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第一章
第三話 『魔王イラ』
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魔界アルドラマの首都から隣国”カンタローザー”を経由し陸路で半日の距離に、アンが最初に赴任先となった”エルデネ”がある。
どこまでも続く平原は、“畜産”と“農業”を中心とした経済を有している。
そのエルデネを統治する”魔王イラ”
七魔王の中で、七番目の魔王として生まれた彼の“エレメンタル”は”火”
街は、
冬の到来とともにはじまる “感謝祭”の準備で賑わいをみせていたのだが・・・。
感謝祭の時期になると発生する”蝗害”に頭を抱えていた。
“デスホッパー”と呼ばれる子豚ほどもある大きさのバッタが群れをなし、繁殖と変異を繰り返しながら大陸を南北へ縦断し、通り道の農作物や家畜を食いつくす。
“蝗害“の終着地でもある”エルデネ”では特に被害が大きく、経済に大きな影響を与えている。魔王イラのエレメンタルによって作られた”炎壁”は”蝗害”を防ぐために重要な防護壁の役割を果たすものであった・・・。
―・―・―・―・―・―
炎壁消失から数時間後の事故現場・・・
魔王イラの執務室に炎壁守備隊の隊長ロキがやってきた。
「失礼します、同乗していた親子や運転手の命に別状はありません。運転手の“石化”も治療すれば元に戻ります。石化の原因は出発前にターミナルで食べた生焼けのコカトリスだそうです」
少し安堵の表情をイラが見せる。
「そうか、”炎壁”が消えたことはなにかわかったか?」
「現在も調査中です」
焼け焦げたバスを見つめ、魔王イラに不安がよぎる。
“蝗害”に備え、再度この広大な場所に”炎壁”を創り出さねばならないのだ。魔力を帯びた炎を生み出すには、”魔王のエレメンタル”を大量に消費する。
デスホッパーは、群れに先遣隊を作り出し餌の在処を仲間に伝える性質をもっている。そのため、”炎壁”を本隊がくる何日も前に創り出しておく必要があった。
「イラ様、報告では数日後には”蝗害”が・・・」
「時間がないな・・・」
「炎壁守備隊で少しでも被害範囲を減らすように、隊の配置を行います」
「わかった、オレも残ったエレメンタルで少しでも数を減らそう」
「いけませんイラ様!もう選挙ではないですか」
「ここは我々で対策をたてます。今夜はお戻りになってください」
ロキは炎壁守備隊を率いてその場を離れた。
「こんな時に・・・」
イラは悔しさを顔ににじませた。
―・―・―・―・―・―・―・―・―
エルデネの繁華街から少し離れた場所にある静かなBAR。
カウンター席しかなく、年季の入った調度品には品を感じる。
店内には、ラジオの音が小さく流れている。カウンターではメリスがエルデネの地ビール“グリエモート”のはいったグラスにむかって独り言をつぶやいていた。
「なんで私、ヌードルなんか奢っちゃったんだろ・・・?」
ラジオからは、曲が終わりMBCの人気番組『ミーナ&ナーミの天下取りマス!!』が流れ、総選挙の予想を語りだした。メリスは耳を傾ける。
「深夜もどっぷりですが、アルドラマ中が大注目の七魔王の総選挙!ミーナの予想を聞かせてちょうだい!」
「おそらく大方の予想はファシルス様なのな~アルドラマの宰相だし~」
「じゃあ、ミーナもファシルス様有利と?!」
「と・こ・ろ・が!シャンゼデルタのプライム様は対抗馬としては申し分ないのな!間違えなく!アルドラマ1のリッチマンだもんで~」
「ほほぉ、リッチっていうのであればルクスリア様も負けてないですよ!」
「たしかに財閥クラスで情報が非公開ときてるのな。まさにダークホース!」
「ウチらの故郷カンタローザはどうなの?」
「あぁベルチ様ね、ないのな」
「うわぁ!冷たい!」
「ルネリアのルサルカ様もまずは自国の支持を得るところからなのな~」
「ははは、ベルチ様、ルサルカ様ときたらエルデネのイラ様はどう?」
「イラ様なんて、ここ数年の自然災害で選挙どころじゃないのな?」
「それで?本命は!?」
「断然!リロイ様!まじでかわいい!弟に欲しい!」
「完全にあんたの趣味やないか!えー、以上ミーナ&ナーミの七魔王の総選挙予想でした!」
グリエモートを一気に飲み干すメリス。
不機嫌な様子を察してか、店主が静かな音楽番組に切り替える。
「おかわり!」
目の前に新しいグリエモートが置かれる。
「イラ様が勝つにきまってるじゃない・・・」
また、一気に飲み干すメリス。
「・・・。イラ様なにしてるかな?」
酔いまかせでイラに連絡するメリス。
“メリス、どうした?こんな時間に、なにかあったのか?”
