雷魔法が最弱の世界

ともとも

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魔法帝の屋敷

授業

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二人、僕と魔法帝は真っ黒焦げになりながら屋敷へと帰った。
髪はひどくボサボサになり、服は巨大な爆発によりビリビリに破れ、一部肌が露出する。

魔法帝はお気に入りの服装だったようで割れたメガネを突き上げながら深いため息をついていた。



まぁ、当然のと言えば当然のことだが屋敷に帰ると……

「なっ、な、な……どうしてこんなことになったんですか!?
そ、そんなに今回の依頼は大変だったのですか!
ど、どうして嫌なタイミングでトモヤ君がユリス様のお手伝いを……
ユリス様もユリス様です! 
ちゃんと命をかけてトモヤ君に傷一つ付けないようにしてくださらないと!
大丈夫ですか、トモヤ君……」

大きく頭を抱えて、帰って早々大きな声が鳴り響く。

「え、トモ君大丈夫なの! 怪我、に響いてない? 
私すぐに魔法をかけるから!
大変だったね、すぐに休んで!」

「あの、私もいるんだけど……すこしはこっちのことも……」
「いつものことじゃないですか」

口裏を合わせて、何気ない顔をして言う双子。

「ええ、私は寂しいよー」
「それよりトモヤ君です!」

空気のように扱われる魔法帝。

「す、すぐに救急箱を!」
「あ、私ヤーベルさん呼んでくる!」

いつものように行動が早いソラ。
それに合わせてミヨも動いてくれた。

魔法帝のせいで起こった事故によって体が痛むが、そのいつもの光景に思わず笑ってしまった。

「はい! トモヤ君、包帯です!」

ソラは大量の包帯を持ってきて僕をぐるぐる巻にする。
「えっと……ソラ? 僕はそこまで酷い怪我じゃないしそこまで必死に包帯を巻かなくても……」
「いえいえ、そう言う甘い考えが怪我の悪化を招くんです!」

