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普通のお茶会
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如月邸では裏山詩歌と如月如鏡が紅茶を飲んでいた。そこに池照刑事から電話が掛かってきた。
『 如月さん、やっぱり繋がってました。山村もみは阿部真理亜の相談相手になっていた様です。例の火事の後も二人で公園で話してるのを目撃されてます。最近では音信不通の様に見受けられますけど、真理亜はその時の事を恩に着ていたんでしょう』
「なるほど、そうですか。お節介というか。正義感が強い人だったんでしょうね.......今回はそれが裏目に出ましたけど」
『 ま、そういう捉え方もできますね。とりあえず本人の自供がかなり信ぴょう性ありますので、これで落ち着くと思います』
「そうですか」
『 それにしても、どの辺《あた》りから山村さんが怪《あや》しいと思っていたんですか?』
「それは、近所の人しか知らない公園で遊んでいる美羽ちゃんを山村さんが見かけたって言ってたからね。それは山村さんも非常に近くに住んでいるか、もしくは住んでいなくてもわざわざ様子を見に行ったってことでしょ?」
『なるほど』
「後は会ってみた印象だけど…真理亜さんはとても思慮深くて、とても、カッとなって人を殺す様には見えなかったもの」
『そうですね、確かに…色々と今回も助かりました。今度なにか手土産を持ってお伺いします』
「ありがとう、楽しみにしてるわ」
『ではまた』
そういうと池照の電話は切れた。
詩歌は如鏡から自分の電話を受け取ると言った。
「そういえば.......ひとつ気になることがあるんだが」
「なに?」
珍しく真面目な聞き方の詩歌に如鏡は聞き返した。
「阿部真理亜がもしも人を殺すとしたら…て所の如鏡の言い方が…あまりにもなんていうか。生々しい感じがしたんだが…。」
「あ。そうね…もしも殺してたとしたらって話。」
「つまり、自分の父親を殺してたとしたらって事か?」
「まぁ、そういうことになるわね。」
「なんで何回も繰り返し練習してたってわかるんだ?」
「それは.......痣《あざ》よ」
「痣?父親につけられたっていう痣か?」
「父親は否定していたでしょ?」
「え?あれが本当の事だっていうのか?」
「そう、もしも本当の事だとしたらどうやって痣がついたのか.......もしかしたら2階から庭の木に飛び移る練習でもしてたんじゃないかと思って」
「なるほど、その時に痣がついたのか.......まてよ。それだと虐待してなかった事にならないか?」
「虐待は別に痣がつくものばかりとは限らないでしょ?」
「痣がつかない虐待.......まさか性的虐待とか?」
「まあ、想像だけど。その可能性もあるって話、そして真理亜さんは父親を殺そうと決意した。そしてその為に行った予行練習で出来た痣を父親にされたと言った」
「それで父親は違うと言ったのか」
「真理亜さんは言外に父親に虐待を止めるようにサインを送ってたのね.......これ以上は耐えられないと」
「しかし、父親は虐待を否定して厳重注意で終わった」
「そう.......だから、他の家に迷惑がかからない様に風のない日と母親のいない日が重なるのを待って犯行に及んだ.......かもしれない」
「まあ、かもしれないな。全部想像の話だものな」
「そう、全て想像の話」
「あ、あともうひとつ」
「なに?今日は多いわね質問が」
そうは言ったが如鏡は嬉しそうだった。
「山野美羽が自分が殺したかもしれないと思ってトイレを出ていった後どうやってその事を山村もみは知りえたんだ?」
「それはおそらくだけど、パニックになって外にでたところでばったり出くわしたんじゃないかしら」
「なるほど、あるいみそこで会わなければ」
「そうね、何も起こらなかったかも」
「如鏡もうひとつ」
「なに?」
「如鏡の推理に難癖《なんくせ》をつける訳じゃないけど、本当は山野美羽が犯人でそれを知った山村もみと阿部真理亜が結託して犯行を隠蔽《いんぺい》しようとしたって事は考えられないか?」
如月如鏡は心底驚いた様に裏山詩歌を凝視した。
「さすが探偵さんね。驚いたわ」
「まあね」
