6 / 10
第6話
しおりを挟む
あたしは江崎省吾にのぼせている。ニヒルでそっけない外見も、たぐいまれな才能も、全部ひっくるめて、もはや心を鷲づかみにされているみたい。
でも彼は、あたしのことどう思っているんだろう・・
「だから、思い切ってはっきり聞いちゃえばいいのよ」
「え~そんなこと、できない。どうせ振られるにきまってるもん」
「言ってみなきゃ、わからないじゃない。タロットでこんど恋占いしてあげようか、わたし霊感あるから当たるよ」
かれんさんの特技はタロット占いで、的中率の高いエピソードを幾つも聞いていた。
「常人じゃないよね、かれんさんは。特殊な才能があるよ、でも怖いから次にする」
そういう会話を何度繰り返したことか。かれんさんに介抱してもらった日以来、仲良くなり互いにいい隣人になっていた。
そのぶんマリとは疎遠になっていた。以心伝心、互いに感じとるものがあるのだろう。
おそらく江崎への共通の恋心を。
あたしは恋の病に冒され続けていた。希望とあきらめに交互に襲われ、かれんさんの部屋に駆け込むこともしばしばだ。今日もそうだけれど、かれんさんはいつも笑顔で、あたしを歓迎してくれた。
「九月の学園祭やっぱり行けば良かった。でっかい神輿みたいなオブジェもあって盛況だったみたい、エザキハーレムとツゲハーレムの女子も着物きて出店やったんだって」
「へええ、噂のイケメンたちもいたの?」
「美術部も作品の展示するから、絶対来てたよ。あたしも会いたかった」
「一度でいいからご尊顔拝ませていただきたいわあ」
かれんさんは大きなため息をついた。炬燵で真向いに座っている、あたしの顔にまで息がかかった。
「来年一緒に行く?」冗談ではなかった。
「・・私と?」
「そう、かれんさんと」
かれんさんは少し考えてから答えた。
「やっぱり遠慮しとくわ、あんたに迷惑かけても悪いからさ。しょせん私は日陰に咲く徒花、裏街道で生きてく定め」
演歌の歌詞のような臭いセリフ。
「それよりさ、春お花見に行かない?上野公園でおかま、おなべ、ニューハーフが勢ぞろいして飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ」
「うわあ、行きた~い」
「じゃあ約束、場所取りも手伝ってね」
「ラジャー!」この件は成立。
「そうだ、もうすぐクリスマスじゃない」
番茶をすすり、揚げ餅をかじりながら、彼女は出し抜けに大声で叫んだ。
「告白するチャンスよ、ビッグチャンス!」
「でも・・二人きりじゃないし・・」
あたしは、むせそうになりながら答えた。
「ああ、あのツゲなんとかいうイケメン、彼がお邪魔虫なのね」
「柘植尚人!」
「そう、そう、そう。ツゲナオト君。やっぱり一度会いたいわあ。すごく美しいんでしょう?」
かれんさんは夢見るように遠い目をした。化粧をしていない素顔は、老けた童女のようだ・・
「学祭に来たら、たぶん会えるよ」
「ううん、やっぱり遠慮しとくわ。ステディな方々とお天道様の下では会いたくないわ」
あたしの誘いを彼女は執拗に固辞する。もしかしたらトラウマでもあるのかも。
「あんたはいいわよ、正真正銘の女なんだから。私よりずっと有利、というか条件いいんだから」
愚痴りながらまた大きなため息をつき、煙草に火をつける。それから、ふうと口をすぼめて、紫煙をくゆらす。かすかに揺れている鼻毛が気になる。太い指にメンソールの極細煙草はアンバランスだと、いつも思うのだけれど。
「もしかして、かれんさんも好きな人いたりして」
あたしは、おどけて言った。
「もちろん、いますよ。店のバーテンなんだけどね、これがまたいい男なんだわ」
「ふうん」初耳だった。
「一度店においでよ、楽しいよお。あ、その時はぜひ同伴でお願いします」
かれんさんは片目をつむって笑う。ソファの脇のバカでかい熊のぬいぐるみと、そっくりな顔だ。
「クリスマスか・・」
「それっていいかも」
