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第3話 麗奈①

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ある日の昼休み俺は人気ひとけのない校舎裏に呼び出されていた
人伝によって俺が呼ばれてることを知ったのでこの先誰が待っているのか分からない状況だ
実際分からないということは、意外にも怖いものでありこれから俺はどうなってしまうのだろうか――

「佐藤麗奈さんが好きです!!」
「ん?」
言われた通りに校舎裏に来てみるとそこにはよく知らない男子がいて、俺を見た途端意味が分からないことを言い出した
「あーっと。俺と麗奈のこと間違えてる?……あれ?でも俺の方見てから言ったよな?」
自分でもよく分からない事を言っていると思うが、実際意味わからないことを言われているので仕方ないだろう
「はっ!ごめんなさい!ついつい興奮してしまっていて……こほん、実はですね。僕は佐藤麗奈さんに告白しようと考えていて、そこで佐藤さんと仲いい盛岡君に呼び出してほしいのですが……」
なるほど。だからあの言葉が出てきたわけか
「うーん。言ってることは分かったけどなあ」
麗奈と乃愛と幼馴染をやっていればこういう風に頼まれることもよくあることだ。
数年前の俺なら断ることは無かったと思うが、今では俺も麗奈の事は好きだし、もし俺が了承した場合つまりライバルであるこいつに塩を送る訳になるということ
「だめだ!」
「あ!もしかして盛岡君と佐藤さんって……」
「いや違う違う」
麗奈のためにもここは否定しておかなければない
「じゃあなんでダメなんですか?」
うう、こいつ中々ねばってくるな……
「お、俺になんのメリットもないだろ!タダで俺を働かせられると思うなよ!」
なんとかあきらめさせようと思い、つい焦って卑しい男みたいなセリフを言ってしまった
そんな俺の様子を見て何かを察したのか、こいつの表情に余裕が現れだした
「ふーん。そうですか。じゃあ分かりました。盛岡君には頼んないことにします」
「おう!悪いな」
やっとあきらめてくれて心が安堵した時
「でも盛岡君はそれでいいんですか?」
「ん?」
往生際わるくないか?こいつとはもう話すこともないはずだ
「盛岡君が知らないところで佐藤さんに告白しちゃってもいいのかなって」
「!?」
こいつが言いたいのはおそらく、俺が手伝えば告白する時間と場所、結果を知ることができるが、こいつが単独で告白に挑戦した場合俺はなんも知らないことになるということだ
悔しいがこいつの言ってることは正しいし、こいつが告白するということを知った以上どうしても結果が気になる
「盛岡君。どうか一回だけでいいのでお願いします。告白中は隠れて見ていただいてても構いませんので。お願いです」
そう言って頭を下げてきた
一瞬、上から目線で来たと思えば今度は下からで、正直こいつのことはよくわからんなとは思ったけど、こいつが麗奈のことを好きなのは伝わってきて――
「今回だけな」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
本当はこんなマネしたくないが今回は仕方ない

日時や場所を決めた後俺たちは校舎に戻った
「じゃあ僕はクラスに戻ります!あ、あと僕の名前は林充希はやし みつきです!よろしくお願いしますね」
そう言うと林は自分のクラスに帰って行った
てか麗奈たちと同じクラスなのかあいつ
やっぱり自分で言えや

そして、それから数日後の昼休み、この前と同じく俺は校舎裏に来ていた
「じゃあ俺はそこの倉庫の裏に隠れてるからな」
「……はい」
さすがに告白の前で緊張しているのか声が小さい
まあでも俺にとっては上手く行ってほしいわけではないしいっか
というか俺はほんとにこんなことやってていいのだろうか。あまり考えないようにしてたがもし麗奈がこれで付き合ったら?俺は後悔するのだろうか。まあでも麗奈なら優しく振って終わりだろう。というかそうであってほしいと言う俺の願望なんだが
それから少しすると麗奈の声が聞こえてきた
「あれ林君?ここで他のクラスの男子見なかった?」
一応朝LINEでここに来るよう言っておいたのだが林がいることは言ってないので麗奈の声は少し驚いているようだった
「えーっと。盛岡君はここには来ないんだ」
「えっ?」
これから告白するんだろうか
というか麗奈の前では敬語じゃないんだな
「佐藤麗奈さん君に聞いてほしいことがある。俺と付き合ってくれ!!」
いきなり言ったぞ
というか意外にも男らしい告白で、もしかしたらワンチャン麗奈がうなずく可能性がでてくるのではとさっきより思った瞬間、むねが苦しくなった
「多分林君が亮に私を呼ぶように頼んだってことでいいんだよね?」
告白の返事をするのかと思いきや麗奈はそんなことを言い出した
そして麗奈の口調は苛立っているようにも聞こえる
「あ、うん」
林も告白の返事は?といった様子の声だ
「そっか。じゃあ教室戻るね」
あれ?返事はなし?
俺がそう思うよりも先に当の林が一番びっくりしている様子で、反射的にというように帰ろうとしている麗奈の腕を掴もうとした瞬間
――パチン!
「え?」
掴む前に麗奈に弾かれ呆気にとられる林
「――触んないで!」
はっきりと怒りが込められた声
それから少し冷静になったのか
「……ごめん。林君のこと嫌いになっちゃった。だから付き合えないし、クラスでも出来るだけ関わらないでほしい」
はっきりとした拒絶。林は何も言えず、それだけ言って麗奈は教室に戻って行ってしまった
そしてこの場には俺と林しかいなくなったわけだが
俺もさすがに林に何言っていいか分からず、校舎に帰って行く足音が聞こえなくなるまで俺はその場から動けなかった

