上 下
135 / 141
本編

第127話  スタンフォート領のお酒作り

しおりを挟む
 ニコラウスとジューク騎士団長が退席し執務室内は2人だけになった。

 うっかりポロッとしてしまったのか?やってしまった。

「ジェイ、ごめんなさい。ポロッと言ってしまいました」
 抱き寄せられ、膝の上に座らされる。むっ、またこのパターンだぞ。額と額を付き合わせて会話している。

「考えがあったら、すぐ言って欲しい。ふふっ、アレクセイがあいつは考えたことをポロッと言ってしまうから困ると言っていたが本当だな。アイリの場合はみんなのことをいつも考えているから、考えが出たらポロッと言ってしまうのだろうなぁ」

「ごめんなさい。騎士団の人たち領地のために命を賭けていらっしゃるので、少しでも力になれればと思っていたの。食事でもそうですが、ポーションを固形化しようと学校で考え中なのです。ポーションは液体で瓶詰めされているので重い。そして持っていくのが大変。マジックバッグが多くあればいいのですが、私がいっぱい作ってしまうとよくないだろうし、ポーションをラムネみたいなもので接種できれば軽量化されていいのかなぁと考えているのです」

「アイリ、また、待て待て。ラムネ?とは?あとマジックバッグを作る?作れるのか?」

 あら、言っていなかったわね。貸出しているマジックバッグは制約魔法が掛かっているから、泥棒されてもただのバッグになるようにしている。

「私、魔力量が多く付与があるのでマジックバッグが作れてしまったのよ。今度、ジェイのために作ってみましょうか?それとラムネは粉を固めたもの?ちょっと違うかな。ても美味しいの」

「ラムネはいまいちわからないが、マジックバッグはそうだね、作ってもらおう。私のステータスは見せたがアイリのステータスをもう一度見せてもらえないか?ダメかな」

「大丈夫よ。ステータスオープン」

「アイリは鑑定持っているのか?集合が時間停止付きって」

「鑑定と収納の時間停止付きは、前世の記憶を思い出したら、出現したのよ。それまではなかった思うわ」

「前世の記憶を思い出したのはいつか?」

「言いにくいけど、ジェイのタウンハウスで階段から落ちて目が覚め時に、前世の記憶が蘇ったのよ。びっくりだったわ。ここはどこ?手や体がブクブクだったから、何これ?としか思えなかったわよ。両親やメイドさんたちは、髪の色がカラフルだし、私の前世は黒髪黒目だったから、本当にびっくりよ」

「前世はどういう人だった?」

「そうね、正義感は強いわよ。困難なことでも立ち向かっていったかなぁ。私20歳すぎまでは家庭が裕福な暮らしをしていたのよ。ずっと続けていたのは剣道という武術。頭脳はまあまあよかった方じゃないかなぁ。自分で言うのも恥ずかしいけど。でも、世界情勢で父親が経営する会社がうまく行かなくて、お金が少ない生活になってしまったのよね。だけど、両親は一緒に頑張って働いていたから、私も働きながら弟や妹たちの面倒を見ていたの。洋服をお直しして、みんなでご飯作って細々と暮らしていたけど6人の生活は楽しかったなぁ。ルー、ルルーシェ様の前世の担任がうちの弟だったの。信じられる?学校の先生になるんだとは言っていたけど、熱血体育の先生だって。2人の子供に恵まれたって。妹たちにも子供がいて、両親の周りが華やいでいてよかった。ぐずっ、みんなに会いたかったなぁ」

 ジェイシス様は黙って、背中をさすってくれたり、頭を撫でたり、額やこめかみに口づけをしてくれた。

「ごめん、ジェイ。へへ、しんみりしちゃった」

「今は、アイリには俺がいる。アレクセイやご両親もいる。カイルやレオン、俺の両親もいる。それに友達もいる。前世の両親や兄弟に誇っていいと思うよ」

「そうだね、かわいいかわいいカイルやレオンもいるね」

「かわいいカイルやレオンだけではないだろう」

「じゃぁ、可愛い可愛いジェイがいる?」

「俺は可愛くないぞ」

「ジェイ、ありがとう。これからもよろしくね」

「こちらこそ、奥さん」

「早いわよ。奥さんは、恥ずかしい」

 朝から騒がしかった。ドリガン親方が早々とやってきた。

「はやっ」

「酒を作るっていうから早々に来たぞ」
  「構想はあるけど、早すぎるのですがー」

「まぁ、いいじゃないか、どんな形でどんな構造なんだ?」
 酒といったら聞く耳持たないよ、このおじさんたちは。まぁ、いいか。このスタンフォート公爵領には大麦もたくさんあるのよ。大麦と言えばビール。喉越し爽やかビール。

 ドリガン親方にタンクを作ってほしい。どうする?言ってみる?

「姉ちゃん、なんだい。言いたいことがある顔なんだよ。何作ってほしいのか?」

「ビールを作るためのタンクがほしい。喉越し爽やかなのよ。水に浸す。発芽。乾燥。発酵。濾過。熟成なのよ」

「は?喉越し爽やか?考えてみるよ。エールににているのか?」

「お友達の関係かな」

「まぁ、エールに似ているなら、わかるかな。やってみるよ」
 頼りになるドリガン親方。

 こうして私のワイン、ビール作りはスタンフォート領で始まった。また、ジェイシス様に詳しく話していなかった。まずい、怒られる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

寝取られ予定のお飾り妻に転生しましたが、なぜか溺愛されています

あさひな
恋愛
☆感謝☆ホットランキング一位獲得!応援いただきましてありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)  シングルマザーとして息子を育て上げた私だが、乙女ゲームをしている最中にベランダからの転落事故により異世界転生を果たす。 転生先は、たった今ゲームをしていたキャラクターの「エステル・スターク」男爵令嬢だったが……その配役はヒロインから寝取られるお飾り妻!? しかもエステルは魔力を持たない『能無し』のため、家族から虐げられてきた幸薄モブ令嬢という、何とも不遇なキャラクターだった。 おまけに夫役の攻略対象者「クロード・ランブルグ」辺境伯様は、膨大な魔力を宿した『悪魔の瞳』を持つ、恐ろしいと噂される人物。 魔獣討伐という特殊任務のため、魔獣の返り血を浴びたその様相から『紅の閣下』と異名を持つ御方に、お見合い初日で結婚をすることになった。 離縁に備えて味方を作ろうと考えた私は、使用人達と仲良くなるためにクロード様の目を盗んで仕事を手伝うことに。前世の家事スキルと趣味の庭いじりスキルを披露すると、あっという間に使用人達と仲良くなることに成功! ……そこまでは良かったのだが、そのことがクロード様にバレてしまう。 でも、クロード様は怒る所か私に興味を持ち始め、離縁どころかその距離はどんどん縮まって行って……? 「エステル、貴女を愛している」 「今日も可愛いよ」 あれ? 私、お飾り妻で捨てられる予定じゃありませんでしたっけ? 乙女ゲームの配役から大きく変わる運命に翻弄されながらも、私は次第に溺愛してくるクロード様と恋に落ちてしまう。 そんな私に一通の手紙が届くが、その内容は散々エステルを虐めて来た妹『マーガレット』からのものだった。 忍び寄る毒家族とのしがらみを断ち切ろうと奮起するがーー。 ※こちらの物語はざまぁ有りの展開ですが、ハピエン予定となっておりますので安心して読んでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします!

処理中です...