「でも、そうなると、最初に美羽さんが自供したと聞いた時の真理亜さんの反応と矛盾してしまうわね」
「あ、そうか.......。やっぱり俺の本業はボディガードらしい」
そういうと詩歌は笑って胸のポケットに手を入れそうになって、気がついて引っ込めた。
「まだ治ってないの?その癖」
「.......まぁね」
「でも、私の事を呼び捨てにする癖はそのままでいいわよ」
「あ、ごめん。如鏡さん!」
「だから、いいって言ってるでしょ!これでも詩歌には一目《いちもく》置いてるのよ」
「え?どうして?もしかしてチャンスがあったら加納を懲らしめて欲しいってご要望に応えた時かな?あれは裏舞踏《うらぶとう》という技でしてね」
「いえ、違います」
「あ、違うんですね」
「というかすこしヒヤッとしましたよ、あれはやりすぎです」
「す、すみません。ではどこで?」
「初対面の時」
「え?何かしましたっけ?」
「私を外見だけで判断しなかったでしょ?」
「あ、あぁ、その事か…まぁ、人を見る目はあります」
「それが、単なる人を見る目だとしたら恐るべき才能だわ」
如鏡は本当に感心している様だった。
詩歌は少し照れた。
「それにしても池照の奴!絶対に如鏡さんとの連絡係に俺を利用してるに違いない!」
詩歌は照れを隠す様にそう毒づいた。
「警察がもっと、しっかりしなきゃなぁ」
「池照さんはしっかりしてると思うわ。真面目だし。正義感が強い。理想の刑事ね」
詩歌はなにか言い掛かりを付けたくなった。
「でも、本当に優秀なら真理亜の犯行も明るみに出てるんじゃないかな?」
ふと如鏡は真顔になって呟《つぶや》いた。
「そうね.......でも、もしも、年端《としは》もいかない女の子が実の親を殺してしまうほど追い詰められてたとしたら」
「だとしたら?」
「それは法律で裁いたりしてはいけないことだと思うの」
「え?じゃあもし山野美羽が犯人だったら?どうするつもりでした?」
「その時は.......」
少し言い淀《よど》んでから如鏡《しきょう》は言った。
「そうね.......全力で無かったことにするかも」
そう言って微笑んだ如鏡の横顔は凛として美しかった。
畏《おそ》れを懐《いだ》くほどに.......。
『 如月さん、やっぱり繋がってました。山村もみは阿部真理亜の相談相手になっていた様です。例の火事の後も二人で公園で話してるのを目撃されてます。最近では音信不通の様に見受けられますけど、真理亜はその時の事を恩に着ていたんでしょう』
「なるほど、そうですか。お節介というか。正義感が強い人だったんでしょうね.......今回はそれが裏目に出ましたけど」
『 ま、そういう捉え方もできますね。とりあえず本人の自供がかなり信ぴょう性ありますので、これで落ち着くと思います』
「そうですか」
『 それにしても、どの辺《あた》りから山村さんが怪《あや》しいと思っていたんですか?』
「それは、近所の人しか知らない公園で遊んでいる美羽ちゃんを山村さんが見かけたって言ってたからね。それは山村さんも非常に近くに住んでいるか、もしくは住んでいなくてもわざわざ様子を見に行ったってことでしょ?」
『なるほど』
「後は会ってみた印象だけど…真理亜さんはとても思慮深くて、とても、カッとなって人を殺す様には見えなかったもの」
『そうですね、確かに…色々と今回も助かりました。今度なにか手土産を持ってお伺いします』
「ありがとう、楽しみにしてるわ」
『ではまた』
そういうと池照の電話は切れた。
詩歌は如鏡から自分の電話を受け取ると言った。
「そういえば.......ひとつ気になることがあるんだが」
「なに?」
珍しく真面目な聞き方の詩歌に如鏡は聞き返した。
「阿部真理亜がもしも人を殺すとしたら…て所の如鏡の言い方が…あまりにもなんていうか。生々しい感じがしたんだが…。」
「あ。そうね…もしも殺してたとしたらって話。」
「つまり、自分の父親を殺してたとしたらって事か?」
「まぁ、そういうことになるわね。」
「なんで何回も繰り返し練習してたってわかるんだ?」
「それは.......痣《あざ》よ」
「痣?父親につけられたっていう痣か?」
「父親は否定していたでしょ?」
「え?あれが本当の事だっていうのか?」
