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本編

第67話 ジェイシス様との距離

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 そろそろお暇の時間になり、今度は我が家に遊びに来て欲しいことを伝えた。その時は、あの宮廷魔導士のアグリ様の転移魔法で行くことになるらしい。それなら領地に来ないかとお誘いしてた。絶対ルーなら楽しめると思う。楽しみだなぁ。その時は私が先に帰って用意しないとダメよね。やっぱり王都近郊タウンハウスにお招きかな。お父さまとお兄さまに相談しよう。

 そして、スタンフォート公爵様再び。仕事は大丈夫なのですか?王妃様の方を見るとにこやかに頷かれた。朝夕謀られているなぁ、やっぱり。

「あの、ありがとうございます。スタンフォード公爵様。仕事がお忙しいようなら無理せず大丈夫です。お父さまも王城におりますし、本当に無理せずお願いします」

「全く無理していないですよ。むしろ仕事が捗って、すぐ終わりました。毎日、このようにお会いしたいですね」
 爽やかさに微笑まれた。毎日私は王城は行きませんよ。淑女教育だっていやなのよ。

 また、お隣、手繋状態です。

「あの、スタンフォート公爵様、距離が近いと思うのですが?」

「ジェイシスと呼んでください。ジェイシスです」

「ジェ、ジェイシス様」

 にこやかに微笑んだ。
「近いですか?適切距離だと思っていますが、どうか慣れていただけないでしょうか。私の都合で申し訳ないと思っています。私はあなたとこのようにふれあいができてとても嬉しいのです。ずっと、なぜ番が現れないのか、なぜ他の人は見つかるのに私には見つからないのか、自問自答する毎日でした。そして番外しの年齢に近づいてきていることに焦りと喪失を感じる毎日でした。今、毎日が幸せです」
 慣れってどうすれば慣れるの?

 鑑定さん教えてー。

 慣れとは、その状態に長く置かれたり、たびたびそれを経験したりして、違和感がなくなる。通常のこととして受け入れられるようになる。
 その人に対して、違和感がなくなる。その人に親しみの気持ちをもつようになる。
 です。

 いやいや、意味を教えてもらってもね。
「今日は、ルルーシェとどんなことを話したのですか?あの子はずっと篭りっぱなしで人付き合いをしてこなかったので心配だったのです」

「学園入学の話をしました。一緒に錬金・薬学コースに進むことにしたのです。ルルーシェ様は特に薬学で薬を作り人のためになりたいと言ってました」

「そうか、ルルーシェが前を向いて歩き出したのか。よかった。だが、2人とも錬金・薬学コースですか?あそこは女性が少ないと思いますが?」

「そうですね、女性が少ないとは聞いてますが少ないからと言って選択をやめることはしないですよ」

「そうですか」
(ジェイシスの心の声)
 男性ばかりのところに行かせるのは心配だ。ルルーシェがいるとは言え、男ばかりがいるところに行かせるなんて、私も入学しようか。それが一番いい考えだな。

「錬金・薬学コースで何か作りたいものがあるのですか?」

「何が作れるかはわからないですが、まずポーションを作ることは基礎ですよね。あとは魔道具ですね。父、兄2人共に魔道具を作ることが大好きなので、私も一緒に作りたいと思ってます」

「そうか、今、モンテスキュー侯爵殿の立ち上げた商会が活躍しているからね。あれはアイリ嬢の知識が入っているのかな?」

「知識というかこういうものがあれば便利かなと言ったことをお兄さまが覚えておいて、作るという流れです。ふふふっ、お兄さまがいつも怒るんですよ、お前はついポロっと言うから気が抜けないって、ポロッというのではなく、纏めて伝えてくれというのですよ。発想はポロッと出るものなのです」

「では,私もアイリ嬢の会話を聞き逃さないようにしよう。あなたが求めているものがわかるのかな」

 大したことを言っていないので聞き流してください。

「アイリ嬢、今度は食事に行きましょう。時間が少なすぎる。もう少し長い時間あなたと過ごしたい。私のことを知って欲しい」

「は、はい。でも、お仕事無理なさらずにしてくださいね。ジェイシス様が倒れたら、みんな大変なことになってしまいますので、本当に無理なさらないでくださいね」

「わかっています。では、お食事にお誘いしますのでよろしくお願いします」
 あれ?結局次の約束をしてしまった。ジェイシス様やり手だなぁ。私がチョロいのか?


