42 / 213
学園編-学園武術会
昔語り(1)
しおりを挟む
・
・
・
3年前……
この学園に入学する数日前の話だ……。
「ねぇ、待ってってばクレイちゃんってばぁ~」
のんびりした疲れ果てた声を発しながら寺の石段をのぼってくる白髪の少女。
「これくらいの階段のぼるのに毎回へばるなっ……てかあんたの家だろ」
そう隣で息を切らす少女を一括する。
「違うよ~、クレイちゃんが歩くの早いのぉ」
そう文句を言う。
「遅れると、また師が激怒して練習を追加されるぞ」
その言葉にヨウマの顔が真っ青になる。
「ほら、嫌なら休んでないで足を動かしな」
そう言って小屋をめがけ歩き出す。
「で……でもぉ、ツキヨちゃんが」
そうヨウマが後ろを振り返りながら……
「ん……ツキヨは?」
そういえば、一緒に居たはずのツキヨの姿がない。
「くまちゃんが呼んでるんだって……急にどっかいっちゃったの」
そうヨウマが返す。
「あぁ~もぅ、何故止めなかった……」
そう頭を掻き毟りながら呆れたように言う。
「だってぇ……でも何処行ったんだろ、わたしには熊ちゃんなんて見えなかったけど……」
そう不思議そうな顔をしている。
「最近できた雑貨屋だろっ、あそこには奴《ツキヨ》の好きそうな縫いぐるみがごまんとある」
そう言い、ヨウマを睨むと……
「頭を引っぱたいて早く連れ戻して来い」
そうヨウマに言う。
「……連れ戻してって……」
そう後ろを振り返り、せっかくのぼった石段を見下ろし……
「えーーーーーっ」
絶望の声をあげる。
ここ一番の大きな声……出そうと思えば出せるんだなと……改めて思う。
「早く伝えなかったあんたも悪い……師には私から話しておくから、あんたには無理だろ……」
きっとヨウマが、説明を終える頃には日が暮れている……
「---クレイちゃんのおにぃ~っあくまぁ~っ………」
むくれ顔でせっかくのぼった石段を降りながらクレイに向かい不満を口にする。
そんな言葉を気にすることな……
「………ぺったんこぉーーーッ」
その言葉にクレイの足がピタリと止まりっ
「ふーーーんだ……いっつもいっつも……」
ぶつぶつとつぶやくヨウマ。
ポンポンと不意に肩を叩かれる。
「ふぇ?」
不思議そうに振り返りかえると同時に……
「きゃんっ」
頭上から10tの重りでも落ちてきたかと勘違いしそうな拳固が振り落とされる。
「さっきのフレーズを私の前で二度と使うなっ……いいね……」
そう言って、再びそれだけのために最速で降りてきただろう石段を軽々と上っていく。
「……そのまま、クレイちゃんがツキヨちゃんを連れ戻しに行ったほうが絶対に早いよぉ」
そう……腫れ上がったコブをさすりながらヨウマが呟く。
「まったく……私はまだ15歳だぞ……きっと、これから大きく……ん?」
先ほどヨウマに言われた言葉を気にしながら、一足先に師の待つ小屋に向かう。
客……?小屋に入ると何やら師と見知らぬ男が二人話をしている。
「そんな……危険なものを私の弟子や娘にやらせろと?」
そんな師、フウマ=カスミの声がする。
思わずそこで足を止め、彼女たちの居る部屋の死角で立ち止まると、聞き耳を立てる。
「……カスミ家……このまま終わってしまって宜しいのですか?」
そう少し年配だろう男の声がする。
「カスミ家に伝わる妖刀ダリア……果たして……使いこなせる人間が、このカスミ家にいるのですか?」
その言葉に……
「私……出来損ないの娘には無理でも……ツキヨやクレイが居る……彼女たちなら将来は……」
……そう自信のなさそうな声で……
「それに……妖刀《これ》は……危険だ……触れてはならない領域の障りだ……」
そう付け加える。
「シラヌイ家、ハーモニー家……刀術に優れた家計はいくつもある……今のままではそれを越えることは愚か、並ぶ事すら適わないのではないのですか?」
その言葉に……
「夫のカスミ家を侮辱するかっ!」
手にした刀を男に突きつける。
すっと隣で座っていた男が立ち上がるが……
「ニアン……座っていなさい」
そう立ち上がった男をなだめる。
「その亡き夫のためにも……その妖刀《ちから》に触れるべきではないのですか?」
そう……男は強気に返す。
「先ほど差し上げた二つの刀は、妖刀ダリア……ほどの代物ではありませんが……二つの妖刀です……あなたがた刀術使いだからこそ出来る刀《のうりょく》の上書き……せっかくの妖刀《ちから》を捨て置くなんて真似……本当に望まれるのですか?」
その言葉に……
「だからって……私の弟子を……娘をその実験体に差し出せと……」
そうフウマが困惑する。
「我が学園では……そんな彼女たちのサポートも実現できるんですよ……障りを引き出し、それを押さえ付け……能力を限界まで引き上げる……」
そうフウマを誘い込む……