「いや、でも僕は重症患者じゃないんだからさ……ミイラにしなくても……」

ソラが包帯を持ってくるまではよかったのだ……
だけど、今の自分は全身に包帯が巻かれ、身動きができないミイラ状態だ。

「あれだけの怪我ならこれくらいしないと!」


そこへガチャリとドアが開き、唖然としているヤーベルさんとミヨがいた。

「こ、こほん、ソラ君……君のその早急に治療するところや、思いやりがあるのはとてもいいと思うよ……だけど、あまりの心配性で冷静さを失うのはよくないな……」

ため息を入り混ぜながら、助言を与えるヤーベルさんの声を聞き、ソラは「はっ」と気づく。

「……す、すいませんでした……」

深く頭を下げたソラは手際よく一瞬で包帯を外した。

「その器用さだけは本当ピカイチだよね、ソラって……」
「ごめんミヨ……今その話はもうやめて……」

黒い気配を身に纏いながら今までに見たことないほど落ち込むソラ。

その様子に微笑みながらヤーベルさんが僕の容態を見てくれて、横でミヨが助手のような仕事をしてくれていた。

「うん、軽い火傷だ! 体にはそこまで以上はないね」

みんなが笑顔になると、次はなぜこんな事件が起こったのかと言う話題に切り替わった。

「それにしてもなぜこんな酷いことになったんだい? 魔法帝という最強の魔導師がついているにも関わらず……」

ヤーベルさんが話を切り出すと、魔法帝の肩がピクリと動く。

「い、いやー、モンスターが案外強くてね……」

大量の汗をかきながら、苦し紛れの笑顔を作り弁解しようとする。
僕は睨むように魔法帝の目を見ると、視線を外された。

「あ、ユリス様嘘ついていますね!」
「まったく、君は昔から嘘が苦手だね……動きからしてバレバレだよ」
「な、ななな、なんでだよおぉぉ!」

二人の発言に、落ち込んでいたソラも「うんうん」と大きく頷く。
やはり古くからの付き合いの方々はわかってらっしゃる。

三人からの視線がとてつもなく冷たくなり、魔法帝の顔がさらに青ざめる。


「そ、それじゃあ……今日の出来事について話しますか!」
「と、トモヤ君! 待ちなさい!
わ、私といろいろ話をしよう」

必死で僕に縋りつき、涙目になりながら止めようとする。
そんな魔法帝に対して僕は、軽く歯を見せる。

「何言っているんですか? 僕が話すのは、今日魔法帝がどれだけカッコいい行いをしてきたかみんなに聞いてもらうだけですよ!」

「ほ、本当かい、トモヤ君? なんだかとてつもなく黒いオーラを発している気がするけど、それは私の気のせいだよね……?」

「はい、大丈夫です。
だって魔法帝ったら今日……特大の爆発を起こしたじゃないですか!」

「完全にアウトです! お願いだよぉぉぉ!
怒られたくないよぉぉぉ!」

「魔法帝様……さ・よ・う・な・ら」



僕が不気味な笑みを魔法帝に向けてすこし時間が経つと、

「ギャアアアアアアアアアァァァァァ!!」

ここ最近、一番の大きな悲鳴が屋敷中に響いた。



その夜。

「ああ……あぁぁ……」

ゾンビのように廃人になりながら壁にもたれる人物がいた。
もう口から魂が抜け出して、天国にでも行きそうな様子だ。

「トモヤ君……どうして言ってしまうのかな……」
カスカスの声になりながら聞いてくる。

「魔法帝はすこし自分勝手なところが多すぎます。ちゃんと忠告しましたよね!
僕の言うことをちゃんと聞いてくれるって。
僕は大声で魔法帝に伝えましたが、聞いてくれなかったじゃないですか!
ちゃんと反省してください!」
「魔法を使っていたら、何にも聞こえないんだもん。しょうがないじゃなんか!」

子どものように頬を膨らませてそっぽを向く。

「魔法帝はそう言う癖はありますからね……」

僕にはどうしようもない魔法帝の性格に呆れながらも席に座った。

「いつまでもウジウジしてないで、教えてくださいよ、色々と」

今、僕たちはいつもの勉強会を行う部屋にいる。
今日は先生交代で、魔法帝が常識を教えてくれることになった。

このことを思い出したようで自ら動けるようにはなっているのだが、未だテンションは低いまま。

早く戻って欲しいな……自分がこの状態にしたのだけど……

「さ……さぁ……私の知っているモンスターについて……話をしよう」

「声ガラガラですよ! もうおじさん通り越して、お爺ちゃんじゃないですか! 
やめましょう、今日は早く寝る方がいいですって!」

勉強会の中止を宣言すると、突然、魔法帝は元気に立ち上がった。

「それはダメだ!」
すごい圧をかけるように力強く僕の両肩に手を置く。

「ダメだ、私が今日は教える!」
「あ、はい……それはよかったです……」

どう言う経緯か知らないが、いつも通りに戻った。
この方が話しやすいので気が楽になる。

ガシリと僕の肩を掴み、椅子の方へ誘導された。

そしてふぅ、と一呼吸すると、
「えっと……一瞬でどうやって、そのメガネの装着を?」
「気にしないでくれたまえ」

メガネを上げて真面目な口調で魔法帝は話し始める。

「では、今からトモヤ君にいろいろ教えていきたいと思う。まずはモンスターだ。種類は様々だから特徴を捉えてしっかりと学習するように。分かったかい?」
「は、はい……」

もうさっきのことを忘れたのだろうか……
それほどキリッとした顔で堂々と授業を進めている。
それにいきなり、真面目口調。

自分は戸惑いを隠せなかった。


--勉強会--

始めは急すぎることが多くて集中できなかった。
だって教師はあの魔法帝だ。
どんな悲惨な授業になるか考えられない。


下手をすれば、見本で魔法とか使って、
「ほら、こうやって倒すんだよ!」

ドガーーーーン!!

部屋が大爆発。
そして、またお説教……なんてこともあり得る。



「……と言う特徴があるんだ。この魔物はここと似ている部分があるからセットにするといいよ!」
「ふむふむ……」

いや、分かりやすい!?

机を思いっきり叩いて、この気持ちを吐き出したくなる。

本当に魔法帝なの!?

今まで聞いてきた授業でこんなに受けていて楽しく、分かりやすいものはなかった。


魔法帝は自らの経験から、よく遭遇するモンスター、そして、出会うと面倒なモンスターなどとても分かりやすい説明をしてくれる。

ちゃんと、体験したことを話してくれるので信用もできる。

また、似たような性質を持つモンスターは繋げて教えてくれるのはとてもありがたかった。

何より絵がとても上手だった。
一応、魔法によって作られた写真も見せてくれるがそれに負けず劣らずの絵画力。

写真に載っていない部分を描いて危険な部分を注意深く説明。
これにより、理解も深まった。

他にも魔法帝の笑える経験談。
可愛い動物の心がほっこりするお話などなど……

何度も言うが、本当に分かりやすい!
そして楽しい!


