少女探偵

ハイブリッジ万生

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本当の事

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真理亜の自供とも取れる言葉をひと通り聞いて如鏡《しきょう》はゆっくりと頭《かぶり》を振った。

「そうじゃない。真理亜さん。私が聞きたいのは本当の事よ」

真理亜は真っ直ぐに如鏡を見返した。

「これが本当の事よ」

「ではあなたが聞いたという言い争う声だけど、具体的に教えて貰える?」

「.......具体的に?」

「そう、あなたが虐待を確信するほどの言い争いを忘れた訳じゃないでしょ?」

「それは.......あんたみたいなお嬢様には聞くに耐えない様な事よ」

「お気遣いなく、どんな内容でもどうぞ」

「.......殴るって言ってたわ」

「誰を?」

「もちろんその女の子じゃないの!」

「本人の前で本人を殴るって言ったの?」

「.......母親よ、母親を殴るって言ってたわ。それで女の子が何か暴れて、大きな音がした。ゴンって」

「よくわかったわ」

「もう行っていい?お嬢さま.......二度と会うこともないでしょうけど」

「あなたが犯人ではありえない事がはっきりとわかった」

「は?何言ってんの?」

「殺人の動機として、ついカッとなってという人がいるけど.......どう考えてもあなたはついカッとなるタイプではないわ」

「はあ?なんでわかるのよ!」

「そして、その動機が被害者の悪行に対する怒りだとすると、尚更今の発言は矛盾するわね、あなた、言い争っている内容をろくに覚えてないんだもの」

「そういう人間なの!忘れっぽいだけよ。馬鹿な犯人なんて五万と居るでしょ?」

「馬鹿な犯人は五万と居るけどもあなたはそれに当たらないと言ってるの」

「貴方に何がわかるってうの?」

「もしもあなたが人を殺すとしたら、緻密な計画を練って、できるだけほかの人に迷惑のかからない様に配慮して、何度も練習してからやるんじゃないかしら?」

「は?プロファイラーにでもなったつもり?」

「本当の事を教えて欲しいだけ」

真理亜は黙っていた。

「なぜ、あの人を庇うの?」

如月如鏡は諦めた様に言った。

「なぜ.......山村さんを庇うの?」


真理亜は驚いた様な縋《すが》る様な目で如鏡を見ていた。

「.......なんなのあなた。もみさんは関係ないでしょ」

「山村さんの名前がもみさんて知ってるのね」

「ふざけないで!あんな迷惑なおしゃべりババアの名前くらい誰でも知ってるわ!」

「でも、つい名前で言ってしまうくらいの仲って事ね?」

「馬鹿じゃないの。なんでそうなるの」

「それにあなたの先程の供述だととてもおかしな事が起こってしまうわ」

「何が?」

「途中で山村さんが入って来たのは知ってる?」

「.......え?」

「貴方の証言だと山野美羽さんが出てから犯行に及んだ後に貴方がトイレから出るまでの間に山村もみさんが出入りしているの」

「あぁ、なんとなくね.......五月蝿い声が聞こえてた様な気がするわ」

「つまり、犯行中に山村もみさんの声を聞いていたと言う事ね?」

「そうよ、それがなにか?」

「それだと貴方が犯行中は居ないはずの女性専用のトイレが空いてる事になるわね?両方塞がってたという山村もみさんの証言と食い違うけど」

「.......そんなの.......誰か来るかもしれないと思って女性専用を密室にしてから犯行に及んだだけよ.......ほら、横で聞かれると不味いと思ったから」

「それがおかしいの。女性専用のトイレには指で密室を作ったという様な痕跡はなかった。つまり他の方法で密室を作ったという事になる。もちろん、犯行後に密室を解除しないとならないので、その理由からも指を使わずになんらかの道具で密室にして解除したと考えるしかないわね」

「.......それのどこがおかしいのよ」

「とてもおかしいわ。そんな便利な道具を持ってるならなぜ女性専用だけにそれを使用して犯行現場である男女兼用の方では使わなかったのか?.......そこはどう説明しますか?」

「.......さぁ.......どうだったかしら」

「もっと不思議なのは激情に駆られて犯行に及んだと言う貴方自身の証言と誰かが来て隣で聴くかもしれないと予想して布石を打つような行動とは心理的にかけ離れすぎてる気がするのだけど?」

「.......心理的?」

「.......ええ心理的に」

「ふふ、心理的に.......ふは......あんたね.......あんたなんかに私の何がわかるっていうの!!!」

真理亜は突然大声を出した。

「あなたなんかに私の心理なんかわかるわけないでしょ!」

そういうと真理亜は肩を震わせて顔を覆って泣き出した。

「真理亜.......どうしたの?」

いつの間にか気がついた友里亜がゆっくりと真理亜に近づいて抱きしめた。

「.......大丈夫?真理亜」

真理亜は泣きながら頷いた。

如鏡はとても悲しそうな顔をすると黙って部屋を出ていった。

詩歌も一礼すると如鏡の後について外に出た。

残されたのは、呆然とする二人の刑事と一組の母娘であった。
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