「……障りを制御し……能力を引き上げる……それを会得すれば……この妖刀《ダリア》も?」
そう……目の前の妖刀に……手を伸ばす。
「……えぇ、その気があるなら、あなたをその妖刀に相応しい能力者に学園《わたし》たちが立ち会いましょう」
師は多分……すでに……ずっと前から……魅せられていたのだろう……
その妖刀《ちから》に……
「悪い話ではないでしょう?」
そう言って……男は立ち上がり……
「良い返事をお待ちしております」
そう残し部屋を出て行く。
私の前を気にすることなく通り過ぎる。
初めから盗み聞きしていたことすら知っていたかのように……
同じ年くらいの少年……
ニアンと呼ばれた男だろうか……
一瞬、クレイを睨みつけるように見て……
彼もまた何もすることなく、その場を後にする。
クレイが変わるように部屋に入る。
妖刀ダリアを魅入るように立つ師に……
「……師匠……馬鹿なこと考えてないよね」
ずっと我慢していたのだろう……
ずっと手にしたかったのだろう……
諦めていたものがそこにある……
「大丈夫……お前たちには渡さない」
そう……うれしそうに呟いた。
・・・
しばらくの沈黙後……師は黙って部屋を出て行った。
クレイはその後もしばらくその場に立ち竦んでいた……
「ただいまだよぉ、クレイちゃーん」
間の抜ける声が後ろからする。
「ちょっと聞いてよぉ、クレイちゃーん、ツキヨちゃんったらねぇー」
早々に愚痴りだすヨウマ。
師が私たちの誰かをあの妖刀の後継者にしようとしていたことは知っていた。
それは師に弟子入りした7年以上前から……
ただ……それが叶わぬまま終わればいいと思っていた……
でも……それが不可能なら……犠牲になるのは私でいい……
この二人は……最後まで無縁で終わらせる……
「クレイ、見て、クマちゃん」
ずいっと手にした熊の縫いぐるみをクレイにかざすように見せ付ける。
「へぇーすごい、すごい」
我ここにあらずで……クレイは適当に返事を返す。
「ヨウマが、買ってくれた」
そうツキヨが言う。
「ちがうんだよぉ、ツキヨちゃんってばね、そのクマちゃんの前から全く動かないんだよぉ~、私だってお小遣い少ないのに~、でもぉこのままじゃ、遅くなって帰ったらねぇ~、クレイちゃんが私の頭をねぇ~がつーんってするでしょぉ?」
そうヨウマが嘆いている。
「あれぇ~、なにこの刀?」
そうヨウマがふらふらと先ほどの客が置いていったであろう刀に近寄る。
「触れるなっ」
少し強い口調で言う。
びくっとヨウマが身体を震わせて止まる。
「悪い……」
驚かせるつもりはなかった……素直にそのことを詫びる。
「何処かの素行の悪い客の忘れ物だ……そんなものに触れるな」
そう二人に言い聞かせる。
その妖刀《のろい》は……きっと私たちを別つのだろう……
でも……私がその妖刀《さわり》に負けなければ……
きっとまためぐり合える……だから……
わたしがその妖刀《のろい》を打ち負かせるその日まで……
二人《おまえたち》は何も知らずにいろ……
すべて私が請け負う……
ツキヨ……あんたがどれだけ私より優れていようと……
その役目は譲らない……
「……さっさと部屋に戻るぞ」
そうツキヨとヨウマに言う。
「う……うん……って、え?クレイちゃん……今日の稽古は?」
そうヨウマがクレイに尋ねる。
「今日は中止……いいから部屋に戻れ」
その言葉に……
「えっえっ?……稽古無しは嬉しい……喜ばしいけどねぇ~、わたし、何で石段何往復もしてツキヨちゃんを呼びに……わたしのお小遣い……あれれぇ~?」
ヨウマの嘆く声がするが無視をする。
この関係を守りたかったんだ……
誰のためでもない……きっと自分のために……
そう……これは私の我がままだ……
それなのに……だからこそ……
二人《あんたら》はこっちに来るなよ……
そう……ツキヨ……に出会って私はすでにそこに踏み込んでいた……
その才能に嫉妬し……焦って……
そんな私の役目を……あんたが背負っちまうんじゃないかって……
だから……ツキヨ……あんたが憧れる呪《ちから》は……
私があんたに嫉妬して得た不正《のろい》だ……
軽蔑するか……あんたが憧れた能力《わたし》を……
間の抜けた……いつだってほっておけない……ヨウマ……
才あるのに……可愛いものに目がなくて……それでもこんな私に憧れてくれる……ツキヨ……
そんな日常を守りたかったんだ……
そのために犠牲が必要だっていうのなら……
師が……一人生贄を求めているのなら……
いいよ……
名乗り出るさ……私が……
だから……二人はそのままでいろ……
こっちに来るな……
私の決意を鈍らせるな……
そこに居ろ……
こっちに来るのは私だけでいい……
・
・
・
「その名を語り、妖魔《おに》の首を刈れ……鬼丸国綱《オニマルクニツナ》」