とても有意義な時間だった。

「と言う感じだ……どうだい! どうだった、私の授業は!」

和やかな雰囲気から、いつもの魔法帝に戻った瞬間、自分も溜まっていたことを全て同じテンションで打ち明けていた。

「いや、魔法帝の授業、最高に面白いですよ! もう今までにないほど頭にぐいぐいと入ってきましたよ! しかも短時間だし、生徒を飽きさせない面白い話なども!」

「そうでしょ、そうでしょ!」

思わず二人は両手で握り合い、これでもかと上下に振り回しあった。

「はぁー、なんだかいつもより興奮してしまって疲れました……」
「こんなに君が褒めてくれるのは初めてだったから、私もなんだか疲れているのかもな……」

僕は机に倒れ込むように頭をつけ、魔法帝は僕に目をかける。

「トモヤ君、そのままでいいから、最後に私からの忠告みたいな意味で捉えてくれ」

机に寝そべりながら顔だけ上げて話を聞こうとする。
月が10時の向きに差し掛かっていた。

授業の終わりになにかサプライズでもしてくれるのかと不思議に思った。
ちゃんと時間通りに終わらないとミヨに怒られるし……

「トモヤ君、サタンは知っているよね?」
「はい、それは常識ですから」

「それなら理解が早そうだね。
魔人族の王、サタンには精鋭の配下がいるんだよ!」
「へぇー」

軽い話題だと思って聞いていた。

「三聖飢魔って言う三人の魔人族がいるんだけど……一人で六大天、三人分に匹敵する実力だから、必ず噂を聞いたら逃げるようにね!」

「……それめちゃくちゃ重要! 
今日一番、大事な話じゃないんですか!?」

「ん? そうなのかい?」

魔法帝は訳がわからないのか、首を横に傾げる。

この人、なんなの……
授業が面白いと思ったら、一番大切な情報を日常会話として持ってくるし……
もう自分の頭が混乱し始めた。

「うん? まぁ無駄死には良くないからね。必ず逃げるんだよ!」
「は、はい……」
呆れながら覇気のない返事をした。

でも、魔法帝の話から敵はサタンだけではないということを理解した。

「しかし、トモヤ君たちは安心していなさい! 私たち魔法帝、そして六大天はその三人が現れたと聞いたらすぐに飛び出せる準備をしているからね! 市民を守るのは私たちだ!」

六大天、そして魔法帝。

魔法帝を真ん中にこの七人の魔法騎士が横に並んでいるところを想像すると……想像以上に輝いていた。

やはり放つ光が段違いであった。

「お、おお」
思わず、声が漏れてしまう。

「でも、六大天様や魔法帝は大変ですね。毎日、村の人たちを助けて、その魔人族の精鋭の人たちと戦う準備もするなんて……」

大きく頷きながら一人感心していると、魔法帝はぽけっとしながら、まん丸な瞳をこちらに向けていた。

「えっと、何か変なこと言いましたか?」

静かになる魔法帝に、何か言ってはいけないことを言ってしまったのかと焦る。

「基本的に私や六大天たちは暇だよ……」

ぽつりとよくわからないこと発言する。

自分も魔法帝と同じように首を傾げる。

「暇って、魔法帝は出来るだけ市民を助けるために村へ行っていますよね? それはお仕事で……」

僕の疑問に、ああっと言いながら魔法帝は話し出した。

「うーん、なんというのだろうか……正直、私は村人たちを助けなくてもいいんだ。
私の仕事は王城の会議の参加、そしてもしもの時の緊急出動隊みたいな……
簡単に言うと、村人を助けているのはボランティアなんだ。
ただ、自分が困っている人を見過ごせないだけって言うか……ソラとミヨのこともあるしね……」

頬を掻きながら難しそうに話す魔法帝に、僕はキラキラとした眼差しを向けていた。

「ヒーローじゃないですか! 
『望むものはないもいらない』とか言って立ち去るやつですよね! 
すいません、これからはずっと、何があっても魔法帝について行きます!」

「うん? いきなり舞い上がるのはなぜか分からないが……褒めてくれているのは分かったよ! そうか、そうか……なら君は私の一番弟子だな! いつでも後ろについてきなさい!」
「はい!」

子分のように、返事をする。


それから魔法帝は話を戻して、
「そんな感じで、六大天は基本、暇をしているんだ。あの方たちが相手になるほどの任務があまりないからね。そりゃ、強敵になると必ず誰かに入ってもらうけどそんな危機、最近はあまり起こらないな。
少し平和になっているのならいいんだけど……」
「いえ、魔法帝のおかげでこの世は平和になっているんです! 自信を持ちましょう自信を!」

「なんというか……急に私に対する態度が変わったね……一応、嬉しいのだけれど……」

「めっそうもございません! ありがたきお言葉!」
「う、うん……」

僕を扱いにくいのか、少し声が小さくなり始めていた。

「はい! 今日はこれでおしまい! また、明日からは健康に、そして楽しく過ごしてもらうよ。私は今日は寝ます」

キリの良いところで魔法帝は分厚い辞書のような書物をパタンと閉じた。

「あ、ありがとうございました! と、とても楽しかったです!」

「それはよかった」

優しい笑みを向けながら、部屋を出て行った。

また、新たに戦いの幕が開かれる。



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