「イラ様こそ、こんな時間までなぜ起きてるんですか?寝てください!」
“え?そっ・・”
ぶっつり切ってしまうメリス。
途端に後悔が襲ってくる・・・。
それに今日帰り際にみたイラの笑顔の正体が気になって仕方ない。
首都からイラの元にやって来て早数年、なにも進展してない自分の意気地のなさに今夜はほとほと嫌気がさしてきた。
「もう少し飲むか・・・」
―・―・―・―・―・―・―・―・―
明方から降り出した霧雨は、エルデネにあるマスラ山脈に冷やされ
冷たい氷の結晶となり肌を刺す。まだ薄暗い早朝の山脈の麓。魔王イラは乗ってきたホバーバイクを降りると、そこから徒歩で山道を登っていった。
標高が高くなるほど、積もった雪が山道を塞いでいる。
イラはわずかなエレメンタルを雪に反応させ道をつくっていった。
しばらくすると、雪の積もってない小さな広場が現れた。
その広場の中心には火の宿った“ペコス”が置かれている。
まわりには淡いパープルの色をした“火花”と呼ばれる希少な花が群生しており、“火花”から蜜を採取する“火蜂”と呼ばれる蜂が飛びまわっていた。
イラは広場に設置した“火蜂”の巣箱から巣蜜を採取していく。
この“火花から取れる薄いパープルの蜜は、アルドラマの長い歴史の中で失われてしまったモノのひとつとして知られていた。気候変動により随分前に“火蜂”の養蜂家も廃れてしまい、今や誰も作りだせない味となってしまった。
ペコスのそばにポットをおいて、いつもの“シナモン・ティ”を用意する。
それに、先程採取したばかりの“火花の蜜“をひとさじ入れて飲む。
程よい甘さが口の中で、パチパチと弾ける食感を生む。
それが僅かながらエレメンタルの回復に役に立つ。
元来“火蜂”は、火のエレメンタルを持った種族で、大気中に溶け出した魔力の源”フラクタル”を取り込んで繁殖する。近年このフラクタルを含んだ鉱石の乱獲による減少で様々な問題が起こっている。
イラはフラクタルとエレメンタルがある種の自然サイクルを形成していると考え、この広場にフラクタル鉱石を敷き詰め自身のエレメンタルを媒介として“火花”と“火蜂”を復活させたのだった。
イラは、この蜜をいつかエルデネの名産として世に出せたらと、ささやかな夢を持っていた。
「もしかしたら当分ここへは来れないかも知れないな・・・」
そんなことを思いながら、飛び交う”火蜂”を見つめていた。
―・―・―・―・―・―・―・―・―
霧雨は、すっかり本降りの雨となっていた。
魔王城の手前に一台のピンクのオールドカーが停まっている。
シートを倒し、新聞を顔に被せて寝ているDD。
長い獣耳が足音のする方へと反応する。
車の横に立ち止まり、窓の隙間から声をかける一人の女性
「お久しぶりですね、DD」
「やぁメリス」
「ふふ、あなたはまったく変わりませんね」
「はい、今日は元部下の成長っぷりをみさせていただきますよ」
「あら、現部下の仕事っぷりは大丈夫なんですか?」
古めかしい懐中時計にちらっと目をやるDD
「はい、まだ夢の中でしょう」
その頃・・・
アンは完全に夢の中であった。
どこまでも続く平原は、“畜産”と“農業”を中心とした経済を有している。
そのエルデネを統治する”魔王イラ”
七魔王の中で、七番目の魔王として生まれた彼の“エレメンタル”は”火”
街は、
冬の到来とともにはじまる “感謝祭”の準備で賑わいをみせていたのだが・・・。
感謝祭の時期になると発生する”蝗害”に頭を抱えていた。
“デスホッパー”と呼ばれる子豚ほどもある大きさのバッタが群れをなし、繁殖と変異を繰り返しながら大陸を南北へ縦断し、通り道の農作物や家畜を食いつくす。
