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16・執着

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そして、現在。
アーネストは書類仕事や、他の調教師や拷問吏との打ち合わせを終え、再び地下牢へ向かった。

幾重にも魔術が張り巡らされた螺旋階段を下へ下へと降りていく。一歩階段を下りるたび、一つの扉の前を素通りするたび、ここで王子たちに加担させられていた記憶が蘇る。触手蠢く部屋の中から響く哄笑と悲鳴を扉越しに聞きながら蹲って震えていた自分の姿を幻視する。

今のアーネストはその全てを無視することができた。
未来に希望を抱き、王太子たちに期待し、現実に打ち砕かれ、狂宴に絶望し、自分を嫌悪し、革命に全力を尽くしたのはすでに過去の話。今の彼の内面は、妙な熱を抱いた状態で恐ろしいほどに安定していた。

アーネストは目的の扉の前でしばし足を止める。その扉の向こうからは微かな水音がしているが、他に人の声などは聞こえない。

(――さすがに失神したか)

扉を開ければ、その向こうに、全身をヒトデに貪られながら気を失っているリオの姿があった。
がっくりと項垂れ、顔が水面に浸る寸前だった。彼はここ数日ほどんど睡眠をとっていない。そうなるようアーネストが仕向けた。

人の心を折るためには、対象を肉体的な極限状態に追い込む必要がある。恐怖、痛み、飢え、性的拷問、そして睡眠制限。最後二つを同時に施したのだから、騎士気取りの元王子様の気丈な心はすでに崩壊寸前だろう。

アーネストは水槽の前で片手を振る。すると、低く唸るような音を響かせながら、水位がどんどん下がっていった。それに伴い、三百匹ものヒトデたちがリオの身体から離れ、この部屋の床下にある養殖槽へ水流に乗って帰っていく。
ただ、何匹かは張り付いたままだった。よほどリオの身体が気に入ったのか。両胸や股間に紅いヒトデを張り付かせている美しい青年という姿は淫靡かつ滑稽で、アーネストは思わず片頬を歪めて笑った。
排水が終わったあたりで水槽のガラスを魔術で消し、一歩中に入る。X字型の拘束板に四肢を拘束されているリオは、死んだように眠っていた。
その身体からヒトデを剥がすと、すっかり肥大化した乳首や萎えたペニスがぷるんと揺れた。

「リオ」

名を呼ぶが、目覚める気配はない。一応息を確かめたが、生きてはいた。ただ深く眠っている。

「……まあ、少しは寝かせてやろうか」

アーネストは呟き、リオの拘束具を外し、いったん床に寝かせてやった。そして、その肢体を丁寧に検品した。
蜂蜜のような金髪、整った顔立ち、程よい長さの手足。
肉付きは悪くない。中途半端についていた筋肉をいったん落として痩せ細った状態にしてから、与える食餌や薬を調整して、程よい柔らかみのある身体に仕立てなおした。ペニスは平均より小さめで色素が薄く、反面、乳輪と乳首はぷっくりと肥大して濃い桃色になっている。
肌は、ヒトデたちに丹念に喰わせたおかげで、吸い付くような極上の柔肌になった。

不特定多数に抱かれるための身体。
アーネストが丹精こめて育て上げた身体が、あともう少しで完成する。

(あと二か所だ。精神と――胎)

指先で、リオの身体の正中を下腹部から上に向かってなぞり上げ、唇に至る寸前で止まった。
身体を開発するのと並行して能動的な媚態を仕込むにあたり、口淫は最初のうちから教え込んだ。この唇は、男を勃たせ精液を搾り取る優秀な器官と化している。

だが、ひとつ、仕込みそびれたものがあるのを思い出した。

アーネストの中でいくつかの調教計画が立ち上がるが、結局、彼はそれらを「必要なし」と判断して頭の中から消し去った。

リオの身体を軽く拭いてから担ぎ上げ、いつもの部屋へと運びなおす。

豪奢な寝台へ放り込んでやれば、リオが微かに呻いた。

「……う……」

起きたのかと思いきや、目覚める気配はなかった。アーネストは黒衣の懐から懐中時計を出して、時刻を確認する。

(……予定よりはまだ余裕があるから、しばらくこのままでも良いか)

さて時間をどう潰そうか……とアーネストが悩んだ矢先、意識がないままリオが喘ぎだした。

「……ん……あぁ……」

見ると、白い肌がほんのり赤く上気して、乳首やペニスが血を集めている。淫らな夢でも見ているらしい。
リオの手が彷徨う。アーネストはその手の行方をじっと見守る。

通常の男であれば男根を触るだろう。

しかし、リオの手は、片方は胸元に、もう片方は後孔に向かった。睡眠中特有の緩慢で拙い動きで、充血した肉豆を撫で、両脚を広げて緩んだ孔に指を潜り込ませる。ぴく、ぴく、と痙攣しているということは、意識がないなりに身体が快楽を拾っているということか。

アーネストの中に喜悦の感情が広がるが、その直後、気分は急降下した。

「……ぁにうぇ、さま……」

リオが切なそうに呼ぶ。彼が「兄上様」と呼ぶ異母兄は十数名にも及ぶが、クリストファーを筆頭に全員ろくでもない悪徳王子ばかりだ。

アーネストは無言で寝台に乗り上げ、リオの両脚をさらに大きく拡げてやった。開きっぱなしの肛門がぱっくりと開いて、肉筒のかなり奥までを惜しげもなく見せてくれた。入り口部分は桃色で、奥は赤黒い。それがまるで個別の意思を持った生物のように、ひくんひくんと開閉している。

アーネストは険しい顔でそれを睨み据えたあと、黒衣の前を寛げて自分の逸物を取り出した。数度扱けば硬度を帯びて、あの肉孔を犯すにふさわしいモノとなる。

意識のないリオの身体を組み敷いて、アーネストはその身を貫いた。

「……んぅ」

リオが一瞬顔をしかめるが、すぐにその表情は蕩けた。この王子はここまで墜ちたのだ。

アーネストが求める領域まで、あともう少しだった。

「……リオ王子」

口の中で低く呼ぶ。決して本人に届かぬように、夢の中にいる彼が現実に帰ってこないように。
腰を掴み、ゆるやかに抽挿する。ぐったりと脱力とした身体がなすがままに揺すられ、けれど肉筒だけはきゅうきゅうとアーネスト自身を締め上げた。奥へ奥へと誘って、早くも子種汁を搾り取る蠕動を見せている。わざと前立腺を突いてやったら粗末なペニスがぴこんと跳ねたが、甘勃ち以上の角度にはならず、先端から透明な汁をこぼし始めた。

リオの身体は、すでに男としては機能しないだろう。

(……ならば、早く、メスとして完成させてあげなくてはな?)

仄暗い慈悲を抱き、アーネストは意識のないリオの身体を好き勝手に味わい、最後に一番奥で射精した。

この精液は、彼の身体に着床することはできない。


現時点では、まだ。
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