「でしょう?」彼女は得意げに鼻を鳴らし、それから、急にしんみりとして言った。
「私も告白しちゃおうかなあ」
「しよう、しょう」ついノリでけしかける。
「よししよう、女は度胸だ」二人でガッツポーズをする。
あたしたちは、その日、クリスマスに告白することを誓った。
でも彼は、あたしのことどう思っているんだろう・・
「だから、思い切ってはっきり聞いちゃえばいいのよ」
「え~そんなこと、できない。どうせ振られるにきまってるもん」
「言ってみなきゃ、わからないじゃない。タロットでこんど恋占いしてあげようか、わたし霊感あるから当たるよ」
かれんさんの特技はタロット占いで、的中率の高いエピソードを幾つも聞いていた。
「常人じゃないよね、かれんさんは。特殊な才能があるよ、でも怖いから次にする」
そういう会話を何度繰り返したことか。かれんさんに介抱してもらった日以来、仲良くなり互いにいい隣人になっていた。
そのぶんマリとは疎遠になっていた。以心伝心、互いに感じとるものがあるのだろう。
おそらく江崎への共通の恋心を。
あたしは恋の病に冒され続けていた。希望とあきらめに交互に襲われ、かれんさんの部屋に駆け込むこともしばしばだ。今日もそうだけれど、かれんさんはいつも笑顔で、あたしを歓迎してくれた。
「九月の学園祭やっぱり行けば良かった。でっかい神輿みたいなオブジェもあって盛況だったみたい、エザキハーレムとツゲハーレムの女子も着物きて出店やったんだって」
「へええ、噂のイケメンたちもいたの?」
「美術部も作品の展示するから、絶対来てたよ。あたしも会いたかった」
「一度でいいからご尊顔拝ませていただきたいわあ」
かれんさんは大きなため息をついた。炬燵で真向いに座っている、あたしの顔にまで息がかかった。
「来年一緒に行く?」冗談ではなかった。
「・・私と?」
「そう、かれんさんと」
かれんさんは少し考えてから答えた。
「やっぱり遠慮しとくわ、あんたに迷惑かけても悪いからさ。しょせん私は日陰に咲く徒花、裏街道で生きてく定め」
演歌の歌詞のような臭いセリフ。
「それよりさ、春お花見に行かない?上野公園でおかま、おなべ、ニューハーフが勢ぞろいして飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ」
「うわあ、行きた~い」
「じゃあ約束、場所取りも手伝ってね」
「ラジャー!」この件は成立。
「そうだ、もうすぐクリスマスじゃない」
番茶をすすり、揚げ餅をかじりながら、彼女は出し抜けに大声で叫んだ。
「告白するチャンスよ、ビッグチャンス!」
「でも・・二人きりじゃないし・・」
あたしは、むせそうになりながら答えた。
「ああ、あのツゲなんとかいうイケメン、彼がお邪魔虫なのね」
「柘植尚人!」
「そう、そう、そう。ツゲナオト君。やっぱり一度会いたいわあ。すごく美しいんでしょう?」
かれんさんは夢見るように遠い目をした。化粧をしていない素顔は、老けた童女のようだ・・
「学祭に来たら、たぶん会えるよ」
「ううん、やっぱり遠慮しとくわ。ステディな方々とお天道様の下では会いたくないわ」
あたしの誘いを彼女は執拗に固辞する。もしかしたらトラウマでもあるのかも。
「あんたはいいわよ、正真正銘の女なんだから。私よりずっと有利、というか条件いいんだから」
愚痴りながらまた大きなため息をつき、煙草に火をつける。それから、ふうと口をすぼめて、紫煙をくゆらす。かすかに揺れている鼻毛が気になる。太い指にメンソールの極細煙草はアンバランスだと、いつも思うのだけれど。
「もしかして、かれんさんも好きな人いたりして」
あたしは、おどけて言った。
「もちろん、いますよ。店のバーテンなんだけどね、これがまたいい男なんだわ」
「ふうん」初耳だった。
「一度店においでよ、楽しいよお。あ、その時はぜひ同伴でお願いします」
かれんさんは片目をつむって笑う。ソファの脇のバカでかい熊のぬいぐるみと、そっくりな顔だ。