「そう、もしも本当の事だとしたらどうやって痣がついたのか.......もしかしたら2階から庭の木に飛び移る練習でもしてたんじゃないかと思って」
「なるほど、その時に痣がついたのか.......まてよ。それだと虐待してなかった事にならないか?」
「虐待は別に痣がつくものばかりとは限らないでしょ?」
「痣がつかない虐待.......まさか性的虐待とか?」
「まあ、想像だけど。その可能性もあるって話、そして真理亜さんは父親を殺そうと決意した。そしてその為に行った予行練習で出来た痣を父親にされたと言った」
「それで父親は違うと言ったのか」
「真理亜さんは言外に父親に虐待を止めるようにサインを送ってたのね.......これ以上は耐えられないと」
「しかし、父親は虐待を否定して厳重注意で終わった」
「そう.......だから、他の家に迷惑がかからない様に風のない日と母親のいない日が重なるのを待って犯行に及んだ.......かもしれない」
「まあ、かもしれないな。全部想像の話だものな」
「そう、全て想像の話」
「あ、あともうひとつ」
「なに?今日は多いわね質問が」
そうは言ったが如鏡は嬉しそうだった。
「山野美羽が自分が殺したかもしれないと思ってトイレを出ていった後どうやってその事を山村もみは知りえたんだ?」
「それはおそらくだけど、パニックになって外にでたところでばったり出くわしたんじゃないかしら」
「なるほど、あるいみそこで会わなければ」
「そうね、何も起こらなかったかも」
「如鏡もうひとつ」
「なに?」
「如鏡の推理に難癖《なんくせ》をつける訳じゃないけど、本当は山野美羽が犯人でそれを知った山村もみと阿部真理亜が結託して犯行を隠蔽《いんぺい》しようとしたって事は考えられないか?」
如月如鏡は心底驚いた様に裏山詩歌を凝視した。
「さすが探偵さんね。驚いたわ」
「まあね」
「でも、そうなると、最初に美羽さんが自供したと聞いた時の真理亜さんの反応と矛盾してしまうわね」
「あ、そうか.......。やっぱり俺の本業はボディガードらしい」
そういうと詩歌は笑って胸のポケットに手を入れそうになって、気がついて引っ込めた。
「まだ治ってないの?その癖」
「.......まぁね」
「でも、私の事を呼び捨てにする癖はそのままでいいわよ」
「あ、ごめん。如鏡さん!」
「だから、いいって言ってるでしょ!これでも詩歌には一目《いちもく》置いてるのよ」
「え?どうして?もしかしてチャンスがあったら加納を懲らしめて欲しいってご要望に応えた時かな?あれは裏舞踏《うらぶとう》という技でしてね」
「いえ、違います」
「あ、違うんですね」
「というかすこしヒヤッとしましたよ、あれはやりすぎです」
「す、すみません。ではどこで?」
「初対面の時」
「え?何かしましたっけ?」
「私を外見だけで判断しなかったでしょ?」
「あ、あぁ、その事か…まぁ、人を見る目はあります」
「それが、単なる人を見る目だとしたら恐るべき才能だわ」
如鏡は本当に感心している様だった。
詩歌は少し照れた。
「それにしても池照の奴!絶対に如鏡さんとの連絡係に俺を利用してるに違いない!」
詩歌は照れを隠す様にそう毒づいた。
「警察がもっと、しっかりしなきゃなぁ」
「池照さんはしっかりしてると思うわ。真面目だし。正義感が強い。理想の刑事ね」
詩歌はなにか言い掛かりを付けたくなった。
「でも、本当に優秀なら真理亜の犯行も明るみに出てるんじゃないかな?」
ふと如鏡は真顔になって呟《つぶや》いた。
「そうね.......でも、もしも、年端《としは》もいかない女の子が実の親を殺してしまうほど追い詰められてたとしたら」
「だとしたら?」
「それは法律で裁いたりしてはいけないことだと思うの」
「え?じゃあもし山野美羽が犯人だったら?どうするつもりでした?」
「その時は.......」
少し言い淀《よど》んでから如鏡《しきょう》は言った。
「そうね.......全力で無かったことにするかも」
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畏《おそ》れを懐《いだ》くほどに.......。
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