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2章: リンドウの花に、口づけを

2-8 決着?

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「おーいっ!片腕の男!アタシと『お喋り』しようぜぇっ!」



後ろから恐怖を押し殺し、勇敢にも呼びかける彼女の姿が見えた。



「ユズキさん!」



彼女が息を切らして走ってきた。

唐突に、列車の警笛音が頭の中に鳴り響く。辺りを見回すが、当然列車の影は見えない。まだ突き飛ばされてはいないが、能力は発動しつつある。早く勝負をつけなくては危険だ。



「なんだっ なんだなんだなんだ おまえっ おまえがみゆを殺したのかぁぁあ!!」



男は振り返り、今度はユズキさん目掛けて突撃し始める。人というより獣の様な、悍ましい走り方だ。

恐怖に、目を瞑る彼女。拳を握り、唇をぎゅっと噛み締めた。



「そーだよっ!!アタシがソイツを殺したんだよぉ!!」



響く絶叫。

両手を広げ、精一杯の大声で、彼女はそう宣言した。その瞬間、時間が止まった気がした。何もかもが動きを止め、ここら一帯を静寂が包み込んだ。

猛獣の脚も、ぴたりと止まった。



(ーーーーか、勝った!)



会話が成立したことで彼女の能力が発動したのだ。



「アアあぁ あぁっ? ウゥああああああ!!」



何が何だか理解できず、言葉にならない声を発し、拘束を破ろうとする片腕の男。まるで罠に嵌った猛獣の様だ。動けなくなって尚、僕達に攻撃を加えようとしている。

だがそれが僕達に攻撃してくることはない。罠に嵌った時点で、もう勝負は決したのだ。

この狩りは、猟師である僕達の勝利に終わった。



間一髪だった、と胸をホッと撫で下ろす。



「ーーユズキさん」



僕は彼女に労いの言葉をかけようとする。彼女もそれに笑顔で応じようとする。

こうしてみると、ギャルも中々悪くない。僕は彼女に歩み寄り、とりあえず今後この男をどうするかについての相談を始めようとした。



だが、僕の胸のざわめきが、その行動にストップをかけた。僕は歩み寄ろうとする足を止める。



ーーおかしい。まだ、耳に列車の警笛音が聞こえる。



ーー次第に、列車の近づく音がする。



ーー何故。どうして。




男の動きは止めたはずだ。だがそれとは関係なく、能力は発動したまま。

振り向き、拘束された男の方を見る。




「えらべた かな。 おれは。」




そんなようなことを、呟いていたような気がした。まだ男は誰も突き飛ばしていない。なのに、列車は近づいている。



更に大きくなる列車音。



(考えている余裕は無いっ!)



僕は急いで向き直り、ユズキさんに勢いよく飛び付いた。



「きゃあっ!」



悲鳴をあげる彼女を抱きしめたまま、なるべく遠くへ、なるべくあの男から離れられる様に、歯を食いしばり全霊の力を込めて彼女ごと斜めに向かって飛びのいた。




耳をつん裂くような轟音をあげる列車音。軋む金属音。とびのく最中、背後で肉塊のような何かが、弾け飛ぶ音が聞こえた。
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