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不穏な動き
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「では津軽様、頼みましたぞ」
「……は」
三郎は評定の結果と、津軽為信に関東へ向かうように伝え終わり、三郎はその場を後にした。
津軽為信は拳を握りしめる。
「……何故だ……」
津軽為信は遠くの三郎の後ろ姿を見ながら怒りをあらわにする。
「伊達殿……あなたが死んでは、我らの野望が果たせぬでは無いか……」
「津軽殿」
独り言をつぶやく為信に背後から話しかける男がいた。
その独り言を聞かれたかと、為信は慌てる。
「あ……あなたは……」
「織田、信包にございまする」
信包は頭を下げる。
そして顔を上げ、為信を睨む。
「で、我らの野望、とは?」
「ぐっ……」
為信はゆっくりと刀に手をかける。
しかし、信包はまっすぐ為信を見ていた。
「……津軽殿。無駄な事はよしたほうが良いですぞ」
「……」
為信は刀から手を話す。
周囲には人もおり、ここで信包を斬れば確実に殺されるからである。
「されど、今は、無駄なだけ。必ずや、好機は訪れましょう」
「何? 今は、だと?」
信包は為信に近付き、耳打ちをする。
「後ほど、二人きりでお話を」
「……うむ」
為信が頷くと、信包は軽く頭を下げてその場を去る。
「織田信包……一体何だと言うのだ……」
その夜。
為信は信包の元を訪れていた。
「為信殿。よくぞおいで下さった。さ、座られよ」
信包の誘いに応じて為信は座る。
「さ、どうぞ」
「……」
信包は酒を差し出す。
為信は警戒しながらそれを口にした。
「毒など入ってはおらぬ」
「……で、何用ですかな」
為信は酒を飲み干すと本題に入った。
「……三郎を討ち取って貰いたい」
「何だと?」
信包は表情を変えることなく話し続ける。
「あやつは恐ろしい。このままではいずれ織田家の当主である秀信を殺し、その座を取って代わろうとするやもしれん……それに」
「……」
為信は信包の言葉を静かに聞く。
何か裏があるのではと、疑っているのだ。
「この前、あいつから策を聞いた。伊達殿についてだ」
「……ほう」
「あやつが約定を破りあのようなことを言ったのは、織田の天下を確実な物とするため。いずれ、各地の有力大名も同じように消されるだろうな。無論、津軽殿も」
その信包の言葉を聞き、為信は考える。
「……それで、その後釜に自分の信頼の置ける者達を配置し、最終的に豊臣を滅ぼす、と?」
為信の言葉に信包は頷いた。
「そうだ。今はまだ豊臣に肩入れする者も多い。だから三郎は豊臣家一の家臣として働き、豊臣の天下をそのまま自分の天下にしようとしているのだ……あのようなやり方で、天下を治められるとは到底思えん。秀信でさえも邪魔ならば消すであろうな」
「……それで、三郎を始末せよと」
「そうだ。必要な手筈はすべて整えておく。淀殿や他の織田方が不審がらぬように手配しておく。必ずや近い内に好機は訪れる。その時を待ってくれ」
為信はしばらく考えた後、口を開いた。
「畏まった。その策、乗りましょうぞ。織田の……いや、あの卑劣な三郎に天下は任せられぬ。必ずや、この為信が三郎を討ち取って見せよう!」
「おお! ありがたい! 天海殿と政宗殿が処刑されるよりも先に動けるように手配しておく! たのんだぞ!」
かくして、信包の暗躍は始まった。
「……は」
三郎は評定の結果と、津軽為信に関東へ向かうように伝え終わり、三郎はその場を後にした。
津軽為信は拳を握りしめる。
「……何故だ……」
津軽為信は遠くの三郎の後ろ姿を見ながら怒りをあらわにする。
「伊達殿……あなたが死んでは、我らの野望が果たせぬでは無いか……」
「津軽殿」
独り言をつぶやく為信に背後から話しかける男がいた。
その独り言を聞かれたかと、為信は慌てる。
「あ……あなたは……」
「織田、信包にございまする」
信包は頭を下げる。
そして顔を上げ、為信を睨む。
「で、我らの野望、とは?」
「ぐっ……」
為信はゆっくりと刀に手をかける。
しかし、信包はまっすぐ為信を見ていた。
「……津軽殿。無駄な事はよしたほうが良いですぞ」
「……」
為信は刀から手を話す。
周囲には人もおり、ここで信包を斬れば確実に殺されるからである。
「されど、今は、無駄なだけ。必ずや、好機は訪れましょう」
「何? 今は、だと?」
信包は為信に近付き、耳打ちをする。
「後ほど、二人きりでお話を」
「……うむ」
為信が頷くと、信包は軽く頭を下げてその場を去る。
「織田信包……一体何だと言うのだ……」
その夜。
為信は信包の元を訪れていた。
「為信殿。よくぞおいで下さった。さ、座られよ」
信包の誘いに応じて為信は座る。
「さ、どうぞ」
「……」
信包は酒を差し出す。
為信は警戒しながらそれを口にした。
「毒など入ってはおらぬ」
「……で、何用ですかな」
為信は酒を飲み干すと本題に入った。
「……三郎を討ち取って貰いたい」
「何だと?」
信包は表情を変えることなく話し続ける。
「あやつは恐ろしい。このままではいずれ織田家の当主である秀信を殺し、その座を取って代わろうとするやもしれん……それに」
「……」
為信は信包の言葉を静かに聞く。
何か裏があるのではと、疑っているのだ。
「この前、あいつから策を聞いた。伊達殿についてだ」
「……ほう」
「あやつが約定を破りあのようなことを言ったのは、織田の天下を確実な物とするため。いずれ、各地の有力大名も同じように消されるだろうな。無論、津軽殿も」
その信包の言葉を聞き、為信は考える。
「……それで、その後釜に自分の信頼の置ける者達を配置し、最終的に豊臣を滅ぼす、と?」
為信の言葉に信包は頷いた。
「そうだ。今はまだ豊臣に肩入れする者も多い。だから三郎は豊臣家一の家臣として働き、豊臣の天下をそのまま自分の天下にしようとしているのだ……あのようなやり方で、天下を治められるとは到底思えん。秀信でさえも邪魔ならば消すであろうな」
「……それで、三郎を始末せよと」
「そうだ。必要な手筈はすべて整えておく。淀殿や他の織田方が不審がらぬように手配しておく。必ずや近い内に好機は訪れる。その時を待ってくれ」
為信はしばらく考えた後、口を開いた。
「畏まった。その策、乗りましょうぞ。織田の……いや、あの卑劣な三郎に天下は任せられぬ。必ずや、この為信が三郎を討ち取って見せよう!」
「おお! ありがたい! 天海殿と政宗殿が処刑されるよりも先に動けるように手配しておく! たのんだぞ!」
かくして、信包の暗躍は始まった。
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