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カネール
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「ん…。」
懐かしい夢を見た。ディルと出会って、お互いの常識の齟齬に四苦八苦していた頃の記憶。あの頃は大変だったなぁと思わず苦笑した。
「おはよーディル。」
…?返事がない。まだ起きていないのかな?一瞬そう思ったが、何かがおかしい。今まであったモノが、胸の中からポッカリ抜け落ちてしまったかの様な…。
「…っ!?ディル?ディル!?」
そこまで考えて、ハッと息を呑んだ私は何度も彼に対して呼びかける。しかし応答は無い。目を閉じて集中しても、今までずっと共にいた彼の気配を感じない。何処にも、居ない。
「嘘…嘘だよね…?」
そうだ、昨日…。いつもと少し様子が違うって分かっていたではないか。何故あのまま放置していたのか。彼と身体を共有し始めてから十年。今まで気付かなかったが、既に本体が顕現出来る程に回復していたとしたら…?
「…もう、私と一緒にいる必要は、ない?」
だから、何も言わず出て行った?別れの言葉も無く?気付けば布団にシミが広がっていた。虚無感、絶望感。そんな感情ばかりが内に蔓延る。
「そっか…私、ディルに依存してたんだ。」
両親が死んで、弟が行方不明になって、単身で旅に出て。やっと見つけたリュセはとてつもない何かに関わっている。それでも、ディルがいれば何とかなるかもしれないって、今回も乗り越えられるって、心のどこかでそう思っていたのか。
だから…愛想を尽かされたのか。
「二人にどう説明すれば…。特にディラン君はやっと会えた…の、に…?」
あれ…もしかしてディラン君の事も連れていった?そりゃそうだ、だって話を聞く限り、彼が弟の事を大事に想っているのはヒシヒシと伝わってきていた。でも、それなら何故騒ぎになっていないの?グルグルと思考していると、ドアをノックする音が聞こえ、その直後ガチャリと開いた。
「おはよう、メノウお姉ちゃん。」
「こら、返事が来ないまま開けるのはマナー違反ですよ!」
「え…ディラン、君…?」
何故…?ディルは彼の事も置いていった?そして、ようやく不可解な点に気付いた。だって、ディルはあちらでは死んだことになっている。そしてそれを画策したのは実の妹…。なら、彼の帰る場所は…無い?
『まだ確信はないんだけど…それにあの能力は、他にも使える奴がいるだろうし…。』
昨日のディラン君の言葉を思い起こす。そうだ、彼らはリュセの背後にいる人物に当たりをつけている。もしそれが原因で、ディルが離れたんだとしたら…?
「…っ!?ど、どうしよう…!ディルが、ディルが…!」
嫌だ嫌だ嫌だ!昔、彼がボロボロになって倒れていた姿が目の前に浮かんでは消える。もし、今度こそ本当に彼が死んでしまったら。
「お姉ちゃん!?落ち着いて!兄さんがどうしたの!?」
「ディルが…何処かに行っちゃった…!きっと危険な所に!」
懐かしい夢を見た。ディルと出会って、お互いの常識の齟齬に四苦八苦していた頃の記憶。あの頃は大変だったなぁと思わず苦笑した。
「おはよーディル。」
…?返事がない。まだ起きていないのかな?一瞬そう思ったが、何かがおかしい。今まであったモノが、胸の中からポッカリ抜け落ちてしまったかの様な…。
「…っ!?ディル?ディル!?」
そこまで考えて、ハッと息を呑んだ私は何度も彼に対して呼びかける。しかし応答は無い。目を閉じて集中しても、今までずっと共にいた彼の気配を感じない。何処にも、居ない。
「嘘…嘘だよね…?」
そうだ、昨日…。いつもと少し様子が違うって分かっていたではないか。何故あのまま放置していたのか。彼と身体を共有し始めてから十年。今まで気付かなかったが、既に本体が顕現出来る程に回復していたとしたら…?
「…もう、私と一緒にいる必要は、ない?」
だから、何も言わず出て行った?別れの言葉も無く?気付けば布団にシミが広がっていた。虚無感、絶望感。そんな感情ばかりが内に蔓延る。
「そっか…私、ディルに依存してたんだ。」
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だから…愛想を尽かされたのか。
「二人にどう説明すれば…。特にディラン君はやっと会えた…の、に…?」
あれ…もしかしてディラン君の事も連れていった?そりゃそうだ、だって話を聞く限り、彼が弟の事を大事に想っているのはヒシヒシと伝わってきていた。でも、それなら何故騒ぎになっていないの?グルグルと思考していると、ドアをノックする音が聞こえ、その直後ガチャリと開いた。
「おはよう、メノウお姉ちゃん。」
「こら、返事が来ないまま開けるのはマナー違反ですよ!」
「え…ディラン、君…?」
何故…?ディルは彼の事も置いていった?そして、ようやく不可解な点に気付いた。だって、ディルはあちらでは死んだことになっている。そしてそれを画策したのは実の妹…。なら、彼の帰る場所は…無い?
『まだ確信はないんだけど…それにあの能力は、他にも使える奴がいるだろうし…。』
昨日のディラン君の言葉を思い起こす。そうだ、彼らはリュセの背後にいる人物に当たりをつけている。もしそれが原因で、ディルが離れたんだとしたら…?
「…っ!?ど、どうしよう…!ディルが、ディルが…!」
嫌だ嫌だ嫌だ!昔、彼がボロボロになって倒れていた姿が目の前に浮かんでは消える。もし、今度こそ本当に彼が死んでしまったら。
「お姉ちゃん!?落ち着いて!兄さんがどうしたの!?」
「ディルが…何処かに行っちゃった…!きっと危険な所に!」
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