【本編完結】記憶をなくしたあなたへ

ブラウン

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第1話 プロローグ

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 あの時まで幸せだった。
 
 あなたが記憶を取り戻すまで。

 私たちは2年前に出会った。

 今、私が生活しているところは、レザール王国の辺境の地キャノール辺境伯領だ。

 私の両親は駆け落ちして、この国に流れついた。
 父は医師として、貴族よりも貧しい人たちを診ることに重きをおく信念の持ち主だった。 
 母は薬師として父に寄り添っていた。私は両親の出生を知らない。ただ、何となく、両親は高位な出自ではないかと思っていた。

 私も、両親に習い、小さい時から、医療、薬学を勉強した。両親に教わっている時も、不思議と知識がすんなり頭に入り、応用できた。もちろん母からは作法をみっちりと教わった。作法の方は苦戦した。こんなのする必要があるの?と疑問になるような、貴族のお嬢様がするような作法を母は私に教えていた。母は常に、知識や作法は役立つもの。習得していれば損はないものよ、と言って、教えてくれた。

 貧乏ながらも、3人で楽しい時を過ごした。

 この街の人たちは、とにかく親切だ。料理の不得意な母に野菜や料理を持ち寄って分け合ったり、私の面倒をみんなが見てくれた。父も手伝いながら、みんなで料理をした。失敗も多かったが、楽しく過ごしていた。

 しかし、伝染病が各地に蔓延して、キャノール地方も伝染病が広がりつつあった。

 病人を優先する両親。伝染病が落ち着いた頃、両親がかかってしまった。私は母からポーションを飲みなさいと言われて飲んでいたので、罹らなかった。しかし、両親が罹ってしまった時にはすでにポーションがなかった。父が先に亡くなり、そして母の最後の時に、一つの瓶を渡された。

「これは、あなたが、もうだめだ、という時、もしくはあなたの愛する人のために使いなさい。エリクサーと呼ばれる欠損も治す、フルポーションよ。ずっと肌身離さず持っていなさい。これは私の国で作った万能薬。この国では必要な薬草がなかったからできなかったけど。 
 あなたが産まれて、お父さまと3人で過ごした日々、本当に幸せだったわ。愛しているわ、リリアナ。リリアナという名は私のお祖母様の名前なのよ。あなたにとっては曽祖母ね。ふふっ、お祖母様は女性として、そして薬師として素晴らしい方だったの。だからお祖母様のように、あなたも素晴らしい女性、薬師として生きていってほしい」

「お母さま、これを飲めば、お母さまが治るじゃないの。これをお母さまが飲んで。お願いよ。飲んで、飲んでよ」

「ダメよ、これはこれからのあなたに残すもの。愛しているわ、リリアナ」

「お母さま、お母さま、置いていかないで、お母さま」

 私は1人になってしまった。14歳だった。
 私をその時、助けてくれた人が、薬師で師匠のルルーナである。
 ルルーナは、一つの場所に留まらず、放浪しながら薬師を続ける変わった女性だった。伝染病が蔓延している中、伝染病が完治している街があると聞き、それが知り合いの辺境伯の所だと分かり、この街に流れ着き、両親を手伝ってくれた人だ。

 悲しみにくれる中、思い出した。

 前世の記憶を。

 ニホンという国で薬剤師兼看護師をしていた。38歳だった。結婚せず、戦争地域で医療ボランティアをしていた。前世では裕福な家庭だったと思う。色々な習い事をし、小中高と私立学校を卒業し、薬剤師の大学を卒業した。夜間の准看護師学校にも通い、後に経験を経て看護師の免許も取得した。

 かなりハードだったが、紛争地域の子供達の映像をニュースで見るといたたまれない気持ちになり、助けたい、力になりたいと思っていた。

 母には泣かれたが、兄や妹もいるので、両親の面倒は大丈夫だろうと考えていた。押し付けてごめん。

 時々ニホンに帰国した時は、みんなで食事をした。兄や妹も結婚し、姪っ子、甥っ子ができた。かわいいなぁ。自分も結婚し、子供ができればと思ったこともあったが、今は紛争地帯の怪我人たちや子供たちが優先だ。同じ志を持つ仲間もいる、その中でも仲の良い人もいる。今はそれで良い。

 しかし、状況が酷くなる一方である。その日は、夜に病院周辺が攻撃された。爆撃音がこだまし、悲鳴とうめき声があちこちで聞こえた。その後の記憶はない。家族に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 そして、今がある。前世薬剤師、今世も薬師として生きていっている。今思えば前世の知識の記憶が、今世薬師としての確かに繋がっていたのか、だからすんなり知識を身につけることができたのだ。

 リリアナ モア リンデン
 これが今の私の名前だ。しかし、今は平民として、リリとして生きている。

 前述も述べたように父、母は駆け落ちして結婚したので、両親の生家とは、疎遠である、というか両親がどこで生まれ育ったのか知らない。これからも知らなくていいのだろう。

 思い出した前世の記憶と共に、妹がよく読んでいた異世界転生のラノベのことを思い出し、柄にもなく、ステータスオープンと言ってしまったことは今でも赤面物だ。

(ステータスオープン)

 リリアナ モア リンデン
 14歳 
 魔力量 35000
 魔法 治癒魔法 
   生活魔法(着火 アクア 収納(時間停止付き) 浄化 リペア 刺繍)
 ギフト 鑑定


 鑑定は、人の状態異常や、薬草で、何がポーションを作れるか、逆にどういう素材で作られるかを記してくれる、なんと便利なギフトだろう。

 ポーションを作るのに魔力が必要なので、魔力があることはわかっていたが、魔法が使えるなんて知らなかった。

 たぶんであるが、わざと両親は私の洗礼の儀をしていないのであろう。魔法や魔力が多いことを周囲にいられないために。

 そして、治癒魔法。どうして両親が生きている時に発現してくれなかったのか。悔やまれる。

 なぜ、どうしてという言葉しか思い浮かばない。出てこない。遅い、遅すぎる。

 両親は亡くなってしまった。

 ギフトや魔力量は人には言ってはいけない。ドナドナされてしまう(ラノベの知識)
 人の役に立つためなら、致し方ないが、それ以外はひっそりとしていよう。

 ルルーナ師匠も自分のことを多くは語らないが、魔力があるので、貴族だったのであろう。キャノール辺境伯と仲が良く、両親の働きを聞き、こちらに来たと言っていた。あとはわからない。
 
 両親の伝染病への功績により、キャノール辺境伯とルルーナ師匠が私の身元引受人、保証人になってくれた。孤児として1人で生きていくことになるはずだったが、保証人を設けることで、身分は保証され、そして、ルルーナ師匠が私を引き取り、弟子として生活を始めることになった。

 ルルーナ師匠に助けられたあの時のことは絶対忘れないし、感謝している。だから、師匠のためにも頑張ろうと思った。

 それから、一緒に住み始めてみると、ルルーナ師匠はまったく家事が不向きな人ということがわかった。
 私が家事をしつつ、本格的薬師として始動した。母から、教わっていたので、ハイポーションなど作れる。エリクサーはこの国では、薬草がないため作ることができないが、作り方は母から教わっている。秘匿である。大事なレシピ集は、収納にしまってある。誰にも見せてはいけない。

 師匠にはハイポーションが作れるのはこの国の特級薬師だと言われ、びっくりした。
 
 この国のことを師匠に教わっていこう。でも、師匠は浮世離れしているので心配要素ではある。

 もちろん、街の人たちは、私の両親に助けられたという思いがあり、わたしを過保護すぎるほど過保護に世話を焼いてくれる。
 

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