奥が犬です

ハイブリッジ万生

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戻ってきた

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「……とうさん。目を覚まして……」

え?とうさん?俺はまだ独身の筈だが……。

「…とうさん。ごとうさん!」

え?

「あ、はい。」

「やっと戻って来ましたか、びっくりしましたよ」

「あの……私はなにを?」

「良いですか?後藤さん、あなたは催眠療法を受けたんですよ」

そう言って目の前の白衣の男は垂れた目を一層たらしてにこやかに言った。

「催眠…療法?」

そうだ、思い出してきた……俺はこのクリニックに催眠療法を受けにきてたんだ。

「気分はどうですか?」

「あんまり良くないね」

「ま、そうでしょう。犯罪抑制のプログラムですからね」

そうか、私はある事で捕まってその抑制の効果が抜群だと言われているクリニックに半強制的に連れて来られたのだ。

まぁ、これを受ければ執行猶予もつくんだから文句は言えなかった。

「どうです?酒と女子高生は嫌いになるようなプログラムだったと思いますけど……」

「あ、あぁ、なんかその名前を聞いただけでも不快感と恐怖を感じるよ」

「なら成功ですね」

医師はにこやかに言いながらなにやらカルテの様なものをつけている。

「じゃあ今度は一ヶ月後ということで……」

「まだあるんですか?」

「もちろんです」

「あの……」

「なんでしょう?」

「なんで山口なんです?」

「山口?」

「私はその催眠の中で山口だったんですよ、あと女子高生の名前も独特だったのでリアリティがちょっと……」

「いえ、細かい夢の内容は決めてませんよ、こちらは極力催眠中に余計な情報を入れない様にしてますから」

「そうなんですか……あ、じゃあ、あの子も?」

「あの子?」

「女子高生のはらみですよ」

「それはまた個性的なお名前ですね」

「ま、まぁ、そうですね、先生の作った暗示ではないんですね?」

「違います。恐らく、あなたの潜在的深層心理の中の何らかのトリガーなのでしょう」

「はぁ……トリガーですか」

「心当たりはありませんか?」

「まったく……」

「それは不思議ですね」

そう言って医師は名探偵の様に左手でフレミングの法則の様な形を作って親指と人差し指の谷間で顎を支えた。

そこに看護師の女性が入ってきた。
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