“蝗害“の終着地でもある”エルデネ”では特に被害が大きく、経済に大きな影響を与えている。魔王イラのエレメンタルによって作られた”炎壁”は”蝗害”を防ぐために重要な防護壁の役割を果たすものであった・・・。
―・―・―・―・―・―
炎壁消失から数時間後の事故現場・・・
魔王イラの執務室に炎壁守備隊の隊長ロキがやってきた。
「失礼します、同乗していた親子や運転手の命に別状はありません。運転手の“石化”も治療すれば元に戻ります。石化の原因は出発前にターミナルで食べた生焼けのコカトリスだそうです」
少し安堵の表情をイラが見せる。
「そうか、”炎壁”が消えたことはなにかわかったか?」
「現在も調査中です」
焼け焦げたバスを見つめ、魔王イラに不安がよぎる。
“蝗害”に備え、再度この広大な場所に”炎壁”を創り出さねばならないのだ。魔力を帯びた炎を生み出すには、”魔王のエレメンタル”を大量に消費する。
デスホッパーは、群れに先遣隊を作り出し餌の在処を仲間に伝える性質をもっている。そのため、”炎壁”を本隊がくる何日も前に創り出しておく必要があった。
「イラ様、報告では数日後には”蝗害”が・・・」
「時間がないな・・・」
「炎壁守備隊で少しでも被害範囲を減らすように、隊の配置を行います」
「わかった、オレも残ったエレメンタルで少しでも数を減らそう」
「いけませんイラ様!もう選挙ではないですか」
「ここは我々で対策をたてます。今夜はお戻りになってください」
ロキは炎壁守備隊を率いてその場を離れた。
「こんな時に・・・」
イラは悔しさを顔ににじませた。
―・―・―・―・―・―・―・―・―
エルデネの繁華街から少し離れた場所にある静かなBAR。
カウンター席しかなく、年季の入った調度品には品を感じる。
店内には、ラジオの音が小さく流れている。カウンターではメリスがエルデネの地ビール“グリエモート”のはいったグラスにむかって独り言をつぶやいていた。
「なんで私、ヌードルなんか奢っちゃったんだろ・・・?」
ラジオからは、曲が終わりMBCの人気番組『ミーナ&ナーミの天下取りマス!!』が流れ、総選挙の予想を語りだした。メリスは耳を傾ける。
「深夜もどっぷりですが、アルドラマ中が大注目の七魔王の総選挙!ミーナの予想を聞かせてちょうだい!」
「おそらく大方の予想はファシルス様なのな~アルドラマの宰相だし~」
「じゃあ、ミーナもファシルス様有利と?!」
「と・こ・ろ・が!シャンゼデルタのプライム様は対抗馬としては申し分ないのな!間違えなく!アルドラマ1のリッチマンだもんで~」
「ほほぉ、リッチっていうのであればルクスリア様も負けてないですよ!」
「たしかに財閥クラスで情報が非公開ときてるのな。まさにダークホース!」
「ウチらの故郷カンタローザはどうなの?」
「あぁベルチ様ね、ないのな」
「うわぁ!冷たい!」
「ルネリアのルサルカ様もまずは自国の支持を得るところからなのな~」
「ははは、ベルチ様、ルサルカ様ときたらエルデネのイラ様はどう?」
「イラ様なんて、ここ数年の自然災害で選挙どころじゃないのな?」
「それで?本命は!?」
「断然!リロイ様!まじでかわいい!弟に欲しい!」
「完全にあんたの趣味やないか!えー、以上ミーナ&ナーミの七魔王の総選挙予想でした!」
グリエモートを一気に飲み干すメリス。
不機嫌な様子を察してか、店主が静かな音楽番組に切り替える。
「おかわり!」
目の前に新しいグリエモートが置かれる。
「イラ様が勝つにきまってるじゃない・・・」
また、一気に飲み干すメリス。
「・・・。イラ様なにしてるかな?」
酔いまかせでイラに連絡するメリス。
“メリス、どうした?こんな時間に、なにかあったのか?”
