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酒井忠尚の結末
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安城合戦勃発の少し前。
酒井忠尚のいる上野城にも忠広死去の知らせは届いていた。
その知らせを受け取った忠尚はすぐさま兵を挙げる。
忠尚はすぐさま松平領を攻めるが、何故かすぐさま兵を引いた。
兵を引く直前、上野城にはとある客が訪れていた。
「お目通り頂き、誠に感謝申し上げます。某、平松商会の者です」
「……平松……か」
酒井忠尚はその男達の正体を察していた。
普段ならば戦の最中にそのような怪しい者を入れないが、その名を聞いて、忠尚はすぐに受け入れた。
訪問してきた男の顔に見覚えはないが、その主の顔は容易に想像がついた。
「お主らを遣わしたのが誰か……予測はつくが、問わないでおこう」
「……ありがとうございまする。早速ですが、要件を申し上げても?」
酒井忠尚は無言で頷く。
そして、男は続ける。
「既に、今川軍一万が三河に入っております。安祥城を取るために孤立させる策を取り、周囲の織田方の城を落としております」
「このまま松平と戦を続ければ、その結末は悲惨な物となる、とでも言いたいのか?」
男は頷く。
「今の内に降伏してくだされ。我が主は、忠尚様の事を案じております故」
「……その主の息子を助けた礼のつもりか?」
「……いいえ……これはもう一人の主の願いです」
その言葉を聞き、忠尚はすぐに誰のことを指しているかを理解した。
平松と名を変えて活動している人間を動かせる者は、平松が恩を感じている者しかいない。
とある女性の顔が思い浮かぶ。
そして、少し考えた後、頷いた。
「……あの者の願いならば、仕方が無い。広忠……いや、忠広殿の言う事ならば、礼などと言いつつ松平を守る為という魂胆が見えるが……儂の狙いを理解している時田殿がそう言うのならば、仕方あるまい」
「では……」
「うむ。すぐにでも全ての兵を引き、今川に降ろう」
「……ありがとうございまする……では」
男は頭を下げると、その場を後にしようとする。
そして、何かを思い出したかのように出る直前に足を止め、振り返る。
「我が平松商会の主が忠尚様に感謝を感じているのは間違いありませぬ。今後とも、様々な面で支援することを約束いたしまする」
「……うむ。よろしく頼む」
そのまま、男はその場を去る。
それを確認した忠尚は大須賀康高に声をかけた。
「康高。お主に任を与える」
「は!」
「今すぐ城を発ち、時田光の下へ行け」
忠尚は顎に手を当て、考えながら続ける。
「恐らくあいつは広忠暗殺の為に信秀の用意した金を使って得た、商人の立場をそのまま広忠に譲渡し、広忠を商人として手足のように使い暗躍させるつもりだろう……この接触も、それを意味している……時田の下で働き、狙いを……いや、一体どこまで見据えているのかを探れ」
「はは!」
「そのまま口説いてお主の妻とし、我らの手勢に組み込んでも良いのだぞ? あの者を味方にしたものは天下を狙えるやもしれぬ」
すると、康高は笑いながら答える。
「それは良き案ですな! されど、あの女子はそう簡単には靡かぬかと」
「ふっ、分かっておるわ。とにかく、頼んだぞ」
「はは!」
康高も頭を下げてその場を後にした。
「さて……儂は今川の下で力をつけるとするか……松平の立場が揺らいだ今、三河を手中に収めるのも夢ではない……か」
酒井忠尚のいる上野城にも忠広死去の知らせは届いていた。
その知らせを受け取った忠尚はすぐさま兵を挙げる。
忠尚はすぐさま松平領を攻めるが、何故かすぐさま兵を引いた。
兵を引く直前、上野城にはとある客が訪れていた。
「お目通り頂き、誠に感謝申し上げます。某、平松商会の者です」
「……平松……か」
酒井忠尚はその男達の正体を察していた。
普段ならば戦の最中にそのような怪しい者を入れないが、その名を聞いて、忠尚はすぐに受け入れた。
訪問してきた男の顔に見覚えはないが、その主の顔は容易に想像がついた。
「お主らを遣わしたのが誰か……予測はつくが、問わないでおこう」
「……ありがとうございまする。早速ですが、要件を申し上げても?」
酒井忠尚は無言で頷く。
そして、男は続ける。
「既に、今川軍一万が三河に入っております。安祥城を取るために孤立させる策を取り、周囲の織田方の城を落としております」
「このまま松平と戦を続ければ、その結末は悲惨な物となる、とでも言いたいのか?」
男は頷く。
「今の内に降伏してくだされ。我が主は、忠尚様の事を案じております故」
「……その主の息子を助けた礼のつもりか?」
「……いいえ……これはもう一人の主の願いです」
その言葉を聞き、忠尚はすぐに誰のことを指しているかを理解した。
平松と名を変えて活動している人間を動かせる者は、平松が恩を感じている者しかいない。
とある女性の顔が思い浮かぶ。
そして、少し考えた後、頷いた。
「……あの者の願いならば、仕方が無い。広忠……いや、忠広殿の言う事ならば、礼などと言いつつ松平を守る為という魂胆が見えるが……儂の狙いを理解している時田殿がそう言うのならば、仕方あるまい」
「では……」
「うむ。すぐにでも全ての兵を引き、今川に降ろう」
「……ありがとうございまする……では」
男は頭を下げると、その場を後にしようとする。
そして、何かを思い出したかのように出る直前に足を止め、振り返る。
「我が平松商会の主が忠尚様に感謝を感じているのは間違いありませぬ。今後とも、様々な面で支援することを約束いたしまする」
「……うむ。よろしく頼む」
そのまま、男はその場を去る。
それを確認した忠尚は大須賀康高に声をかけた。
「康高。お主に任を与える」
「は!」
「今すぐ城を発ち、時田光の下へ行け」
忠尚は顎に手を当て、考えながら続ける。
「恐らくあいつは広忠暗殺の為に信秀の用意した金を使って得た、商人の立場をそのまま広忠に譲渡し、広忠を商人として手足のように使い暗躍させるつもりだろう……この接触も、それを意味している……時田の下で働き、狙いを……いや、一体どこまで見据えているのかを探れ」
「はは!」
「そのまま口説いてお主の妻とし、我らの手勢に組み込んでも良いのだぞ? あの者を味方にしたものは天下を狙えるやもしれぬ」
すると、康高は笑いながら答える。
「それは良き案ですな! されど、あの女子はそう簡単には靡かぬかと」
「ふっ、分かっておるわ。とにかく、頼んだぞ」
「はは!」
康高も頭を下げてその場を後にした。
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