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第2章 契約開始
第10話 在宅理由
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「そういやさー」
「なんだ?」
昼下がりの集中力が下がりがちな時間帯、背もたれに思いきり体重を預けた聡一が唐突に話し出した。こうなると話を聞いてくれるまで引き下がらない事を知っている健斗は、片手間に聞き流す体勢に入る。
「泉さんって、何で在宅勤務なんだったっけ?」
「佐々木先輩、前の朝礼聞いてなかったんですか?」
「俺に関係ない事は全部聞き流しちゃってるからさー」
どうやら向かいに居た小里も集中が切れていたようで、二人の会話に割り入ってきた。このまま二人で話しが続きそうだと思い健斗はパソコンに再び視線を戻すが、小里が強引にこちらに水を向けてきた。
「音無先輩は勿論分かってますよねー?」
「泉さんの事だから、知ってるだろうなー」
「……把握はしてる。というか聞いてないお前の方が少数派だからな?」
「マジでー?」
「マジですよ」
言い方が癪だなと感じているが、健斗は当然把握していた。彼にとっては玲と会うチャンスが減る事についてなのだから当時は気になって仕方なかったのである。
「で、何でだっけ?」
「うちの会社にも近頃、在宅勤務の制度を取り入れようという動きがあるんだよ」
「今更って感じしますけどねー」
在宅勤務を始めるというのは数年前から始まっていた流れではあった。会社としてはかなり遅れてようやくスタートしている状態である。
「けどいきなり皆を在宅にするのは難しい。だから代表として泉さんが実践しているんだ」
「確かにあの人が見られていないからってサボるようには見えないもんなー」
「佐々木先輩と違って真面目ですからねー」
「今俺を貶す必要あった!?」
玲は冷女と怖がられてはいるものの、仕事面では絶対的な信頼がある。そのため彼女が代表として選ばれるのは必然とも言えただろう。
「そういえば……泉さんが在宅勤務始めるってなった時、音無先輩がこの世の終わりみたいな顔してたのを思い出しました」
「俺そんなに絶望してたっけか?」
健斗の言葉を聞いた二人は、一瞬フリーズしてからいやいやいやいやと首を思い切り横に振り始めた。
「一週間連続でお前の弁当が醤油と白飯しか無かった事は流石に忘れられないからな!? あの時は本気で心配したんだぞ!?」
「そーですよ! いつも人にたかってるでお馴染みのあの私がコンビニ弁当のおかずを分けてあげたんですからね!? 相当でしたよ!?」
「戸村お前、人として相当駄目な事言ってるって自覚あるか?」
「そこはまあ私ですから!」
「駄目だ音無、こいつは無敵だ」
「えっへん!」
「えっへんじゃねえよ!」
後輩のあまりの太々しさに二人はこれ以上ツッコむのを止めた。
「そういえば佐々木、お前は在宅にしたくないのか?」
「ああ、通勤めんどいーっていつも言ってますよね」
「んー? 俺かー?」
毎朝電車に揺られてげんなりした顔で出勤してくる聡一はどう思っているのか。健斗と小里からしたら聡一は在宅派かと予想していたのだが、彼の返答は意外なものだった。
「いや、俺は今のままでいいかなー」
「そうなのか? 意外だな」
「だってさ、お前らと会う時間が減っちまうじゃん。俺たちは仲間なんだし、出来るだけ一緒にいたいんだよ」
「佐々木……」
「佐々木先輩……」
しんみりとした空気が流れる。感動の場面かと思いきや、小里が急に真顔になって尋ねる。
「で、本音は?」
「実家で仕事とかマジで無理……」
「はいはい、そんなことだろうと思ってましたよ。ちなみに私も同じ理由で無しでーす」
「お前ら……」
思ったよりも自分都合な理由だった。ちょっとだけ沸き起こった感動の時間を返して欲しいと健斗は心の中で訴えた。
「で、確か音無先輩も在宅はしない派でしたよねー」
「あ、あぁ……」
(泉さんに会えなくなるからなー)
(泉さんに会えなくなっちゃいますからねー)
「……何だその目は。身の毛がよだつから止めてくれ」
二人して目を細めながら ニヘラ笑いを浮かべてくる様子にかなり居心地が悪くなる。健斗のいった通りにすぐに目線を送るのを止めた聡一は、にしても……と呟く。
「在宅勤務かー……。もし本当に在宅になるんだったら、音無んちの部屋みたいに防音とかの対策が要りそうだなー」
「ん? まあそうだな……」
「てことでさー」
健斗の背筋に、何か冷たいものが走った。聡一はニヤリと健斗の目を見ながら顔を近づけてくる。離れようとするが、後ろからいつの間にか回り込んでいた小里に肩を掴まれてしまったために離れられない。
「な、何が望みなんだ?」
「先輩怖がりすぎですよ、そんなとんでもない頼みはしませんよー?」
「日頃の行いって知ってるか?」
「知ってるけど知りませーん」
前方に聡一、後方に小里という絶望的な状況。逃げ道を塞いだ二人から、健斗の日々を脅かすかもしれない言葉が放たれたのである。
「音無……今週末、お前んちの防音室を見に行ってもいいか?」
