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17・恥ずかしい衣装

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淫らな夢を見ていた。

ふわふわとした、形が定まらない夢だった。色々な情景が入り乱れた世界を彷徨いながら、リオはひたすら発情していた。身体が疼き、甘ったるい気持ちで心が満たされる。ただそれだけの夢。

ふと、懐かしい人々の影が見えた。敬愛すべき異母兄たちだ。兄上様たちともう一度会いたい。あって、また幸せな生活に戻りたい。リオはそう思って手を伸ばすが、届くことなく兄たちの姿は溶け崩れた。すこしだけ悲しい気持ちになったが、すぐに気持ちよくなった。

――リオ王子。

誰かに呼ばれたような気がしたが、リオはそれを聞き流した。ただ彼はぬるま湯のような快楽に浸って、夢の世界を彷徨っていた。

しかし、夢というものは必ず終わる。

「起きろ」

聞きなれた冷たい声で、リオはぼんやりと覚醒した。

ヒトデが蠢く水槽の中で気を失ったはずだが、いつの間にかいつもの部屋の寝台の上に寝かされていた。なんだか、ひどく犯された直後のように尻穴が開いている感覚がするが、身体はさらさらに乾いており凌辱の痕跡はなにもない。
――が、それよりも大きな異変に気付いて、リオはがばりと跳ね起きた。

「な、なんだこの格好は!」

リオは服を、否、服とは到底言えない何かを着せられていた。

一言で言えば、薄絹で作られた下着だ。それも女物の。ひらひらとしたキャミソールに、両サイドで結ぶタイプの下穿き。けれど、肝心なところが隠せていない。乳首のところはそれぞれ縦にスリットが入っていて、布と布の隙間から勃起した肉粒が覗いている。下穿きも布面積が小さすぎて、睾丸しか包み込めていない。ペニスと肛門は剥き出し状態だ。そもそも、布地だって薄すぎて、リオの肌が透けて見えてしまっている。
だというのに、腕輪や足輪、ネックレスなど、装飾品類はたっぷりとつけられていて、リオが身動ぎするだけでしゃらしゃらと澄んだ音を立てた。

裸よりも恥ずかしい恰好をさせられていると気付き、リオは耳の先まで真っ赤になった。

「なんっ……なん、で、こんな……」

「全身を洗った甲斐があったな。良く似合っているぞ」

寝台の横に立つアーネストが平然と言い放つ。彼の手の中には、宝石箱らしい重厚かつ華美な小箱があった。

リオはアーネストにつかみかかろうとしたが、ぐらりと視界が揺れて再びシーツの上に倒れ伏した。度重なる疲労と極度の睡眠不足から、まだ回復しきっていない。

「……くそっ」

「身支度はまだ完了していない。リオ、膝立ちになれ」

「ッ……!」

リオは歯噛みするが、大人しく従った。アーネストのすぐ目の前まで這って移動し、寝台の上で膝立ちになる。そして、鞭打たれる前に両手を頭の後ろで組んで、胸を軽く張った。胸元のスリットが開き、膨らんだ乳輪ごと乳首が外気に晒される。

「上も下も勃起が不十分だな。三点すべてを自分の手で勃たせろ。ただし、間違っても達するなよ」

「……いつもと妙に趣向が違うな。こんどは何をするつもりだ、アーネスト」

「すぐにわかることだ。命令に従え、リオ。時間が押している」

時間、とリオは心の中で反芻した。アーネストが時間を気にしたことなど、今まであっただろうか。
頭の後ろで組んでいた手をほどき、まず、自分で乳首を弄った。指先でこりこりと刺激してやれば、いともたやすく最大まで膨れ上がる。
次いで、下肢に両手を伸ばした。滅多に許可されないペニスでの自慰。竿をそっと両手でつかんで上下に扱けば、腰が溶けそうな快楽に伴って、みるみる芯をもって角度を上げていく。
しかし、本格的に快楽をひろって腰が揺れそうになる寸前で、アーネストから制止命令が飛んできた。リオは名残惜しく思いながらもペニスから手を離し、頭の後ろで組んだ。

「……これ、で、いいのか?」

「良いだろう」

そう言ってアーネストは手元の宝石箱を開く。そこには、イヤリングのようなクリップ式の装飾品が一対と、空色の絹リボンが入っていた。装飾品の方には幾重にも連なった小粒の宝石の他に小さな鈴がついており、指で摘まみ上げるとチリチリと微かな音を立てた。