「クリスマスか・・」
「それっていいかも」
「でしょう?」彼女は得意げに鼻を鳴らし、それから、急にしんみりとして言った。
「私も告白しちゃおうかなあ」
「しよう、しょう」ついノリでけしかける。
「よししよう、女は度胸だ」二人でガッツポーズをする。
あたしたちは、その日、クリスマスに告白することを誓った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
春まち、虹まち、キミの町
時計の針-clock hands-
青春
不良DK×根暗JK。
虹町のとある高校に通う男女。
多感な時期。2人にも誰にも言えないそれぞれの小さな秘め事があった。
『一つの小さな出会い』によって、クラスメイトという意外はまるで共通点のなかった2人は互いの意外な一面や共通点を知ることに。
まだ青春を知らない2人の歯車が動き始めた。
*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚
7/28 執筆を開始しましたが、機能に慣れておらず大変スローペースです。長編のつもりですが果たして完成するのか…。
もし良ければお付き合いください。
*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚
♪表紙はぱくたそ(www.pakutaso.com)さんのフリー素材を使用させていただきました。
カスミの倅
神谷アキ
青春
「こう見えて俺、運動神経いいから。ちょこっと拝借して逃げるくらいよゆーよゆー」
近頃、警察を悩ませるイタズラ犯がいる。
事件かイタズラなのか、判別がしにくく犯人探しにも本腰を入れられない。他の事件に霞んで後回しにされてしまうのだ。
しかし当事者達だけは知る、紅真と藤森のいた痕跡。
自由気ままな彰と毎回振り回されている藤森。
高校生という身分は、ある意味万能なのだ。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
夢が終わる時
とかくら
青春
この作品は、この世界に存在するルールがある、それは25歳までに夢を見つけ、紙に書き神社の箱に入れることもし、25歳までに夢を見つけることが出来なければ、又は悪行を働いて見直さなければ、この世から存在しなくなってしまう、しかし主人公である倉吉は昔のいじめが原因で夢を無くしてしまった、それを思い出させるために友達が導く物語です。
「風を切る打球」
ログ
青春
石井翔太は、田舎町の中学校に通う普通の少年。しかし、翔太には大きな夢があった。それは、甲子園でプレイすること。翔太は地元の野球チーム「風切りタイガース」に所属しているが、チームは弱小で、甲子園出場の夢は遠いものと思われていた。
ある日、新しいコーチがチームにやってきた。彼の名は佐藤先生。彼はかつてプロ野球選手として活躍していたが、怪我のために引退していた。佐藤先生は翔太の持つポテンシャルを見抜き、彼を特訓することに。日々の厳しい練習の中で、翔太は自分の限界を超えて成長していく。
夏の大会が近づき、風切りタイガースは予選を勝ち進む。そして、ついに甲子園の舞台に立つこととなった。翔太はチームを背負い、甲子園での勝利を目指す。
この物語は、夢を追い続ける少年の成長と、彼を支える仲間たちの絆を描いています。
冬馬君の夏休み
だかずお
青春
冬馬君の夏休みの日々
キャンプや恋、お祭りや海水浴 夏休みの
楽しい生活
たくさんの思い出や体験が冬馬君を成長させる 一緒に思い出を体験しよう。
きっと懐かしの子供の頃の思いが蘇る
さあ!!
あの頃の夏を再び
現在、You Tubeにて冬馬君の夏休み、聴く物語として、公開中!!
是非You Tubeで、冬馬君の夏休み で検索してみてね(^^)v
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる