12 / 57
第2章 契約開始
第5話 取り調べから逃れよう
しおりを挟む
それは、健斗が玲との打ち合わせを終えて自席に戻ったところで始まった。
「これより、音無健斗への取り調べを行う」
「めんどくさいな……」
「言い訳無用ですよ先輩!」
「まだ何も言ってないだろ……、机のライトを直接当てるな眩しいから」
健斗としてはまだ玲の笑顔を初めて見られたという余韻に浸りながら帰りたかったのだが、同僚二人がそうはさせてくれなかった。
「仕事終わりで腹減ったろ、米と豚ロース、あとパン粉卵その他もろもろを混ぜたやつでも食うか?」
「いや、かつ丼にしてからくれよ。調理前のを食わそうとするな」
「近くのお好み焼き屋でもいいですよ? 音無先輩の金で」
「それはお前が食いたいだけだろ。奢らんからな」
「えー、ケチー」
「そうだぞ戸村! お前先週俺の金で食ったばっかだろ!」
「おい、俺より戸村を取り調べした方がいいだろこれ」
「てへっ」
先輩二人にジト目を向けられるが、小里は何のことやらという姿勢を崩さなかった。これでこの茶番が終わるかと思ったが、聡一が咳払いをした後に話を戻した。
「で? 君はなぜ泉さんと二人で会議室に居たのかね?」
「何だよそのねっとりしたキャラは……、普通に仕事の話だ」
「絶対違いますよこれ! 女の勘が違うと言っています!」
嘘は言っていない。しかし健斗がいくら言ったところで納得する気が無い二人には暖簾に腕押し状態だ。そこで健斗に出来る対応は、話を逸らす事だった。
「お前……女だったのか」
「そこに驚くのおかしくないですか!? どう見ても女じゃないですか!」
「まあなー、普段の態度が全然なのに急に女の部分出されても困るよなー……」
「二人とも酷い! 訴えますよ!」
健斗は少々油断していた。こうしたふざけた会話の流れにしてしまえば今回もやりおおせると思っていた。しかし、聡一の次の言葉によって健斗は巨人の一撃のような衝撃を受けるのである。
「話を戻すが音無、……最近早く帰ってる事と泉さんとの打ち合わせ、何か関係があるんじゃないか?」
「なっ!? お前っ……!」
もしかすると、聡一は既に答えに辿り着いているのかもしれない。そうなってしまっては玲との契約が破綻してしまう。思わず冷や汗が噴き出してきた健斗に対して、二人はまだ追及を続ける。
「ほらほら~、さっさとゲロっちゃったほうが楽になりますよ~?」
「……ついさっき『どう見ても女だ』と言い張ってたやつの言葉選びじゃないぞ」
「音無、それは俺も同感だわ」
「だから一々引っかかんないで下さいよ! 何の話かわかんなくなっちゃうじゃないですか!」
会話はふざけているが、健斗の冷や汗は止まらない。このままだと二人に本当にゲロってしまいそうだと追い詰められていたその時だった。健斗の後ろにはいつの間にか当事者である女性が立っていたのである。
「……彼には個人的に依頼していた案件があったので、その打ち合わせをしていただけですよ」
「あ……」
三人の会話を聞いていた玲が、会話に入ってきた。健斗がこのままだとバラされてしまうと思ったのだろう。玲の登場により聡一と小里は先程までの勢いを完全に失っていた。
「ちなみに音無君が早く帰宅しているのは、単純に仕事を定時内に終わらせられているだけです。……同じ作業量なのに残業が多い貴方達は、彼を見習うべきでは無いのですか?」
「うぅっ!」
「ひぇっ!」
二人は玲からの冷たい眼差しと強めな口調によって完全に震えあがっていた。
「……突然口を挟んでごめんなさいね。失礼します」
そう言って玲は足早に戻っていく。聡一と小里はすっかり腰が抜けてしまい、自分の席に突っ伏してしまった。健斗は心配になり恐る恐る声をかける。
「……おーい二人とも、大丈夫か?」
「せ、先輩の言った通りただの打ち合わせだったんですね……」
「泉さんがそういうなら、本当なんだな……」
「お前ら信用の差が激しすぎないか?」
健斗は二人に怪訝な目を向けるが机に顔を伏せてしまっているため届かない。玲は知られたくない部分をぼかしつつ、威圧感を与えることで健斗への追及を止めつつ隠し通す事に成功したのである。少し時間が経ったからか、突っ伏していた二人が復活した。
「にしてもやっぱり怒った泉さんは怖かったなー……、寿命が五年縮んだぞ……」
「私は六年縮みました……。音無先輩、二人きりで打ち合わせって……怖く無かったんですか?」
「は? いや全然……」
玲の性格を知っている健斗にとって、彼女の行動は全く怖いものじゃなかった。全く理解できないという絶望感を知った二人は、ガックリと項垂れる。
「……戸村、こりゃ俺達にはわからん方がいいやつなのかもな」
「ですねー……。打ち合わせの件については、もう詮索はしないでおきます」
「お、おう……」
これで取り調べは終了となった。というよりも玲に打ち切られたという感じだった。危機を逃れた健斗だったが、彼は別の事に思いを馳せる。
(嗚呼……俺はまた泉さんに助けられてしまった)
そう。彼が直接助けられたと思った出来事は、これで二度目だった。
「これより、音無健斗への取り調べを行う」
「めんどくさいな……」
「言い訳無用ですよ先輩!」
「まだ何も言ってないだろ……、机のライトを直接当てるな眩しいから」
健斗としてはまだ玲の笑顔を初めて見られたという余韻に浸りながら帰りたかったのだが、同僚二人がそうはさせてくれなかった。
「仕事終わりで腹減ったろ、米と豚ロース、あとパン粉卵その他もろもろを混ぜたやつでも食うか?」
