47 / 66
カネール
47(side.ディル)
しおりを挟む
「まず、魔法陣は基本的に外周が円形ではあるけど、頂点自体は六ケ所なんだよ。つまり、その六ケ所それぞれに点があって、それを線で結ぶイメージなんだ。ここまでは分かる?」
『う、うん…なんとか…。』
意識を交代して身体の所有権を預かった僕は、内に潜ってるメノウの意識に向かって語りかける。
…そういえば昔も、こんな感じでたまに魔法について教えることがあった。あんなに小さな子供だったのが、今ではもう立派な大人だ。僕が関わらなければ、彼女は今もあの両親や弟と笑い合っていたのだろうか。
そんな考えを打ち消す様に、メノウに魔法陣についての説明を続ける。
「その頂点にはそれぞれ三つの性質があって…性質Aから性質B、性質Bから性質C、性質Cから性質Aに向かって回路を開くんだ。そして最後は必ず性質Aで止めなければいけない。この法則を回路帰結って言うんだけど…。』
『そ、その性質って全部暗記…?』
「当たり前でしょ…。まあ、と言ってもある程度はグループ分け出来るよ。問題はどの位置にどの性質が来るか、これだけだね。」
『うう…覚えられるかなあ…。』
「だから一朝一夕で出来るようになるわけじゃないってさっきも言ったじゃん。あくまでざっと説明してるだけだから、本気で覚えたければ専門書なり買って地道に覚えるしかないよ。」
『はーい…。』
その後も僕はメノウに基本的なことを教えていった。性質Aは魔法の特性、Bは方向性、Cは発動時の展開の仕方という括りで考えると覚えやすい事までは何とか理解出来た様だ。その他にも回路を敷く時の魔力の練り方や種類も伝えたが、一回で習得出来るなんて流石の僕も思っていない。
寧ろ一度説明を受けただけで魔法を組めた自分の方が異常なのだろう。昔からそうだった。何でもたった一度読む度、聞く度、見る度に頭の中には正確にその文が、言葉が、光景が記憶されていく。その癖どんなに不快なものでも忘れる事さえ出来やしない。
父は言った。その能力はお前の力となる、と。確かに武術も、魔術も、戦いに関係ない様々な知識ですら頭に叩き込むのは至極簡単だった。でも理解するのとそれを使いこなすのは同義ではない。当初は武器を振り回す力も、繊細な魔力操作も出来なかった。故に理想と現実のギャップに耐え切れず、一時期荒れていたりもした。
そんな時だった、父が人間…ディランの母親を連れてきたのは。カリアはこれでもかと言うほど毛嫌いしていたし、自分も最初は反発していたと思う。それでも彼女は立派な人だった。数多の悪意を笑って受け流していたかと思えば、身近なヒトが被害に遭ったらその足で怒鳴りこみに行く。稀に暴力沙汰になったりもして、人間なのに悪魔をボコボコにしていた。しかし、それ程の力があるにも関わらず、彼女は自分の為にそれを振るう事はついぞなかった。
出来心だったんだろう、ある日僕は彼女に問いかけた。何で相手を力で支配しようとしないのか、そうすれば誹謗中傷もなくなるだろうに、と。
『だって、それは私のやり方じゃないもの。それに…暴力で無理矢理抑えつけて、それで何か変わるの?寧ろ悪化すると思うけど。それだけじゃない、私の周りにまで被害が及ぶかもしれない。あのねディル君…私は大切なヒトの為なら、自分に向けられる悪意なんてどうってことないの。その大切なヒトには、勿論あなたも入っているのよ?』
数ある記憶の欠片の中でも、その言葉は今でもひと際強く輝く大きな宝石の様に存在感を放っている。
大切なんて概念、それまで僕の中にはなかったし、その後も漠然と感じるだけでそれを強く描いた事はない。これからもそうだと、人間の考えなんて理解出来ないと、ずっと思って生きてきたのに。
『ディル。あなたは間違いなく私の一番の理解者で、友人で、仲間だから。』
『悪魔だからって理由で逃げないで、ちゃんと悲しいって、傷付いてるって、自分を認めてあげて。』
メノウの言葉が、耳から離れない。息苦しいような、それでいて不快でもない不思議な感覚に襲われる。もう気づかないフリなんて無理だ。さっきも、ありありと認識してしまったのだから。
“大切な人とずっと一緒にいたい”と。
『う、うん…なんとか…。』
意識を交代して身体の所有権を預かった僕は、内に潜ってるメノウの意識に向かって語りかける。
…そういえば昔も、こんな感じでたまに魔法について教えることがあった。あんなに小さな子供だったのが、今ではもう立派な大人だ。僕が関わらなければ、彼女は今もあの両親や弟と笑い合っていたのだろうか。
そんな考えを打ち消す様に、メノウに魔法陣についての説明を続ける。