アーネストはリオの乳首に鈴付きクリップを、ペニスの根元に絹リボンを取り付けた。

リオの中で羞恥心が沸き起こる。

乳首を飾られたのは初めてだった。宝石と鈴は案外重く、小さな肉豆に存在感のある重力がかかる。しかし、それよりも恥ずかしいのは下半身のリボンだった。勃起ペニスの根元できれいな蝶結びにされ、まるで自分がプレゼントにでもなった気分だ。しかも、この鮮やかな空色。考えたくもないが、騎士団の制服と同じ色ではないだろうか。

「……悪趣味な」

「俺の趣味ではない。先方の要望だ」

リオが吐き捨てると、アーネストが熱の籠らない声で答える。
先方、という言葉を聞いて、リオの脳裏に浮かんだのはいつか訪れた革命軍の男たちの姿だ。リオの調教具合を確かめに来て、『表』に行くとかまだ行かせないとか、そんな話をしていた覚えがある。

まさか。

「……ついに、『表』とやらに行くのか?」

「いいや」

黒衣の魔術師は首を振り、いったん壁際の棚の方へ行った。そして、何やら小さなガラス瓶と、普段は使わない華奢なつくりの手枷足枷、それに首輪を携えて戻ってくる。

「最終術式を受けていないお前はまだ『表』には出せない。今日は別件だ」

「これから誰かが来るのか」

「誰かが来るのではなく、我々が赴く。……リオ、これを飲んでおけ。いつも食事に混ぜている薬の原液だ。少々飲みづらいが、すべて飲み干しておいた方がいい」

そう言って差し出された小瓶の正体の禍々しさにリオはぎょっとした。が、アーネストの言い回しが気になった。

散々恥辱の限りを尽くし理不尽な命令を繰り返してきた男だが、ごく稀に、リオの身を案じるがゆえの命令を下すことがある。例えば、極太張型にちゃんと潤滑油を塗っておかないと後が辛いぞ、といったような。
今の命令には、それと似たような含みがあった。なので、リオは顔を引きつらせながらも小瓶を受け取り、その中身を全て呷った。

甘いような苦いような液体が口の中一杯にひろがり、喉奥へ滑り込んでいった。飲んだ直後から、喉や腹の底が灼けるように熱くなり、リオは軽く噎せた。

「ぐっ……けほっ……」

「効き始める前に移動するぞ。……立て」

「……どこに連れて行く気だ」

「それは着いてのお楽しみだ」

リオが立つと、首輪と手枷と足枷がかけられた。枷はそれぞれ金色の鎖で繋がっているが、両腕や両足をいっぱいまで広げたよりも長いので動きを戒める効果はない。どちらかというと拘束具というより装飾品に近いものだ。首輪だけは、さっき犬の真似事をした時につけられたと同じ、リード付きの比較的武骨なものだった。

アーネストが無言で部屋から出る。リードに引かれ、リオもそれに従った。歩くたびに装飾品が、鎖が、乳首の鈴が、しゃらしゃらと澄んだ微音を立てる。

さっきは螺旋階段を登ったが、今度は下へ下へと降りていった。
降りていくにつれて、リオの身体に薬が回り始めた。

(……からだが、あつい)

じくじくと身体が疼く。開発された性感帯すべてが熱感を持ち、リオの意識を蝕み始める。特にお尻の穴が切なかった。ずっとナニかを咥えっぱなしの生活を送っていたから、何も入っていないと落ち着かない。腹の中にぽっかりと空洞が空いている気分だ。

(あぁ……わたしの身体は、こんなにも浅ましくなってしまった)

激しい発情を予感しながら、リオは秘かに唇をかみしめた。
こんないやらしい身体になった弟を、兄たちは以前と変わらず愛してくれるだろうか。

(兄上様……)

それが、リオが純粋な敬愛を込めて兄を想った、最後の瞬間になった。

黒衣の魔術師と淫らな衣装の虜囚は、螺旋階段の最下層に辿り着いた。行き止まりには大きくて頑丈な扉があり……その向こうから、何やら妖しげな気配がする。

だいぶ薬が回ってきて、浅くて熱っぽい呼吸を繰り返しながら、リオは不安げに傍らのアーネストを見上げた。

「ここ、は……?」

「大部屋だ。他の奴隷どもが最近よく頑張っていて、それぞれの担当官が奴らに極上の褒美を与えるべきだと判断した。俺たちは今夜、それに協力する」

「……他の奴隷たち?」

呟くように問うと、アーネストがひどく歪んた笑みを見せた。

「酷い目に遭っているのが自分だけだと思っていたのか?」

リオの中に嫌な――この調教生活が始まって以来、もっとも強烈な嫌な予感が駆け巡った。
しかし、そんな逡巡をよそに、アーネストは最下層の扉を開け放ち、リオを引きずってその中に入る。

扉の向こうの光景を見て、リオは言葉を失って立ち尽くした。
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