「いや、かつ丼にしてからくれよ。調理前のを食わそうとするな」
「近くのお好み焼き屋でもいいですよ? 音無先輩の金で」
「それはお前が食いたいだけだろ。奢らんからな」
「えー、ケチー」
「そうだぞ戸村! お前先週俺の金で食ったばっかだろ!」
「おい、俺より戸村を取り調べした方がいいだろこれ」
「てへっ」
先輩二人にジト目を向けられるが、小里は何のことやらという姿勢を崩さなかった。これでこの茶番が終わるかと思ったが、聡一が咳払いをした後に話を戻した。
「で? 君はなぜ泉さんと二人で会議室に居たのかね?」
「何だよそのねっとりしたキャラは……、普通に仕事の話だ」
「絶対違いますよこれ! 女の勘が違うと言っています!」
嘘は言っていない。しかし健斗がいくら言ったところで納得する気が無い二人には暖簾に腕押し状態だ。そこで健斗に出来る対応は、話を逸らす事だった。
「お前……女だったのか」
「そこに驚くのおかしくないですか!? どう見ても女じゃないですか!」
「まあなー、普段の態度が全然なのに急に女の部分出されても困るよなー……」
「二人とも酷い! 訴えますよ!」
健斗は少々油断していた。こうしたふざけた会話の流れにしてしまえば今回もやりおおせると思っていた。しかし、聡一の次の言葉によって健斗は巨人の一撃のような衝撃を受けるのである。
「話を戻すが音無、……最近早く帰ってる事と泉さんとの打ち合わせ、何か関係があるんじゃないか?」
「なっ!? お前っ……!」
もしかすると、聡一は既に答えに辿り着いているのかもしれない。そうなってしまっては玲との契約が破綻してしまう。思わず冷や汗が噴き出してきた健斗に対して、二人はまだ追及を続ける。
「ほらほら~、さっさとゲロっちゃったほうが楽になりますよ~?」
「……ついさっき『どう見ても女だ』と言い張ってたやつの言葉選びじゃないぞ」
「音無、それは俺も同感だわ」
「だから一々引っかかんないで下さいよ! 何の話かわかんなくなっちゃうじゃないですか!」
会話はふざけているが、健斗の冷や汗は止まらない。このままだと二人に本当にゲロってしまいそうだと追い詰められていたその時だった。健斗の後ろにはいつの間にか当事者である女性が立っていたのである。
「……彼には個人的に依頼していた案件があったので、その打ち合わせをしていただけですよ」
「あ……」
三人の会話を聞いていた玲が、会話に入ってきた。健斗がこのままだとバラされてしまうと思ったのだろう。玲の登場により聡一と小里は先程までの勢いを完全に失っていた。
「ちなみに音無君が早く帰宅しているのは、単純に仕事を定時内に終わらせられているだけです。……同じ作業量なのに残業が多い貴方達は、彼を見習うべきでは無いのですか?」
「うぅっ!」
「ひぇっ!」
二人は玲からの冷たい眼差しと強めな口調によって完全に震えあがっていた。
「……突然口を挟んでごめんなさいね。失礼します」
そう言って玲は足早に戻っていく。聡一と小里はすっかり腰が抜けてしまい、自分の席に突っ伏してしまった。健斗は心配になり恐る恐る声をかける。
「……おーい二人とも、大丈夫か?」
「せ、先輩の言った通りただの打ち合わせだったんですね……」
「泉さんがそういうなら、本当なんだな……」
「お前ら信用の差が激しすぎないか?」
健斗は二人に怪訝な目を向けるが机に顔を伏せてしまっているため届かない。玲は知られたくない部分をぼかしつつ、威圧感を与えることで健斗への追及を止めつつ隠し通す事に成功したのである。少し時間が経ったからか、突っ伏していた二人が復活した。
「にしてもやっぱり怒った泉さんは怖かったなー……、寿命が五年縮んだぞ……」
「私は六年縮みました……。音無先輩、二人きりで打ち合わせって……怖く無かったんですか?」
「は? いや全然……」
玲の性格を知っている健斗にとって、彼女の行動は全く怖いものじゃなかった。全く理解できないという絶望感を知った二人は、ガックリと項垂れる。
「……戸村、こりゃ俺達にはわからん方がいいやつなのかもな」
「ですねー……。打ち合わせの件については、もう詮索はしないでおきます」
「お、おう……」
これで取り調べは終了となった。というよりも玲に打ち切られたという感じだった。危機を逃れた健斗だったが、彼は別の事に思いを馳せる。
(嗚呼……俺はまた泉さんに助けられてしまった)
そう。彼が直接助けられたと思った出来事は、これで二度目だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
僕と美人巡査の8日間 ~鎖に繋がれた男女~
小鳥頼人
恋愛
※なろう、カクヨムでも掲載しております
「署までいらっしゃいな」
「や、や、やってませんってばー!」
鶴見美術大学に通う二回生の蓑田利己(みのだとしき)は人畜無害だけが取り柄のぼっち大学生だったが、ひょんなことから美人巡査の中条いづみ(なかじょういづみ)から公然わいせつ罪の容疑で誤認逮捕された。
無罪を主張するがいづみは聞き入れてくれないため、利己は逃走を図るも速攻捕まり、いづみは彼の右手と自身の左手に手錠をかけて逃げられないようにした。
結局誤認逮捕だったため一件落着かと思われたが、あろうことかいづみは手錠の鍵を紛失してしまい、手錠が外せなくなってしまったことから、しばらく一緒に暮らす展開となってしまう。
美人巡査とのドキドキの日々が幕を開ける――!
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる