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カネール
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「うーん…。見た目は普通の廃教会だったね。」
「まあ、それはそうでしょうね。」
「まずステルスを自分達にかけて潜入して、物陰に隠れながらオークションを見張る役と、奴隷達が閉じ込められている場所を見つけて解放する役に分かれる、とか?」
「かなり厳しいですね…。まず、俺は魔法が使えないのでメノウ頼みということ。その上で別行動となると、不測の事態が起きた場合に対処しきれません。」
そう、そこなのだ。しかし、他に方法が…。
「…メノウ、まず自分達に出来ることをしましょう。」
「え?」
「今回のオークションで奴隷全員を解放するなんて不可能です。当初の目的である子爵の観察と、ディランの救出に重きを置きましょう。」
「で、でも…!」
「メノウ。」
大きな声で呼ばれた訳でもないのに、ビクッと肩が跳ねる。まるで小さな子供を諭すような厳しさと温かさを持った声だった。
「自分の力を過信してはいけません。誰にだって出来ないことがある。出来ることを常に取捨選択して、進む必要がある。分かりますね?」
「…はい…。」
セインの言う通りだった。奴隷を全員救うなんて、傲慢も良いところだ。少し、頭が冷えた気がする。
「ごめん、セイン。じゃあ、私達二人でオークションにステルスで潜入して、子爵の会話を盗み聞きしつつ、ディランが表に出されたと同時に皆を眠らせる。その隙にディランを救出。これでどうかな?」
「良いと思います。それで行きましょう。」
「うん。…はあ、喉が渇いちゃった。そう言えば街に着いてから水道で水を水筒に汲んだけど、一度も飲んでないや。」
そう言いながら、鞄から水筒を取り出し、口をつける。
『…っ!?飲むな!!』
「きゃっ…!」
ディルの声がしたと思ったと同時、水筒が手から弾かれて宙を舞う。カラカラと音を立てて中身をぶちまけながら床に転がった。
「どうしたんですか!?」
「わ、わからない。いきなりディルが…!」
『…この水…。微かだけど魔毒が含まれてる。』
「え、魔毒…?」
『魔力を蝕む毒だよ。これを摂取し続けると、体調不良になりどんどん魔力を失ってくんだ。そして、失った魔力は、永久に元に戻らない。』
息を呑む。そんな、これはただの水道水だ。でも、そこに毒が含まれていたとしたら…。
「…まさか、街の人達のあれは…。」
『十中八九、この魔毒のせいだろうね。』
「メノウ?」
「セイン…。」
私は、セインに今の内容を伝えた。彼も息を呑み、次の瞬間にはもう考え始める。
「…ディルさん。この魔毒が魔力を蝕み切るにはどのくらいの量と日数が必要ですか?」
『…その人の魔力量にも摂取量にもよるけど、この濃度ならおよそ二十五リットル、日数にして二週間程度って所かな。』
「ーーだって。」
「となると、既に六日経ってる事からして、今からリベートに戻って連絡しても間に合わない。危険ですが、依頼所の人に説明して対策するしかない。」
「でも、どう説明すれば…。」
『派生魔法で水質を調べたら判明したって言えば良いんじゃない?魔毒については詳しく説明しなくても、何らかの毒反応があったって伝えれば。』
「なるほど…。」
「とりあえず、今日はもう遅い。明日また動きましょう。」
「分かった…。水筒は洗って、中に魔法で出した水を汲んでおくね。」
「ありがとうございます。」
そんなこんなでこの日は行動を終了した。明日、必ず伝えなければ。不安は残るが、背に腹はかえられない。固く決心し、眠りについた。
「まあ、それはそうでしょうね。」
「まずステルスを自分達にかけて潜入して、物陰に隠れながらオークションを見張る役と、奴隷達が閉じ込められている場所を見つけて解放する役に分かれる、とか?」
「かなり厳しいですね…。まず、俺は魔法が使えないのでメノウ頼みということ。その上で別行動となると、不測の事態が起きた場合に対処しきれません。」
そう、そこなのだ。しかし、他に方法が…。
「…メノウ、まず自分達に出来ることをしましょう。」
「え?」
「今回のオークションで奴隷全員を解放するなんて不可能です。当初の目的である子爵の観察と、ディランの救出に重きを置きましょう。」
「で、でも…!」
「メノウ。」
大きな声で呼ばれた訳でもないのに、ビクッと肩が跳ねる。まるで小さな子供を諭すような厳しさと温かさを持った声だった。
「自分の力を過信してはいけません。誰にだって出来ないことがある。出来ることを常に取捨選択して、進む必要がある。分かりますね?」
「…はい…。」
セインの言う通りだった。奴隷を全員救うなんて、傲慢も良いところだ。少し、頭が冷えた気がする。
「ごめん、セイン。じゃあ、私達二人でオークションにステルスで潜入して、子爵の会話を盗み聞きしつつ、ディランが表に出されたと同時に皆を眠らせる。その隙にディランを救出。これでどうかな?」
「良いと思います。それで行きましょう。」
「うん。…はあ、喉が渇いちゃった。そう言えば街に着いてから水道で水を水筒に汲んだけど、一度も飲んでないや。」
そう言いながら、鞄から水筒を取り出し、口をつける。
『…っ!?飲むな!!』
「きゃっ…!」
ディルの声がしたと思ったと同時、水筒が手から弾かれて宙を舞う。カラカラと音を立てて中身をぶちまけながら床に転がった。
「どうしたんですか!?」
「わ、わからない。いきなりディルが…!」
『…この水…。微かだけど魔毒が含まれてる。』
「え、魔毒…?」
『魔力を蝕む毒だよ。これを摂取し続けると、体調不良になりどんどん魔力を失ってくんだ。そして、失った魔力は、永久に元に戻らない。』
息を呑む。そんな、これはただの水道水だ。でも、そこに毒が含まれていたとしたら…。
「…まさか、街の人達のあれは…。」
『十中八九、この魔毒のせいだろうね。』
「メノウ?」
「セイン…。」
私は、セインに今の内容を伝えた。彼も息を呑み、次の瞬間にはもう考え始める。
「…ディルさん。この魔毒が魔力を蝕み切るにはどのくらいの量と日数が必要ですか?」
『…その人の魔力量にも摂取量にもよるけど、この濃度ならおよそ二十五リットル、日数にして二週間程度って所かな。』
「ーーだって。」
「となると、既に六日経ってる事からして、今からリベートに戻って連絡しても間に合わない。危険ですが、依頼所の人に説明して対策するしかない。」
「でも、どう説明すれば…。」
『派生魔法で水質を調べたら判明したって言えば良いんじゃない?魔毒については詳しく説明しなくても、何らかの毒反応があったって伝えれば。』
「なるほど…。」
「とりあえず、今日はもう遅い。明日また動きましょう。」
「分かった…。水筒は洗って、中に魔法で出した水を汲んでおくね。」
「ありがとうございます。」
そんなこんなでこの日は行動を終了した。明日、必ず伝えなければ。不安は残るが、背に腹はかえられない。固く決心し、眠りについた。
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