「イラ様こそ、こんな時間までなぜ起きてるんですか?寝てください!」
“え?そっ・・”
ぶっつり切ってしまうメリス。
途端に後悔が襲ってくる・・・。
それに今日帰り際にみたイラの笑顔の正体が気になって仕方ない。
首都からイラの元にやって来て早数年、なにも進展してない自分の意気地のなさに今夜はほとほと嫌気がさしてきた。
「もう少し飲むか・・・」
―・―・―・―・―・―・―・―・―
明方から降り出した霧雨は、エルデネにあるマスラ山脈に冷やされ
冷たい氷の結晶となり肌を刺す。まだ薄暗い早朝の山脈の麓。魔王イラは乗ってきたホバーバイクを降りると、そこから徒歩で山道を登っていった。
標高が高くなるほど、積もった雪が山道を塞いでいる。
イラはわずかなエレメンタルを雪に反応させ道をつくっていった。
しばらくすると、雪の積もってない小さな広場が現れた。
その広場の中心には火の宿った“ペコス”が置かれている。
まわりには淡いパープルの色をした“火花”と呼ばれる希少な花が群生しており、“火花”から蜜を採取する“火蜂”と呼ばれる蜂が飛びまわっていた。
イラは広場に設置した“火蜂”の巣箱から巣蜜を採取していく。
この“火花から取れる薄いパープルの蜜は、アルドラマの長い歴史の中で失われてしまったモノのひとつとして知られていた。気候変動により随分前に“火蜂”の養蜂家も廃れてしまい、今や誰も作りだせない味となってしまった。
ペコスのそばにポットをおいて、いつもの“シナモン・ティ”を用意する。
それに、先程採取したばかりの“火花の蜜“をひとさじ入れて飲む。
程よい甘さが口の中で、パチパチと弾ける食感を生む。
それが僅かながらエレメンタルの回復に役に立つ。
元来“火蜂”は、火のエレメンタルを持った種族で、大気中に溶け出した魔力の源”フラクタル”を取り込んで繁殖する。近年このフラクタルを含んだ鉱石の乱獲による減少で様々な問題が起こっている。
イラはフラクタルとエレメンタルがある種の自然サイクルを形成していると考え、この広場にフラクタル鉱石を敷き詰め自身のエレメンタルを媒介として“火花”と“火蜂”を復活させたのだった。
イラは、この蜜をいつかエルデネの名産として世に出せたらと、ささやかな夢を持っていた。
「もしかしたら当分ここへは来れないかも知れないな・・・」
そんなことを思いながら、飛び交う”火蜂”を見つめていた。
―・―・―・―・―・―・―・―・―
霧雨は、すっかり本降りの雨となっていた。
魔王城の手前に一台のピンクのオールドカーが停まっている。
シートを倒し、新聞を顔に被せて寝ているDD。
長い獣耳が足音のする方へと反応する。
車の横に立ち止まり、窓の隙間から声をかける一人の女性
「お久しぶりですね、DD」
「やぁメリス」
「ふふ、あなたはまったく変わりませんね」
「はい、今日は元部下の成長っぷりをみさせていただきますよ」
「あら、現部下の仕事っぷりは大丈夫なんですか?」
古めかしい懐中時計にちらっと目をやるDD
「はい、まだ夢の中でしょう」
その頃・・・
アンは完全に夢の中であった。
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