結局……私が守りたかった三人《わたしたち》は散り散りになって……
遠ざけようと思った妖刀《のろい》は三つとも揃いに揃い……
あの日の私の思いも……今日までの努力《おちる》事も全てが無駄で……
思わず膝から崩れ落ちそうになるけれど……
「師よ……さぞ、私をお恨みでしょう……だから……その呪いは私にだけ差し向けろ……」
そう……ヨウマに宿る刀を見る。
「あんたたちはこっちに来るな……」
そう呟く……
「いつまでも……間の抜けたお前で居ろ……師の理想《ぎせい》は私でいい……」
そう目の前の妖魔《デーモン》化したヨウマに言う。
「いつまでも……私《いつわり》に憧《だまさ》れていろ……」
そう後ろの昔私に憧れていた女性に言う。
「師よ……3年待たせた……決着を付けよう……悪いが……3年越しのあんたの夢……私がぶち壊すよ」
そうクレイは強く刀を握りなおす。
・
・
3年前……
この学園に入学する数日前の話だ……。
「ねぇ、待ってってばクレイちゃんってばぁ~」
のんびりした疲れ果てた声を発しながら寺の石段をのぼってくる白髪の少女。
「これくらいの階段のぼるのに毎回へばるなっ……てかあんたの家だろ」
そう隣で息を切らす少女を一括する。
「違うよ~、クレイちゃんが歩くの早いのぉ」
そう文句を言う。
「遅れると、また師が激怒して練習を追加されるぞ」
その言葉にヨウマの顔が真っ青になる。
「ほら、嫌なら休んでないで足を動かしな」
そう言って小屋をめがけ歩き出す。
「で……でもぉ、ツキヨちゃんが」
そうヨウマが後ろを振り返りながら……
「ん……ツキヨは?」
そういえば、一緒に居たはずのツキヨの姿がない。
「くまちゃんが呼んでるんだって……急にどっかいっちゃったの」
そうヨウマが返す。
「あぁ~もぅ、何故止めなかった……」
そう頭を掻き毟りながら呆れたように言う。
「だってぇ……でも何処行ったんだろ、わたしには熊ちゃんなんて見えなかったけど……」
そう不思議そうな顔をしている。
「最近できた雑貨屋だろっ、あそこには奴《ツキヨ》の好きそうな縫いぐるみがごまんとある」
そう言い、ヨウマを睨むと……
「頭を引っぱたいて早く連れ戻して来い」
そうヨウマに言う。
「……連れ戻してって……」
そう後ろを振り返り、せっかくのぼった石段を見下ろし……
「えーーーーーっ」
絶望の声をあげる。
ここ一番の大きな声……出そうと思えば出せるんだなと……改めて思う。
「早く伝えなかったあんたも悪い……師には私から話しておくから、あんたには無理だろ……」
きっとヨウマが、説明を終える頃には日が暮れている……
「---クレイちゃんのおにぃ~っあくまぁ~っ………」
むくれ顔でせっかくのぼった石段を降りながらクレイに向かい不満を口にする。
そんな言葉を気にすることな……
「………ぺったんこぉーーーッ」
その言葉にクレイの足がピタリと止まりっ
「ふーーーんだ……いっつもいっつも……」
ぶつぶつとつぶやくヨウマ。
ポンポンと不意に肩を叩かれる。
「ふぇ?」
不思議そうに振り返りかえると同時に……
「きゃんっ」
頭上から10tの重りでも落ちてきたかと勘違いしそうな拳固が振り落とされる。
「さっきのフレーズを私の前で二度と使うなっ……いいね……」
そう言って、再びそれだけのために最速で降りてきただろう石段を軽々と上っていく。
「……そのまま、クレイちゃんがツキヨちゃんを連れ戻しに行ったほうが絶対に早いよぉ」
そう……腫れ上がったコブをさすりながらヨウマが呟く。
「まったく……私はまだ15歳だぞ……きっと、これから大きく……ん?」
先ほどヨウマに言われた言葉を気にしながら、一足先に師の待つ小屋に向かう。
客……?小屋に入ると何やら師と見知らぬ男が二人話をしている。
「そんな……危険なものを私の弟子や娘にやらせろと?」
そんな師、フウマ=カスミの声がする。
思わずそこで足を止め、彼女たちの居る部屋の死角で立ち止まると、聞き耳を立てる。
「……カスミ家……このまま終わってしまって宜しいのですか?」
そう少し年配だろう男の声がする。
「カスミ家に伝わる妖刀ダリア……果たして……使いこなせる人間が、このカスミ家にいるのですか?」
その言葉に……
「私……出来損ないの娘には無理でも……ツキヨやクレイが居る……彼女たちなら将来は……」
……そう自信のなさそうな声で……
「それに……妖刀《これ》は……危険だ……触れてはならない領域の障りだ……」
そう付け加える。
「シラヌイ家、ハーモニー家……刀術に優れた家計はいくつもある……今のままではそれを越えることは愚か、並ぶ事すら適わないのではないのですか?」
その言葉に……
「夫のカスミ家を侮辱するかっ!」
手にした刀を男に突きつける。