「その頂点にはそれぞれ三つの性質があって…性質Aから性質B、性質Bから性質C、性質Cから性質Aに向かって回路を開くんだ。そして最後は必ず性質Aで止めなければいけない。この法則を回路帰結って言うんだけど…。』
『そ、その性質って全部暗記…?』
「当たり前でしょ…。まあ、と言ってもある程度はグループ分け出来るよ。問題はどの位置にどの性質が来るか、これだけだね。」
『うう…覚えられるかなあ…。』
「だから一朝一夕で出来るようになるわけじゃないってさっきも言ったじゃん。あくまでざっと説明してるだけだから、本気で覚えたければ専門書なり買って地道に覚えるしかないよ。」
『はーい…。』
その後も僕はメノウに基本的なことを教えていった。性質Aは魔法の特性、Bは方向性、Cは発動時の展開の仕方という括りで考えると覚えやすい事までは何とか理解出来た様だ。その他にも回路を敷く時の魔力の練り方や種類も伝えたが、一回で習得出来るなんて流石の僕も思っていない。
寧ろ一度説明を受けただけで魔法を組めた自分の方が異常なのだろう。昔からそうだった。何でもたった一度読む度、聞く度、見る度に頭の中には正確にその文が、言葉が、光景が記憶されていく。その癖どんなに不快なものでも忘れる事さえ出来やしない。
父は言った。その能力はお前の力となる、と。確かに武術も、魔術も、戦いに関係ない様々な知識ですら頭に叩き込むのは至極簡単だった。でも理解するのとそれを使いこなすのは同義ではない。当初は武器を振り回す力も、繊細な魔力操作も出来なかった。故に理想と現実のギャップに耐え切れず、一時期荒れていたりもした。
そんな時だった、父が人間…ディランの母親を連れてきたのは。カリアはこれでもかと言うほど毛嫌いしていたし、自分も最初は反発していたと思う。それでも彼女は立派な人だった。数多の悪意を笑って受け流していたかと思えば、身近なヒトが被害に遭ったらその足で怒鳴りこみに行く。稀に暴力沙汰になったりもして、人間なのに悪魔をボコボコにしていた。しかし、それ程の力があるにも関わらず、彼女は自分の為にそれを振るう事はついぞなかった。
出来心だったんだろう、ある日僕は彼女に問いかけた。何で相手を力で支配しようとしないのか、そうすれば誹謗中傷もなくなるだろうに、と。
『だって、それは私のやり方じゃないもの。それに…暴力で無理矢理抑えつけて、それで何か変わるの?寧ろ悪化すると思うけど。それだけじゃない、私の周りにまで被害が及ぶかもしれない。あのねディル君…私は大切なヒトの為なら、自分に向けられる悪意なんてどうってことないの。その大切なヒトには、勿論あなたも入っているのよ?』
数ある記憶の欠片の中でも、その言葉は今でもひと際強く輝く大きな宝石の様に存在感を放っている。
大切なんて概念、それまで僕の中にはなかったし、その後も漠然と感じるだけでそれを強く描いた事はない。これからもそうだと、人間の考えなんて理解出来ないと、ずっと思って生きてきたのに。
『ディル。あなたは間違いなく私の一番の理解者で、友人で、仲間だから。』
『悪魔だからって理由で逃げないで、ちゃんと悲しいって、傷付いてるって、自分を認めてあげて。』
メノウの言葉が、耳から離れない。息苦しいような、それでいて不快でもない不思議な感覚に襲われる。もう気づかないフリなんて無理だ。さっきも、ありありと認識してしまったのだから。
“大切な人とずっと一緒にいたい”と。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したらダンジョン雲になった訳
一色
ファンタジー
40歳ニート、性格怠惰の青雲太郎はある日家から追い出され、仕事を探すことになった。一枚のビラを手にし、俳優になることを決意する。しかし、監督から人間否定、人生否定をされ、極度にショックを受け、自分の存在意義を考える。挙げ句には役から外され、その怒りで劇をぶち壊してしまう、その天罰なのか不慮の事故で死亡してしまった。そして、なぜだか異世界で、雲人間に転生してしまう。またの名を雲王《オーバーキャスト》、あるいはダンジョン雲と呼ぶ。ノベルアップ+でも掲載。
今日も聖女は拳をふるう
こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。
その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。
そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。
女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。
これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる