冷女と呼ばれる先輩に部屋を貸すことになった

こなひじき

文字の大きさ
上 下
4 / 57
第1章 思いがけない交渉

第4話 飲み会開始

しおりを挟む
 仕事時間が終わり、予定通りに開発部での飲み会が始まった。部内での交流をより広めることが目的のため、席は自由となっている。普段は仕事以外で話さない人が生活の話をしていたり、気になるあの人へ話しかけたりと、各々が新鮮な交流を楽しんでいる。
 そんな中、健斗と聡一、加えて小里はと言うと……。

「……いや、結局俺たちで固まっちゃってるじゃんよー」
「これじゃあ面白味無いじゃないですかー」
「……別にいいだろ、楽だし」
「そうですけどー……」
「もうちょっとこう、新しい流れというかさー……」

 健斗、聡一、小里の三人はオフィスでの座席と同じように座っていた。周囲からも何となくいつもの三人だなー、と流されている状態である。途中で移動することも可能なのだが、一度腰を下ろしてしまうと中々動くのが面倒に感じるものである。

「けど音無は良いのか? あの人のところに行かなくて」
「あー、上の人たちに囲まれていて大変だろうからな」
「正確には上の男たち、だけどなー」
「音無先輩強がっちゃってー、本当は行きたいくせに」
「……今行っても埋もれるだけだろ」

 玲は健斗から見える位置にはいるものの、お互いの会話が周囲の喧騒で埋もれてしまう程度の距離がある。あの玲と会話ができる機会だという事で下心見え見えな上司たちに囲まれており、とても健斗の入る余地は無さそうだった。

「こりゃ、機会は訪れそうにねーなー。残念だったな、音無」
「こうなると予想はついてたからな、問題ない」
「強がりがすぎますよ先輩、握ってるコップが割れちゃいそうなんですけど」

 聡一に肩を軽く叩かれながらわかりやすく落ち込む健斗の様子を見て、小里は気を使って話題を変えることにした。

「そ、そういえば先輩! あれって結局一度も使ってないんですかー?」
「ああ、音無んちの防音室の話か? 嘘だろ結局一度も?」
「あー……、最近はもう物置化が進んでるよ」

 聡一と小里は健斗が防音室を持っている事を既に知っている。加えてその部屋を全く使えていないという事も同じく知っており、時々話に上がっては使っていないことを思い出すという恒例の話題となっていた。

「新しい趣味を見つけるために買ってみたのは良いが、仕事が思ったより捗ってしまったからな」
「前にも聞いたかもですけど、不満じゃないんですかー?」
「今はもう全然やる気無くなっちまったからな、別にどうしてもしたかったわけでもないし」
「もったいねえなー……。一人暮らし始める時、そこにほとんど費用使ったんだろ?」
「ああ、家具は最低限のものしかなくなっちゃったしな……飾り部屋もいいとこだ」

 あまりに状態がひどくならないようにたまに掃除はしている。しかし使用していないお陰で全く変わり映えせずに放置されている始末だった。もし今の状況で使うとしたら、と健斗は思いついた案を出す。

「泉先輩みたいに在宅勤務になったら、いい具合に使えるかもな」
「……あー、確かに集中できそうですねー」
「仕事に使うのかよ……」

 健斗の遊びじゃなく仕事で使うという思考に、二人はわかりやすくテンションが下がった返事をした。
 
「音無お前、本当に会社の従順な犬になっちまったな……」
「その言い方は止めてくれ。違うから」
「そうですよ、音無先輩は犬ですよ!」
「それな!」
「犬の方を変えろっつーの」

 三人の会話はそのまま飲み会の終わりまで続きそうだったが、しばらく談笑した後に聡一と小里はゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ、俺たちは他の課の知り合いの所に行ってくるわ」
「友達少ない先輩は、のんびりしていてくださいねー」
「余計な事を言わんでいい、さっさと行ってこい」
「はーい」

 二人は健斗から離れていった。健斗は腰を動かさず一人でぼんやりとし始めた。健斗は小里に友達が少ないと揶揄われたが、悲しきかなその通りなのである。しかし健斗にとってそれはどうでもよく、別の事で頭がいっぱいだった。それは健斗が飲み会に参加した最大の動機である。

「はぁ……、泉さんと話したかったなぁ……」

 つい口に出てしまうほど、健斗は熱望していたのだ。いつもチャット上で業務のやり取りしかしてこなかった憧れの玲と、何でもいいから話をしてみたいと思っていた。もう飲み会も終盤の時間であり、もう望めないかと思っていた……その時だった。
 
「ええ、私もです。音無君」
「え……はっ!? い、泉さん!?」
「はい。なので今から話しましょう、隣失礼しますね」
「は、はい……!」

 健斗に奇跡のような出来事が、起こったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Home, Sweet Home

茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。 亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。 ☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...