すっと隣で座っていた男が立ち上がるが……
「ニアン……座っていなさい」
そう立ち上がった男をなだめる。
「その亡き夫のためにも……その妖刀《ちから》に触れるべきではないのですか?」
そう……男は強気に返す。
「先ほど差し上げた二つの刀は、妖刀ダリア……ほどの代物ではありませんが……二つの妖刀です……あなたがた刀術使いだからこそ出来る刀《のうりょく》の上書き……せっかくの妖刀《ちから》を捨て置くなんて真似……本当に望まれるのですか?」
その言葉に……
「だからって……私の弟子を……娘をその実験体に差し出せと……」
そうフウマが困惑する。
「我が学園では……そんな彼女たちのサポートも実現できるんですよ……障りを引き出し、それを押さえ付け……能力を限界まで引き上げる……」
そうフウマを誘い込む……
「……障りを制御し……能力を引き上げる……それを会得すれば……この妖刀《ダリア》も?」
そう……目の前の妖刀に……手を伸ばす。
「……えぇ、その気があるなら、あなたをその妖刀に相応しい能力者に学園《わたし》たちが立ち会いましょう」
師は多分……すでに……ずっと前から……魅せられていたのだろう……
その妖刀《ちから》に……
「悪い話ではないでしょう?」
そう言って……男は立ち上がり……
「良い返事をお待ちしております」
そう残し部屋を出て行く。
私の前を気にすることなく通り過ぎる。
初めから盗み聞きしていたことすら知っていたかのように……
同じ年くらいの少年……
ニアンと呼ばれた男だろうか……
一瞬、クレイを睨みつけるように見て……
彼もまた何もすることなく、その場を後にする。
クレイが変わるように部屋に入る。
妖刀ダリアを魅入るように立つ師に……
「……師匠……馬鹿なこと考えてないよね」
ずっと我慢していたのだろう……
ずっと手にしたかったのだろう……
諦めていたものがそこにある……
「大丈夫……お前たちには渡さない」
そう……うれしそうに呟いた。
・・・
しばらくの沈黙後……師は黙って部屋を出て行った。
クレイはその後もしばらくその場に立ち竦んでいた……
「ただいまだよぉ、クレイちゃーん」
間の抜ける声が後ろからする。
「ちょっと聞いてよぉ、クレイちゃーん、ツキヨちゃんったらねぇー」
早々に愚痴りだすヨウマ。
師が私たちの誰かをあの妖刀の後継者にしようとしていたことは知っていた。
それは師に弟子入りした7年以上前から……
ただ……それが叶わぬまま終わればいいと思っていた……
でも……それが不可能なら……犠牲になるのは私でいい……
この二人は……最後まで無縁で終わらせる……
「クレイ、見て、クマちゃん」
ずいっと手にした熊の縫いぐるみをクレイにかざすように見せ付ける。
「へぇーすごい、すごい」
我ここにあらずで……クレイは適当に返事を返す。
「ヨウマが、買ってくれた」
そうツキヨが言う。
「ちがうんだよぉ、ツキヨちゃんってばね、そのクマちゃんの前から全く動かないんだよぉ~、私だってお小遣い少ないのに~、でもぉこのままじゃ、遅くなって帰ったらねぇ~、クレイちゃんが私の頭をねぇ~がつーんってするでしょぉ?」
そうヨウマが嘆いている。
「あれぇ~、なにこの刀?」
そうヨウマがふらふらと先ほどの客が置いていったであろう刀に近寄る。
「触れるなっ」
少し強い口調で言う。
びくっとヨウマが身体を震わせて止まる。
「悪い……」
驚かせるつもりはなかった……素直にそのことを詫びる。
「何処かの素行の悪い客の忘れ物だ……そんなものに触れるな」
そう二人に言い聞かせる。
その妖刀《のろい》は……きっと私たちを別つのだろう……
でも……私がその妖刀《さわり》に負けなければ……
きっとまためぐり合える……だから……
わたしがその妖刀《のろい》を打ち負かせるその日まで……
二人《おまえたち》は何も知らずにいろ……
すべて私が請け負う……
ツキヨ……あんたがどれだけ私より優れていようと……
その役目は譲らない……
「……さっさと部屋に戻るぞ」
そうツキヨとヨウマに言う。
「う……うん……って、え?クレイちゃん……今日の稽古は?」
そうヨウマがクレイに尋ねる。
「今日は中止……いいから部屋に戻れ」
その言葉に……
「えっえっ?……稽古無しは嬉しい……喜ばしいけどねぇ~、わたし、何で石段何往復もしてツキヨちゃんを呼びに……わたしのお小遣い……あれれぇ~?」
ヨウマの嘆く声がするが無視をする。
この関係を守りたかったんだ……
誰のためでもない……きっと自分のために……
そう……これは私の我がままだ……
それなのに……だからこそ……
二人《あんたら》はこっちに来るなよ……
そう……ツキヨ……に出会って私はすでにそこに踏み込んでいた……
その才能に嫉妬し……焦って……
そんな私の役目を……あんたが背負っちまうんじゃないかって……
だから……ツキヨ……あんたが憧れる呪《ちから》は……
私があんたに嫉妬して得た不正《のろい》だ……
軽蔑するか……あんたが憧れた能力《わたし》を……
間の抜けた……いつだってほっておけない……ヨウマ……
才あるのに……可愛いものに目がなくて……それでもこんな私に憧れてくれる……ツキヨ……
そんな日常を守りたかったんだ……
そのために犠牲が必要だっていうのなら……
師が……一人生贄を求めているのなら……
いいよ……
名乗り出るさ……私が……
だから……二人はそのままでいろ……
こっちに来るな……
私の決意を鈍らせるな……
そこに居ろ……
こっちに来るのは私だけでいい……
・
・
・
「その名を語り、妖魔《おに》の首を刈れ……鬼丸国綱《オニマルクニツナ》」
結局……私が守りたかった三人《わたしたち》は散り散りになって……
遠ざけようと思った妖刀《のろい》は三つとも揃いに揃い……
あの日の私の思いも……今日までの努力《おちる》事も全てが無駄で……
思わず膝から崩れ落ちそうになるけれど……
「師よ……さぞ、私をお恨みでしょう……だから……その呪いは私にだけ差し向けろ……」
そう……ヨウマに宿る刀を見る。
「あんたたちはこっちに来るな……」
そう呟く……
「いつまでも……間の抜けたお前で居ろ……師の理想《ぎせい》は私でいい……」
そう目の前の妖魔《デーモン》化したヨウマに言う。
「いつまでも……私《いつわり》に憧《だまさ》れていろ……」
そう後ろの昔私に憧れていた女性に言う。
「師よ……3年待たせた……決着を付けよう……悪いが……3年越しのあんたの夢……私がぶち壊すよ」
そうクレイは強く刀を握りなおす。
0
お気に入りに追加
206
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~
暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。
しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。
もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~
和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】
「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」
――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。
勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。
かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。
彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。
一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。
実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。
ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。
どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。
解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。
その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。
しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。
――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな?
こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。
そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。
さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
(他サイトでも投稿中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる