奥が犬です

いわお医師の話

「いわお先生」

医師はそう呼ばれた。

「なんだ？いま、診療中だよ」

「すみません、でもさっきお使いに行った山口くんから電話で急ぎの案件らしいので」

「なんだね？そんなに重要なことかね？」

医師はそう言いながら前髪のセットの乱れが気になるらしく手櫛《てぐし》で整えながら聞いた。

「はい、先生の言われた紅鮭《べにじゃけ》のはらみがないそうです」

それを聞いて思わず少し腰を浮かしかけた所をみるとかなり動揺しているらしい。

「え？うそだろ？しっかり探したのかね？」

「はい、間違いなくないそうです」

「まじか！あ、すまないねこんな話」

いわお先生はこちらの訝《いぶか》しげな視線に気が付き、すまなそうに右手で拝んだ。

「いえ……おかげで色々と謎がとけました」

「え？謎がとけた？なんの話だね？」

私は名探偵と犯人は紙一重という台詞をなんとなく思い出したが口には出さなかった。

「いえ、こちらの話です。それより……もう、帰ってよいですか？」

「え？あ、ああ、そうだね大丈夫だよ。気をつけて帰りなさい」

私は立ちあがり帰る前にもう一度振り向いて一礼した。

「お世話になりました」

すると先生の頭頂部が見えた。
はげとるやないかい！

私は心の中でそう突っ込んで病室を後にした。

そして、私はなぜか心の中で突っ込む時だけ関西弁になる事に気がついた。