 無事、甘々な空間をやり過ごし、西洋風挨拶をし家に帰り着いた。お父さまが先にお帰りになっていた。帰っているなら、私も一緒に帰りたかったことを伝えた。

「いやー、スタンフォート公爵殿がだな、自分が送っていくのでと言われたからには、引き下がるしかないだろう。圧に押されたよ。はははは」
 圧に屈しないでお父さま。そこは娘は私が連れて帰るのでー、とか言ってお断りしてよ、もう。

「お母さま、聞いてくださぁい。私が学園に入学し錬金・薬学コースに進むことを伝えたら、王妃様が淑女教育をルルーシェ様と一緒にすると言っているのです。回避する方法ないですか」

「えっ、王妃様が淑女教育をしてくださるの。まあ、ぜひやりなさい。私では、公爵夫人としての教育はできないので王妃様なら立派な淑女にしてもらえるでしょう。まだまだあなたは淑女として足りないところがありすぎるわ。王妃様のお心遣い、ありがたいわ」
 えっ、私公爵夫人になるの?

「あの、私公爵夫人にならないといけないのですか」
 
 両親2人ともギョッとした顔で、私を見た。
「アイリちゃん、あなた、スタンフォート公爵様の番が回避できると思っていた?公爵様を見ていると国王陛下が王妃様へのアプローチに似ているわね。それはもう熱烈だったわね」
 お母さま遠い目をしていますね。そんなに国王陛下は王妃様のアプローチが熱烈だったのね。そうね、王妃様も躱す方法と言っているぐらいだから、熱烈アピールだったのかな。

「そうだな、みんな熱烈アピールがすごかったな。見ているこっちが恥ずかしくなるほどだったが、国王本人や王弟だった公爵殿のお父上である前公爵は全く気にせずアピールしていたな。アイリ、まぁ、がんばれ」

 がんばれではなく、お父さま、防波堤になってくださいよ。

「お父さま、相談があるのですが。今度ルルーシェ様をお家に呼びたいのですがダメですか?領地でもいいのですが、いかがでしょうか?」

「ルルーシェ王女殿下を我が家にだとー!警備などは、アグリ様か?そんなにアグリ様をそういうことに使ってはダメだろう。うーん、警備さえ完璧なら大丈夫だろうが、うーん。しかし何故領地なのだ?」

「それはですね、絶対ルーはあの青い海にヤシの木を気に入ってくれるはずなのです。本当は水上バイクを作りたいのですが、お父さま作ってください」

「また、難解な言葉が出たな。すいじょうばいく?とはなんだ?待て、待て、それはアレクセイが帰ってきたから聞くことにする」

「なんですか、父上。また、アイリが何か言い出したのですか?」
 ひどいお兄さま、私がおかしなやつだと思っているのかしら?
「酷いです、お兄さま。私は水上バイクを作って欲しいと言っただけですよ。ルルーシェ様を領地に連れて行き、海で遊びたいなぁと思っただけです」

「はぁ、アイリ、そのすいじょうばいく?とはなんだよ。初めて聞く名前だけど?父上、俺に丸投げしようとしましたね」

「いや違うよ。アイリの難語はアレクセイと一緒に聞かないとダメじゃないか。だからお前が帰ってくるまで待っていたのだよ」
 
 その後お父さまとお兄さまに水上バイクがどういうものかを説明し、絵を描き、スロットルでブルンブルンして動くのー、とやはり訳のわからないと言われてしまった。

「アイリ、ルルーシェ様をお呼びするなら、カイデール殿下も呼ばないとダメだぞ。双子の兄弟なのだから」
 えー、また大事にならないように、少人数でよろしく。

「そうだわ、アイリちゃん。アラベルト公爵令嬢のレティシア様からお手紙が届いていたわよ。お部屋に置いてあるから確認してね」

「はぁい、お母さま。ありがとうございます」

「語彙を伸ばさないこと!」

 すみません、まだまだ貴族言葉は難しいです。



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