その日の残りの授業は昼休みのことを思い出して全く集中できなかった
麗奈があんな風に振ったり、怒ったりしてるのが今でも信じれないでいる
麗奈は昔から性格も良くて人を傷つけたりしないし、たとえ嫌いな人から告白されたとしてもあんな振り方はしないと思う

そんなこんなで考えてたらいつの間にか放課後になってて
これから校門で二人と合流して帰るのだが正直今麗奈と会うの気まずい
あの様子だと嘘ついて呼び出した俺のことにも怒ってそうだからな
「あ!亮君お疲れさまー」
校門の着くといつも通り乃愛がそう言いながらこっちに寄ってきた
もちろんその隣には麗奈もいる
「あ……亮」
こっちに気づいた麗奈が一瞬こっちを見た後すぐに目を逸らされた
ずっと怒られると思っていたが、こっちの方がよっぽど精神的にきつい
「あ、えっと。今日も授業お疲れ!」
「うん……」
なんとか明るい雰囲気にもっていきたいと思ったが、もともと俺が悪い分何をしても無駄なことに気づいた
「ねえ亮君。麗奈ねえなんかおかしくない?お昼休みにどっか行って帰って来てからずっとこうなんだけど」
乃愛は何があったか分かっておらず心配そうな顔で麗奈の方を見ている
「あーうん。……とりあえず帰ろう」

それからは結局何も話すことなく家に着いてしまった
今まで麗奈を困らせたことはあったとしても怒らせたり、こんな風にさせたことがない分、自分の中で少しずつ焦りが募っていく
さすがにこのままではまずいな
麗奈に今日の事を謝ろうと
「乃愛、悪いんだけど先に一人で帰ってもらってもいいか?」
少々冷たい言い方になってしまったかもしれないが、乃愛も俺が原因だったのは薄々感じていたのか
「うん。でも喧嘩しちゃだめだからねー」
そう言うと乃愛はさっさと帰って行った
「麗奈。今日の事でちょっと」
「うん。私も話したいと思ってた。亮の部屋入れて」
「おう」
麗奈も雰囲気はまだ暗いままだが、話したかったのは事実みたいで今度は俺の目を逸らすことはなかった
それから俺の部屋に来ると、俺は床に座り麗奈はベットの端に腰掛けた
「亮の部屋来るの久しぶり」
「そうだな」
たしか最後に麗奈が俺の部屋に来たのって2年前くらいだっけ
「なんも変わってないね。なんか安心する」
実際は見せられないものだらけで急いで片づけたのだが
でもなんだか麗奈の様子がいつも通りに戻ってきたような気がする
今なら話せるかもしれないと思い
「あの、今日の事なんだけどさ」
「その前に、亮もこっちきて」
そう言ってポンポンとベットを叩く麗奈
「今のまま話すのじゃだめなの?」
さすがに俺もためらうというか、男女がベットで並んで座るって良くないことを考えてしまう
「……昔はみんなで座ってたじゃない。それにちゃんと近くで話したいから」
この前と言い最近の麗奈たちは昔のことを良く持ち出してくる
俺達はもう子供じゃないっていうのに
でも麗奈の目は真剣で、俺が謝る以上断ることは出来なかった
それから麗奈の横に腰を下ろし、麗奈の方に目を向ける
毎日会ってるから慣れていると思っていてもやっぱり至近距離だと目を背けたくなるくらい美人で、綺麗だ
でも今はそれよりも
「まず今日の事はごめん、よく考えたらわざわざ嘘つく必要とかなかったし、同じようなことはもうしないよ」
俺は麗奈の方を見てしっかりとそう言った
「亮が反省してるのは分かったけど……」
麗奈は納得してないような、何か堪えてるような様子だ
もう一度くらい謝った方がいいのだろうか
「もう嘘つかないし、ごめんって」
「亮は全然分かってない!」
「え?」
麗奈は我慢の限界といった様子で
「私は嘘ついたことに怒ってるとかそんなんじゃないし!」
口調では怒っているのに麗奈の表情はどこか悲しそうだ
どうにかしようと思えば思うほど焦りだけが降り積もって行って、頭が回らなくなって、じゃあ麗奈はなにが気に食わなかったんだ?といった疑問しか出てこない
そのせいでどうしても単調な言葉しか思いつかなかった
「すまん。俺はどうすればいいんだ?」
「じゃあ亮は私がこんな近くにいても何も思わないの?私が襲われたとしてもいいの?私がほかの男子と付き合ってもいいの?私の事大切に思ってくれてるんじゃなかったの?」
麗奈はそれまで堪えてたものを吐き出すようにそう言った
今の状況で俺はなんとか言われたことを理解して何か言おうと思ったが
「麗奈の事は大切だって!」
またしてもそんな言葉しか出てこなかった。でも嘘偽りないことは確かで
だが麗奈は
「今亮にそうやって言われても信じれるわけないじゃん……」
「あ――」
気付くと麗奈の瞳からはポツポツと涙が流れていた
そして俺が何かを言う前に
「――ごめんね」
そう言い残すと、荷物を持ってすぐに部屋を出て行った
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