「私も行きたいでーす」
「……何だって?」
健斗と玲が何がなんでも守りたい契約。秘密を破らんとしてくる危機は、無情にもやってくるのだった。
「なんだ?」
昼下がりの集中力が下がりがちな時間帯、背もたれに思いきり体重を預けた聡一が唐突に話し出した。こうなると話を聞いてくれるまで引き下がらない事を知っている健斗は、片手間に聞き流す体勢に入る。
「泉さんって、何で在宅勤務なんだったっけ?」
「佐々木先輩、前の朝礼聞いてなかったんですか?」
「俺に関係ない事は全部聞き流しちゃってるからさー」
どうやら向かいに居た小里も集中が切れていたようで、二人の会話に割り入ってきた。このまま二人で話しが続きそうだと思い健斗はパソコンに再び視線を戻すが、小里が強引にこちらに水を向けてきた。
「音無先輩は勿論分かってますよねー?」
「泉さんの事だから、知ってるだろうなー」
「……把握はしてる。というか聞いてないお前の方が少数派だからな?」
「マジでー?」
「マジですよ」
言い方が癪だなと感じているが、健斗は当然把握していた。彼にとっては玲と会うチャンスが減る事についてなのだから当時は気になって仕方なかったのである。
「で、何でだっけ?」
「うちの会社にも近頃、在宅勤務の制度を取り入れようという動きがあるんだよ」
「今更って感じしますけどねー」
在宅勤務を始めるというのは数年前から始まっていた流れではあった。会社としてはかなり遅れてようやくスタートしている状態である。
「けどいきなり皆を在宅にするのは難しい。だから代表として泉さんが実践しているんだ」
「確かにあの人が見られていないからってサボるようには見えないもんなー」
「佐々木先輩と違って真面目ですからねー」
「今俺を貶す必要あった!?」
玲は冷女と怖がられてはいるものの、仕事面では絶対的な信頼がある。そのため彼女が代表として選ばれるのは必然とも言えただろう。
「そういえば……泉さんが在宅勤務始めるってなった時、音無先輩がこの世の終わりみたいな顔してたのを思い出しました」
「俺そんなに絶望してたっけか?」
健斗の言葉を聞いた二人は、一瞬フリーズしてからいやいやいやいやと首を思い切り横に振り始めた。
「一週間連続でお前の弁当が醤油と白飯しか無かった事は流石に忘れられないからな!? あの時は本気で心配したんだぞ!?」
「そーですよ! いつも人にたかってるでお馴染みのあの私がコンビニ弁当のおかずを分けてあげたんですからね!? 相当でしたよ!?」
「戸村お前、人として相当駄目な事言ってるって自覚あるか?」
「そこはまあ私ですから!」
「駄目だ音無、こいつは無敵だ」
「えっへん!」
「えっへんじゃねえよ!」
後輩のあまりの太々しさに二人はこれ以上ツッコむのを止めた。
「そういえば佐々木、お前は在宅にしたくないのか?」
「ああ、通勤めんどいーっていつも言ってますよね」
「んー? 俺かー?」
毎朝電車に揺られてげんなりした顔で出勤してくる聡一はどう思っているのか。健斗と小里からしたら聡一は在宅派かと予想していたのだが、彼の返答は意外なものだった。
「いや、俺は今のままでいいかなー」
「そうなのか? 意外だな」
「だってさ、お前らと会う時間が減っちまうじゃん。俺たちは仲間なんだし、出来るだけ一緒にいたいんだよ」
「佐々木……」
「佐々木先輩……」
しんみりとした空気が流れる。感動の場面かと思いきや、小里が急に真顔になって尋ねる。
「で、本音は?」
「実家で仕事とかマジで無理……」
「はいはい、そんなことだろうと思ってましたよ。ちなみに私も同じ理由で無しでーす」
「お前ら……」
思ったよりも自分都合な理由だった。ちょっとだけ沸き起こった感動の時間を返して欲しいと健斗は心の中で訴えた。
「で、確か音無先輩も在宅はしない派でしたよねー」
「あ、あぁ……」
(泉さんに会えなくなるからなー)
(泉さんに会えなくなっちゃいますからねー)
「……何だその目は。身の毛がよだつから止めてくれ」
二人して目を細めながら ニヘラ笑いを浮かべてくる様子にかなり居心地が悪くなる。健斗のいった通りにすぐに目線を送るのを止めた聡一は、にしても……と呟く。
「在宅勤務かー……。もし本当に在宅になるんだったら、音無んちの部屋みたいに防音とかの対策が要りそうだなー」
「ん? まあそうだな……」
「てことでさー」
健斗の背筋に、何か冷たいものが走った。聡一はニヤリと健斗の目を見ながら顔を近づけてくる。離れようとするが、後ろからいつの間にか回り込んでいた小里に肩を掴まれてしまったために離れられない。
「な、何が望みなんだ?」
「先輩怖がりすぎですよ、そんなとんでもない頼みはしませんよー?」
「日頃の行いって知ってるか?」
「知ってるけど知りませーん」
前方に聡一、後方に小里という絶望的な状況。逃げ道を塞いだ二人から、健斗の日々を脅かすかもしれない言葉が放たれたのである。
「音無……今週末、お前んちの防音室を見に行ってもいいか?」
「私も行きたいでーす」
「……何だって?」
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