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第5章 問題は思ったよりも大きく
第4話 報告と計画
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仕事を終えて健斗は真っすぐ家に向かう。健斗は道中に周囲の人影を警戒したが、後をつけられているような感覚は無かった。やはり玲のみを狙っているのだろうと思いながら家に着くと、慎重に家の扉を開けた玲に静かに迎え入れられる。内側から鍵を閉めると玲は空港の検査のようにボディチェックを始めたのである。一通り体を確認した後、玲はうんとうなずいた。
「何もされていないみたいね。……良かった」
「……泉さん、時々可愛い事しますよね」
「へ、変な事言わないでちょうだい!」
健斗は玲の行動にキュンと来てしまい、頬が熱くなり額に右手を当てる。可愛いと言われ慣れていなかった玲も恥ずかしさで顔を逸らしてしまった。気まずさを払拭するため、その場を打ち切ってお互いに仕事着から私服に着替える。一度落ち着いてから、二人は情報の共有を始めた。
「そう、やっぱり社員の誰かが……」
「多分あの人が怪しいんですけど……、まだ断定はできません」
「落ち込まないで、君は本当によく頑張ってくれてるわ」
健斗は犯人の目星だけは付けているのだが、まだ断定できないために名前は出さないでおいた。不甲斐ないと肩を落とす健斗を、玲は肩に手を置いて宥めた。すみませんと一言おいてから、そちらはどうでしたかと健斗は玲に問いかけた。玲はそうね、と顎に手を触れながら振り返って報告をする。
「今日はずっと防音部屋にいさせてもらったのだけれど、特に誰かが来たり覗いて来たりなんてことは無かったわね」
「良かった……、それが心配だったんです」
これまで直接的な行動はしていなかったとはいえ、やはりストーカーがのさばっている状態では決して安心できない。事情を知ってしまった以上、健斗にとっては危機意識を感じずにはいられなかった。急いで帰る際に引き留めてくる同僚をデスク越しに回避してきて振り切ってきたのもそれが理由だった。
「それにしても、泉さんの情報がすぐに噂に出てくるのがどうしてなのか疑問なんですよね、いくら何でも情報が早すぎるような……」
「……音無君、これを見て」
「泉さんのスマホ、ですか? 一体……っ!?」
健斗は画面に映し出されていた内容に驚愕して思わず口を噤んだ。画面に映し出されていたのは簡素な文章だ。問題なのはその文の内容だ。見ただけで健斗は血の気が引いてしまったのである。そして気持ち小声になりながらも話を続ける。
「ま、まさかそんなことを……!?」
「ええ、恐らくはこれが原因よ。……実は引っ越す前の家に、同じことがされていたの」
「……これはもう、立派な犯罪じゃないですか」
健斗はストーカーの行動に震えたが、何処か納得もしていた。そして健斗の中で新たな疑惑が浮かんだ。社内で怪しいと感じた山岸の他に、もう一人噂を聞きつけるのが早かった人間を思い出した。もし考えが合っていた場合、今この状況は寧ろ利用できるんじゃないかと考えた健斗は、小声のまま玲に向き直った。
「泉さん、ちょっと考えがあるのですが……」
「ええ、私もあるから共有しましょうか」
それからかなり長い時間、建斗と玲は作戦について話し合いを始めた。お互いに知っている事と考えた事を余すことなく伝えあった。一体何時間続いたか、夜もすっかりと更けてしまった頃にようやく話が纏まった。
「……という感じで行きましょう」
「はい、上手くいくといいんですけど……」
「大丈夫。私達二人でじっくりと考えた案なのだから、きっと上手くいくわ」
「そう、ですね!」
方針を決めて満足気な二人は、寝る準備をするためにそれぞれの部屋に行く。数時間前までは双方共に不安を引きずっていたのだが、今それぞれの部屋で一人になっているにも関わらずぐっすりと眠ったのだった。
そして翌朝、作戦は決行される。健斗は今後の行動について意識しすぎているせいか、ややぎこちない動きで家を出る支度をする。普段の玲だったらしっかりしなさいと指摘する所だ。しかし今日ばかりは彼の緊張がうつってしまっており、見た目ではわかりにくいが全身が強張っている。玄関の扉に手をかけながら、健斗は玲と向き合って握手を交わす。
「今日は金曜だけれど、手筈通り私は在宅に変更したから」
「はい。何かわかったら、すぐに連絡しますね」
「ええ、私も入念に確認しておくわね」
「では……行ってきます、玲さん」
「ええ……気を付けてね、健斗くん」
問題を乗り超えるため、健斗と玲は更に結束を強める事となった。件のストーカーがどんな目的であれ、二人の仲が深まるのは、全く面白くない展開であるという事は間違いないだろう。
「何もされていないみたいね。……良かった」
「……泉さん、時々可愛い事しますよね」
「へ、変な事言わないでちょうだい!」
健斗は玲の行動にキュンと来てしまい、頬が熱くなり額に右手を当てる。可愛いと言われ慣れていなかった玲も恥ずかしさで顔を逸らしてしまった。気まずさを払拭するため、その場を打ち切ってお互いに仕事着から私服に着替える。一度落ち着いてから、二人は情報の共有を始めた。
「そう、やっぱり社員の誰かが……」
「多分あの人が怪しいんですけど……、まだ断定はできません」
「落ち込まないで、君は本当によく頑張ってくれてるわ」
健斗は犯人の目星だけは付けているのだが、まだ断定できないために名前は出さないでおいた。不甲斐ないと肩を落とす健斗を、玲は肩に手を置いて宥めた。すみませんと一言おいてから、そちらはどうでしたかと健斗は玲に問いかけた。玲はそうね、と顎に手を触れながら振り返って報告をする。
「今日はずっと防音部屋にいさせてもらったのだけれど、特に誰かが来たり覗いて来たりなんてことは無かったわね」
「良かった……、それが心配だったんです」
これまで直接的な行動はしていなかったとはいえ、やはりストーカーがのさばっている状態では決して安心できない。事情を知ってしまった以上、健斗にとっては危機意識を感じずにはいられなかった。急いで帰る際に引き留めてくる同僚をデスク越しに回避してきて振り切ってきたのもそれが理由だった。
「それにしても、泉さんの情報がすぐに噂に出てくるのがどうしてなのか疑問なんですよね、いくら何でも情報が早すぎるような……」
「……音無君、これを見て」
「泉さんのスマホ、ですか? 一体……っ!?」
健斗は画面に映し出されていた内容に驚愕して思わず口を噤んだ。画面に映し出されていたのは簡素な文章だ。問題なのはその文の内容だ。見ただけで健斗は血の気が引いてしまったのである。そして気持ち小声になりながらも話を続ける。
「ま、まさかそんなことを……!?」
「ええ、恐らくはこれが原因よ。……実は引っ越す前の家に、同じことがされていたの」
「……これはもう、立派な犯罪じゃないですか」
健斗はストーカーの行動に震えたが、何処か納得もしていた。そして健斗の中で新たな疑惑が浮かんだ。社内で怪しいと感じた山岸の他に、もう一人噂を聞きつけるのが早かった人間を思い出した。もし考えが合っていた場合、今この状況は寧ろ利用できるんじゃないかと考えた健斗は、小声のまま玲に向き直った。
「泉さん、ちょっと考えがあるのですが……」
「ええ、私もあるから共有しましょうか」
それからかなり長い時間、建斗と玲は作戦について話し合いを始めた。お互いに知っている事と考えた事を余すことなく伝えあった。一体何時間続いたか、夜もすっかりと更けてしまった頃にようやく話が纏まった。
「……という感じで行きましょう」
「はい、上手くいくといいんですけど……」
「大丈夫。私達二人でじっくりと考えた案なのだから、きっと上手くいくわ」
「そう、ですね!」
方針を決めて満足気な二人は、寝る準備をするためにそれぞれの部屋に行く。数時間前までは双方共に不安を引きずっていたのだが、今それぞれの部屋で一人になっているにも関わらずぐっすりと眠ったのだった。
そして翌朝、作戦は決行される。健斗は今後の行動について意識しすぎているせいか、ややぎこちない動きで家を出る支度をする。普段の玲だったらしっかりしなさいと指摘する所だ。しかし今日ばかりは彼の緊張がうつってしまっており、見た目ではわかりにくいが全身が強張っている。玄関の扉に手をかけながら、健斗は玲と向き合って握手を交わす。
「今日は金曜だけれど、手筈通り私は在宅に変更したから」
「はい。何かわかったら、すぐに連絡しますね」
「ええ、私も入念に確認しておくわね」
「では……行ってきます、玲さん」
「ええ……気を付けてね、健斗くん」
問題を乗り超えるため、健斗と玲は更に結束を強める事となった。件のストーカーがどんな目的であれ、二人の仲が深まるのは、全く面白くない展開であるという事は間違いないだろう。
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