悪魔の誓い

遠月 詩葉

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リベート

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果たして、その店はひっそりと、存在感を限りなくなくす形で門を構えていた。
それに路地裏なだけあって、全体的に小汚い印象も受ける。それは道に散乱しているゴミや、壁に書かれている落書きのせいだろう。

「…。」

思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。弟を探すという目的がなければ間違っても近付こうともしない場所だ。ハッキリ言うと…治安が悪い。

「メノウ!勝手に一人で走り出したら危ないでしょう!」
「あ…セイン…。」

そうだった、依頼所にセインを置き去りにしてしまっていた。途端に申し訳なさから自然と顔が俯いてしまう。

「全く…。ただでさえ何が起きるか分からないんですから、もう少し考えて行動してください。」
「ごめんなさい…。」
「…反省しているようなので、お説教はここまでにしときます。あと、はいこれ。魔物の核を換金して貰ったので、その半分です。」

そう言ってセインが差し出した袋の中には、約五万シルドが入っていた。これが半分ということは、総額十万シルド…。大金すぎる。

「あ、ありがとう…。」
「そこのお二人、うちに何か御用ですか?さっきから入口前で話してるので、気になってお声がけさせて貰いましたが…。」

ハッとして振り向くと、情報屋だと思われる建物の中から中年男性が身体を覗かせていた。多分ここの店員だろう。

「すみません!えっと、ここが情報屋さんだとお聞きしたものですから訪ねようとしていた所なんです。」
「なるほど…。ここではなんですから、中にお入りください。」

そう言って店内に姿を消す男性。私達は招かれるまま後を追い、そして談話室のような部屋に通された。促されてソファーに腰掛けると、男性も向かいに座る。その顔は既に商売人の表情を形作っていた。

「それで、あなた方みたいなお若い人が、何の情報をお求めで?」
「実は、私の弟の行方が知りたくて…。」
「弟さんの、ですか?」
「はい、実は三年前から弟は親戚の家を転々としていたのですが…。一年ほど前に、突如消息不明になってしまったのです。身内は皆、何も知らないと…。」
「ふむ…。失礼ですが、自衛隊などには捜索届を出さなかったのですか?」
「それが、最後にお世話になっていた親戚の家に、一言「探さないでください」と置き手紙があったらしく…。事件性もなく、本人の意志によっての行動ということで、取り合って貰えなかったんです。」
「ふーむ…。」

男性は顎に手を当てて考え込んでしまった。やはり、難しいだろうか。

「因みに、今まであなたは弟さんをずっと探されていたのですか?」
「はい。立ち寄った街に聞き込みをして回ってました。しかし、全くと言っていいほど情報が出てこなくて…。」
「参考までに、どの地域を?」
「えっと…大体この国の西辺りです。具体的には、最西端のカルナから東沿いに、このリベートまで八つの街を見てきました。」
「なるほど…。既に西地域より遠い場所にいる可能性が高いですね。消息を絶ったのが一年前となると、捜索範囲も最悪他国にまで及ぶ。となると、資金も莫大なものになります。」
「どれくらいになるでしょうか…?」

そうですね…と言いながら、男性は一枚の紙をテーブルに広げた。その上には様々な数字が目立つように書かれている。

「基本私どもへの依頼料金は、一から情報を集める形ですと基本プラス月ごとの料金、そして諸々の経費がかかってきます。基本料金は一括で三万シルド、月ごとに二万シルド。経費は…今回の場合ですとかなりの広範囲となるので、月ごとに十万シルド程でしょうか。つまり、一ヶ月分の料金だけで十五万になります。」
「そ、そんなに…!?」
「すみません、こちらも商売なもので。」

それはそうだ。相手も善意でやっている訳では無い。しかし、明らかに手持ちが足りない。とりあえずは諦めるしかないのだ。

「ごめんなさい、手持ちが足りないので、今回は…。」
「そうですか。お力になれず申し訳ありません。もし気が変わるようでしたら、この街以外にも店を広げておりますので。」
「はい、ありがとうございます。…ごめんねセイン、行こ?」
「…。」

そうして私達は店を出て依頼所へと戻って行った。
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