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尾張の虎の指令
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「お主が時田か、遅かったな」
「は、はい。申し訳ありません」
尾張の虎、織田信秀に呼ばれた時田は竹千代や信長との対話に時間を取られ、信秀のもとを訪れるのが遅れてしまった。
「いや、良い。特段、急いでいたわけでも無いからな」
秀信は鋭い目つきで時田を見つつ続ける。
「お主は斎藤利政殿の覚えも良いと帰蝶殿から聞いた。まずはお主の考えを聞いておきたくてな」
「……利政様が、そんな事を?」
信秀は頷き、続ける。
その鋭い瞳は、まるで時田を品定めしているかのようであった。
「今川が、戦の準備を進めておる。かなりの数で三河を抑えようとしているらしい。長男の信広が安祥城にて備えておるが……難しいやもしれぬ」
「斎藤家と和睦したことが、今川を動かしたという事ですか……」
「うむ。そうであろう。斎藤家という後ろ盾は、今川にとって厄介意外の何者でもないからな」
斎藤家との和睦は、今川にとって脅威となりゆる展開であった。
尾張は斎藤家と今川家に囲まれ、厳しい土地であったのが一転、斎藤家という後ろ盾を手に入れた事により、今川にとって難敵と変わったのだ。
しかし……
「そこで時田よ。斎藤家は援軍を派遣してくれると思うか?」
信秀の懸念はそこであった。
いくら同盟を結んだとしても、援軍を送ってもらえないのならば意味が無い。
それを気にしていたのだ。
「……正直に申し上げますと、難しいかもしれません」
「……それは、何故だ?」
「土岐頼芸様です」
土岐頼芸は、斎藤家との和睦に際して斎藤家に引き渡された。
帰蝶輿入れの裏には、その背景があった。
「土岐頼芸様が、表面上は平穏に美濃に戻られましたが、斎藤家が美濃を治めている事を良しとするはずがありません。今川の侵攻のため、援軍を出して美濃国を留守にすれば……」
「土岐頼芸に美濃を乗っ取られる、か」
時田は頷く。
「未だに美濃での土岐家の名声は強いです。恐らく、土岐頼芸様も何らかの策を進めているでしょう。それを、利政様が警戒しないはずもありません。利政様のそちらの対処が終われば援軍は可能かもしれませんが……」
「……うむ。分かった。おおよそ、儂の考えと同じだな。流石は道三殿が見込んだ女子だ」
「ありがとうございます」
時田は頭を下げる。
するとその様子を見た信秀は口を開く。
「では時田よ。お主に指示を出す」
「……え? 侍女の私にですか?」
「あぁ。その才を腐らせておくのはもったいないのでな。一つ、本当に使えるか試してやろう」
信秀は時田に指示を出す。
「時田光よ。三河へ行け。三河へ行き、松平広忠を暗殺せよ。手段はお主に任せる。金をやる故、下手人や手勢を雇うなど、好きにやれ」
「……えぇ……」
「因みに拒否権は無いぞ。無論褒美は取らせる。尾張の情報を好きなだけ利政殿に報告するが良い。止めはせぬ。それとは別に金もやろう。だが、断れば……」
信秀が首に手刀を数回当てる。
つまり、命はないという事だ。
「……承知しました」
時田はあからさまに嫌そうな顔をする。
が、渋々頭を下げる。
竹千代と楽しく過ごしたすぐ後にその指示をもらったのだから無理もない。
すると、信秀が思い出したかのように口を開いた。
「……三河に行ったまま神隠しは……起きぬな?」
「……そこまでご存知でしたか……それはいつ起きるかわかりませんので、どうかご容赦を」
すると、信秀は軽く笑う。
「ふ、では時田よ。期待しているぞ」
「……畏まりました」
時田は頭を下げ、その場を後にする。
「……はぁ……どうしよ」
時田の苦難は、まだまだ続く。
「は、はい。申し訳ありません」
尾張の虎、織田信秀に呼ばれた時田は竹千代や信長との対話に時間を取られ、信秀のもとを訪れるのが遅れてしまった。
「いや、良い。特段、急いでいたわけでも無いからな」
秀信は鋭い目つきで時田を見つつ続ける。
「お主は斎藤利政殿の覚えも良いと帰蝶殿から聞いた。まずはお主の考えを聞いておきたくてな」
「……利政様が、そんな事を?」
信秀は頷き、続ける。
その鋭い瞳は、まるで時田を品定めしているかのようであった。
「今川が、戦の準備を進めておる。かなりの数で三河を抑えようとしているらしい。長男の信広が安祥城にて備えておるが……難しいやもしれぬ」
「斎藤家と和睦したことが、今川を動かしたという事ですか……」
「うむ。そうであろう。斎藤家という後ろ盾は、今川にとって厄介意外の何者でもないからな」
斎藤家との和睦は、今川にとって脅威となりゆる展開であった。
尾張は斎藤家と今川家に囲まれ、厳しい土地であったのが一転、斎藤家という後ろ盾を手に入れた事により、今川にとって難敵と変わったのだ。
しかし……
「そこで時田よ。斎藤家は援軍を派遣してくれると思うか?」
信秀の懸念はそこであった。
いくら同盟を結んだとしても、援軍を送ってもらえないのならば意味が無い。
それを気にしていたのだ。
「……正直に申し上げますと、難しいかもしれません」
「……それは、何故だ?」
「土岐頼芸様です」
土岐頼芸は、斎藤家との和睦に際して斎藤家に引き渡された。
帰蝶輿入れの裏には、その背景があった。
「土岐頼芸様が、表面上は平穏に美濃に戻られましたが、斎藤家が美濃を治めている事を良しとするはずがありません。今川の侵攻のため、援軍を出して美濃国を留守にすれば……」
「土岐頼芸に美濃を乗っ取られる、か」
時田は頷く。
「未だに美濃での土岐家の名声は強いです。恐らく、土岐頼芸様も何らかの策を進めているでしょう。それを、利政様が警戒しないはずもありません。利政様のそちらの対処が終われば援軍は可能かもしれませんが……」
「……うむ。分かった。おおよそ、儂の考えと同じだな。流石は道三殿が見込んだ女子だ」
「ありがとうございます」
時田は頭を下げる。
するとその様子を見た信秀は口を開く。
「では時田よ。お主に指示を出す」
「……え? 侍女の私にですか?」
「あぁ。その才を腐らせておくのはもったいないのでな。一つ、本当に使えるか試してやろう」
信秀は時田に指示を出す。
「時田光よ。三河へ行け。三河へ行き、松平広忠を暗殺せよ。手段はお主に任せる。金をやる故、下手人や手勢を雇うなど、好きにやれ」
「……えぇ……」
「因みに拒否権は無いぞ。無論褒美は取らせる。尾張の情報を好きなだけ利政殿に報告するが良い。止めはせぬ。それとは別に金もやろう。だが、断れば……」
信秀が首に手刀を数回当てる。
つまり、命はないという事だ。
「……承知しました」
時田はあからさまに嫌そうな顔をする。
が、渋々頭を下げる。
竹千代と楽しく過ごしたすぐ後にその指示をもらったのだから無理もない。
すると、信秀が思い出したかのように口を開いた。
「……三河に行ったまま神隠しは……起きぬな?」
「……そこまでご存知でしたか……それはいつ起きるかわかりませんので、どうかご容赦を」
すると、信秀は軽く笑う。
「ふ、では時田よ。期待しているぞ」
「……畏まりました」
時田は頭を下げ、その場を後にする。
「……はぁ……どうしよ」
時田の苦難は、まだまだ続く。
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