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二人旅
12(side.セイン)
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「………。」
ガクリ、と目の前に立つ彼女が膝を折る。慌てて身体を支えて顔を覗き込むが、どうやら意識は保ってるらしかった。そして…、その瞳の色もまた、元に戻っている。
「…メノウ?大丈夫ですか?」
「……うん。」
彼女はそう静かに頷くと、パッと俺から離れた。目も合わせようとしない。よく見ると、その肩は小さく震えていた。メノウは何かに怯えている。それだけは見て取れた。
「とりあえず、子供たちをこの先の宿屋まで運びましょう。…何往復かかるかな…。」
「それなら大丈夫。フライ。」
彼女が魔法を唱えると、子供たちの身体が宙に浮いた。どうやらこのまま運んでいくつもりのようだ。
「…流石ですね。」
「そんなことないよ。」
やはり俺と目を合わせることなく、メノウは先へと進み始めた。その背中が語っている。何も聞かないでほしいと。
本当なら、彼女の願い通り何も聞かないでいた方が傷つけずに済むのかもしれない。だが、それではこのぎくしゃくとした関係はいつまで経っても改善されないだろう。まだたったの数日しか一緒に行動していないが、少なくともメノウが悪い人間でないことだけは断言できる。だが…先ほどの存在が何なのか、全くわからない。それに、あれは暴走した黒髪の少年をディランと呼んだ。つまり、あれは少年のことを知っているのだ。
(…だめだ、何も見えてこない。)
彼女は、一体何を抱えているのだろうか。前を歩く姿は、とても頼りなさげだ。
「あ、見えてきた。」
その言葉に前方を見やると、赤い屋根の宿屋がぽつんと建っていた。何とか日没に間に合ったようだ。
「ごめんください。」
ドアから姿を現した宿屋の主人は、眠ったまま宙に浮いている子供たちを見て心底驚いている。一体何があったのかと問う彼に、俺は出来るだけ理解してもらえるようにかいつまんで説明する。ただし、メノウのことは伏せて。
主人には、黒髪の少年が魔法で奴隷商を倒し、メノウが睡眠魔法で子供たちを眠らせここまで運んできたと伝えた。一応嘘は言っていないが、真実でもない。だが、時として事実は作り話よりも虚言めいていることもあるのだ。まさに今回の騒動がそれだと言える。
「大変だったな…。とりあえず、子供たちをベッドに寝かせよう。自衛隊には、こちらから連絡しておくよ。」
「ありがとうございます。」
「あ、その例の少年には、もう一度魔封じの首輪をつけといてもらって良いかい?一応、万が一のこともあるから。」
「わかりました。」
主人と協力して子供たちを部屋へと運んだ俺たちに、彼は「疲れただろう」と労いの言葉をかけ、今日泊まる部屋に案内してくれた。俺たちは感謝の意を述べ、有難く体を休めることにした。
「メノウ。」
「…なに?」
びくっと、分かりやすすぎるくらいに彼女の肩が跳ねる。気を抜いたら泣いてしまいそうな、そんな表情を浮かべていた。
「あれは一体なんなんですか?メノウ…とはまるで別人でしたが。」
「…。」
俯いて下唇を噛むメノウ。余程言いたくないのは痛いくらい分かっていたが、ここで引き下がるほど俺は優しくない。
「メノウ。答えてください。」
「……彼の名前はディル。」
「ディル…。それで、彼は何者なんですか?」
「………。」
ようやく重い口を開いたかと思えば、その名前を出しただけでまた黙りこくってしまった。
「メノウ。…君が何を抱えているのか、俺は知りません。だから、教えてください。俺たちは、仲間でしょう?」
「…っ…!わ、私は…!」
一粒の涙が頬を伝い、そのまま床に降り立つ…それと同時に、バンッと部屋のドアが勢いよく開かれる音が響いた。
ガクリ、と目の前に立つ彼女が膝を折る。慌てて身体を支えて顔を覗き込むが、どうやら意識は保ってるらしかった。そして…、その瞳の色もまた、元に戻っている。
「…メノウ?大丈夫ですか?」
「……うん。」
彼女はそう静かに頷くと、パッと俺から離れた。目も合わせようとしない。よく見ると、その肩は小さく震えていた。メノウは何かに怯えている。それだけは見て取れた。
「とりあえず、子供たちをこの先の宿屋まで運びましょう。…何往復かかるかな…。」
「それなら大丈夫。フライ。」
彼女が魔法を唱えると、子供たちの身体が宙に浮いた。どうやらこのまま運んでいくつもりのようだ。
「…流石ですね。」
「そんなことないよ。」
やはり俺と目を合わせることなく、メノウは先へと進み始めた。その背中が語っている。何も聞かないでほしいと。
本当なら、彼女の願い通り何も聞かないでいた方が傷つけずに済むのかもしれない。だが、それではこのぎくしゃくとした関係はいつまで経っても改善されないだろう。まだたったの数日しか一緒に行動していないが、少なくともメノウが悪い人間でないことだけは断言できる。だが…先ほどの存在が何なのか、全くわからない。それに、あれは暴走した黒髪の少年をディランと呼んだ。つまり、あれは少年のことを知っているのだ。
(…だめだ、何も見えてこない。)
彼女は、一体何を抱えているのだろうか。前を歩く姿は、とても頼りなさげだ。
「あ、見えてきた。」
その言葉に前方を見やると、赤い屋根の宿屋がぽつんと建っていた。何とか日没に間に合ったようだ。
「ごめんください。」
ドアから姿を現した宿屋の主人は、眠ったまま宙に浮いている子供たちを見て心底驚いている。一体何があったのかと問う彼に、俺は出来るだけ理解してもらえるようにかいつまんで説明する。ただし、メノウのことは伏せて。
主人には、黒髪の少年が魔法で奴隷商を倒し、メノウが睡眠魔法で子供たちを眠らせここまで運んできたと伝えた。一応嘘は言っていないが、真実でもない。だが、時として事実は作り話よりも虚言めいていることもあるのだ。まさに今回の騒動がそれだと言える。
「大変だったな…。とりあえず、子供たちをベッドに寝かせよう。自衛隊には、こちらから連絡しておくよ。」
「ありがとうございます。」
「あ、その例の少年には、もう一度魔封じの首輪をつけといてもらって良いかい?一応、万が一のこともあるから。」
「わかりました。」
主人と協力して子供たちを部屋へと運んだ俺たちに、彼は「疲れただろう」と労いの言葉をかけ、今日泊まる部屋に案内してくれた。俺たちは感謝の意を述べ、有難く体を休めることにした。
「メノウ。」
「…なに?」
びくっと、分かりやすすぎるくらいに彼女の肩が跳ねる。気を抜いたら泣いてしまいそうな、そんな表情を浮かべていた。
「あれは一体なんなんですか?メノウ…とはまるで別人でしたが。」
「…。」
俯いて下唇を噛むメノウ。余程言いたくないのは痛いくらい分かっていたが、ここで引き下がるほど俺は優しくない。
「メノウ。答えてください。」
「……彼の名前はディル。」
「ディル…。それで、彼は何者なんですか?」
「………。」
ようやく重い口を開いたかと思えば、その名前を出しただけでまた黙りこくってしまった。
「メノウ。…君が何を抱えているのか、俺は知りません。だから、教えてください。俺たちは、仲間でしょう?」
「…っ…!わ、私は…!」
一粒の涙が頬を伝い、そのまま床に降り立つ…それと同時に、バンッと部屋のドアが勢いよく開かれる音が響いた。
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