないが……
 その瘴気を他人に渡しそれが力になる……

 宇宙《そら》にある……塊が……
 彼女がこれまでに蓄えた……己自身が溜め込んできた……憎悪《しょうき》だと言うのなら……
 理不尽な世界がこれまでに産んできた瘴気《うらみ》全てが彼女がそんな力を持っているというと言うのなら……

 全うな学園を築こうとしている、その時のマナトは考えもしなかったが……


 ・
 ・
 ・



 レスも……セティも、もしかしたら来たばかりのナキも疑問だったのではないだろうか?
 
 に異世界《こちら》に来る時に渡された能力《まりょく》……
 何処か他の召喚者よりも劣っているようにも見えた。
 そんな彼女の力を授かっていたとすればなおさらだ……

 何か別なところにその力を使っていたとすれば……

  
 青空のした……
 周りには誰もいないそんな場所で……
 マナトは空を眺め、自分には見えない何かに手を伸ばし……


 「瘴気塊《そら》を落とす……異世界《すべて》を終わらせよう……リザ」
 そう疲れた目で、マナトは優しく笑った。

 
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