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第2章 契約開始
第9話 設備一新
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健斗の家に新しいルータが届いた、という訳で就業時間後に健斗と玲は部屋で箱の開封をしていた。中身を取り出すと、いかにも高性能そうな新品のルータが姿を現した。
「こ、これが!」
「はい、現状で最新式のルータですね」
「高そうですね……」
「最も性能の良い製品ですから、価格も相応です」
「で、ですよね……」
こういった機器に明るくない健斗からすると、なんか凄そうぐらいしか感想が出せない。玲に価格を教えてもらうと、彼は思わず目玉が飛び出しそうになった。
「予定通り、費用は私が出しておきました。音無君には個人的に使用してもらっても構いませんので」
「し、しかしこれは……せめて半額だけでも出させてくれませんか?」
あの値段を全て玲が支払った、と聞いてしまっては引き下がる事が出来ない。増して健斗が今後自由に使ってもいいとなると流石に支払いをしないと罪悪感でいっぱいになってしまう。しかし玲はこの話の主導権を譲るつもりはなかった。
「音無君、これは上司としての命です」
「うっ……で、ですが……」
玲は仕事で見せている分と比べて五割程度の威圧感を放つ。たじろぎながらも健斗はまだ引かない。冷女を相手にここまで引かない人間は、きっと健斗だけだろう。目を閉じて一息ついた玲は、最終手段に出ることを決めた。
「……出来ればこの手段は使いたくなかったのですが、仕方がありません」
「え?」
「現時点において、私は貴方の課の長。つまり……私は君よりも収入が多いのですよ?」
「ぐはぁっ!?」
玲はがっつり自分の立場を活かした攻撃をした。健斗は敢え無く撃沈、膝から崩れ落ちた。健斗が戦意喪失した姿を見て、玲は片膝をついてしゃがみ彼の肩に手を置く。
「そういう事ですから、大人しく受け取っておいてください」
「うぅ……。その攻撃はズルいですよ……」
「ごめんなさい、音無君。貴方には既に部屋を貸していただいている恩がありますから、この位はしておきたかったんです」
玲は健斗を宥めるように言うが、彼はまだ引き下がる事が出来ないようで、まだ首を縦に振ることが出来ない。
「ふふっ、まだ納得できていないようですね。……では、代わりの条件を出します」
「条件、ですか?」
「はい」
健斗は顔を上げる。彼女の為なら何でもしようと意気込んでいると玲は何かを思い出すようにリビングのソファを見ていた。そして彼に向き直して彼に条件を告げた。
「私の仕事終わりに、即席で構いませんのでコーヒーを用意してもらえますか?」
「!」
「帰宅してからだと、どうしても遅い時間になってしまう事が気になっていたんです」
以前に玲が残業を終えた後、健斗と共にコーヒーを飲んだ事があった。健斗もつい最近あった出来事だったためにすぐに思い出した。玲はあの時間を気に入ったらしい。健斗はすぐに肯定する。
「それは是非用意させていただきますよ! でも大した手間じゃ無いですし、釣り合わないような?」
「コーヒー代も、積み重なれば大きな予算に成り得るんですよ? 以前オフィスにコーヒーサーバーを置くことを検討した際、設置費用諸々の値段を見た事があるのですが……」
「ど、どのくらいかかるんですか……?」
「……ルータの値段を見た君の驚き具合じゃ、全然足りないわよ?」
「ひぇっ……」
四つん這いになったままの健斗の耳に、玲は顔を近づける。そして彼女はこう囁いた。
「そういう事だから、お願いね?」
「は、はいっ……」
彼女の透き通った声が鼓膜に直接届けられたような感覚に、健斗は全身の力が抜けた。
(今のお願いを断れる男なんていないだろ……。オフィスの連中が今の泉さんの表情を見たら皆卒倒するって……)
その後はつつがなくルータを設置して、通信環境が改善されたことに玲は満足して帰っていくのであった。
「こ、これが!」
「はい、現状で最新式のルータですね」
「高そうですね……」
「最も性能の良い製品ですから、価格も相応です」
「で、ですよね……」
こういった機器に明るくない健斗からすると、なんか凄そうぐらいしか感想が出せない。玲に価格を教えてもらうと、彼は思わず目玉が飛び出しそうになった。
「予定通り、費用は私が出しておきました。音無君には個人的に使用してもらっても構いませんので」
「し、しかしこれは……せめて半額だけでも出させてくれませんか?」
あの値段を全て玲が支払った、と聞いてしまっては引き下がる事が出来ない。増して健斗が今後自由に使ってもいいとなると流石に支払いをしないと罪悪感でいっぱいになってしまう。しかし玲はこの話の主導権を譲るつもりはなかった。
「音無君、これは上司としての命です」
「うっ……で、ですが……」
玲は仕事で見せている分と比べて五割程度の威圧感を放つ。たじろぎながらも健斗はまだ引かない。冷女を相手にここまで引かない人間は、きっと健斗だけだろう。目を閉じて一息ついた玲は、最終手段に出ることを決めた。
「……出来ればこの手段は使いたくなかったのですが、仕方がありません」
「え?」
「現時点において、私は貴方の課の長。つまり……私は君よりも収入が多いのですよ?」
「ぐはぁっ!?」
玲はがっつり自分の立場を活かした攻撃をした。健斗は敢え無く撃沈、膝から崩れ落ちた。健斗が戦意喪失した姿を見て、玲は片膝をついてしゃがみ彼の肩に手を置く。
「そういう事ですから、大人しく受け取っておいてください」
「うぅ……。その攻撃はズルいですよ……」
「ごめんなさい、音無君。貴方には既に部屋を貸していただいている恩がありますから、この位はしておきたかったんです」
玲は健斗を宥めるように言うが、彼はまだ引き下がる事が出来ないようで、まだ首を縦に振ることが出来ない。
「ふふっ、まだ納得できていないようですね。……では、代わりの条件を出します」
「条件、ですか?」
「はい」
健斗は顔を上げる。彼女の為なら何でもしようと意気込んでいると玲は何かを思い出すようにリビングのソファを見ていた。そして彼に向き直して彼に条件を告げた。
「私の仕事終わりに、即席で構いませんのでコーヒーを用意してもらえますか?」
「!」
「帰宅してからだと、どうしても遅い時間になってしまう事が気になっていたんです」
以前に玲が残業を終えた後、健斗と共にコーヒーを飲んだ事があった。健斗もつい最近あった出来事だったためにすぐに思い出した。玲はあの時間を気に入ったらしい。健斗はすぐに肯定する。
「それは是非用意させていただきますよ! でも大した手間じゃ無いですし、釣り合わないような?」
「コーヒー代も、積み重なれば大きな予算に成り得るんですよ? 以前オフィスにコーヒーサーバーを置くことを検討した際、設置費用諸々の値段を見た事があるのですが……」
「ど、どのくらいかかるんですか……?」
「……ルータの値段を見た君の驚き具合じゃ、全然足りないわよ?」
「ひぇっ……」
四つん這いになったままの健斗の耳に、玲は顔を近づける。そして彼女はこう囁いた。
「そういう事だから、お願いね?」
「は、はいっ……」
彼女の透き通った声が鼓膜に直接届けられたような感覚に、健斗は全身の力が抜けた。
(今のお願いを断れる男なんていないだろ……。オフィスの連中が今の泉さんの表情を見たら皆卒倒するって……)
その後はつつがなくルータを設置して、通信環境が改善されたことに玲は満足して帰っていくのであった。
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