84 / 110
第三章:イザンカ王国
3-15:プロトタイプ始動
しおりを挟むエナリアの何気ない一言でとりあえず人とは違う間接構造で対処した新型「鋼鉄の鎧騎士」がロールアウトした。
「で、できましたわ!」
「やったね、ミリアリア姉さん!!」
思わずハイタッチをしてしまう私たち。
内骨格に動力となる魔晶石を二重間接または多重関節にして作り上げられたこれは、余裕のある場所にも補助の魔晶石を埋め込み、従来の外骨格型に比べてかなりスリムに見える。
しかしその重量自体はほとんど変わらず、むしろこっちの方がやや重いほどだ。
それ程コンパクトかつスペース的に密集した造りとなっている。
「それでは、この連結型魔晶石核を設置いたしますわね」
ミリアリア姉さんはそう言って台座に座っている新型の「鋼鉄の鎧騎士」の操縦席のシートをどかす。
そしてその後ろのスペースにある連結型魔晶石核を取り付ける所へそれを収める。
「ふぅ、これで良いですわ。アルム起動用の魔力注入をですわ」
「うん、じゃあちょっとどいてね」
操縦席にミリアリア姉さんと入れ替わりに私が入ってシートに座る。
基本「鋼鉄の鎧騎士」の操縦方法は各国同じだ。
搭乗者の魔力を「鋼鉄の鎧騎士」に注入して、同期を計り自分がまるで「鋼鉄の鎧騎士」と一体化したかのような感じで操作する。
なので、体をフルプレートアーマーのような拘束具が包み、口元の空いたヘルメットが下がって来て、目の前に「鋼鉄の鎧騎士」が見たものが自分の網膜にも映し出される。
聴覚、視覚、触覚等々、必要最低限の感覚がつながり、まるで自分が巨人になったような感覚で操作をしてゆく。
うちのばあい、それ以外は音声入力で出来るので例えば視覚強化して望遠とか、闇夜でもある程度夜目が効くようにとかもできる。
さてさて、そんな「鋼鉄の鎧騎士」だけど、初起動には外部からの多めの魔力注入が必要となる。
ほとんどの鋼鉄の鎧騎士が魔晶石核と言う動力源を保有しているが、これはいわば魔力増幅器。
なので魔力が多く訓練された操縦者で無ければ「鋼鉄の鎧騎士」は扱えない。
そしてイータルモアがもたらした連結型魔晶石核。
こいつがすごいのは、魔晶石核が同じサイズに何個も封印されている物だと言う。
つまり、投入魔力が多ければ多いいほど内部に含まれる魔晶石核が連動して動きだし、破格のパワーを引き出すわけだ。
「んじゃ、行ってみようか!」
私はそう言って拘束具が装着されたのを確認して魔力を放出する。
するとシートに後ろの連結型魔晶石核が反応して魔力がどんどん吸われてゆく。
確かに、レッドゲイルで試した時の比ではない程魔力が吸われてゆく。
それと同時に、同期し始めた網膜にこの新型「鋼鉄の鎧騎士」の素体が見ている風景が映し出される。
ちなみに、「鋼鉄の鎧騎士」はどれもこれも主眼と複眼の三つ目構成になっている。
頭も形状がちょっと前後に細長くなっているのが、どの「鋼鉄の鎧騎士」も同じだ。
なので実際に網膜に映し出される風景は人の目より視覚が広くなるので最初は戸惑う。
「んっ、順調順調♪」
動き出した一号機のプロトタイプは、同時に作成されたに二号機、三号機と基本は同じだけどいろいろとテストベースにする為に内骨格の一部が外されたままだった。
とは言え、素体状態でも最低限の動きは出来るので、最終的には改修して他の機体と同じにするつもりだ。
「ふーん、凄いですぅ。連結型魔晶石核がいい具合に動いているですぅ」
「これが新型か、だいぶ華奢に見えるが?」
「大丈夫ですわ、アマディアス兄様。理論上はうちの元の機体の五倍以上の力が出る事になりますわ」
見学に来ているイータルモアやアマディアス兄さんにミリアリア姉さんは説明をしている。
「アルム君頑張ってください!」
「お兄様、頑張って!」
「ちっ、まぁ『鋼鉄の鎧騎士』作成は仕方ないけどこれが終わったらアルムは私と一緒に居なさいよね!!」
あ、なんかうちの姉妹も見に来てた。
うーん、この新型の頭部ユニットはずいぶんと優秀だな。
多分最後のエシュリナーゼ姉さんのつぶやきなんかはかなり小さな声だったはず。
それを意識したら聞き取れるのだから。
「くーっくっくっくっくっくっ、素晴らしい! 流石我が主。憎っくき『鋼鉄の鎧騎士』ではありますが、我が主が乗り込めば魔人をも凌駕するそのお力が具現化したかのようです! ああぁ、素晴らしい!!」
「うーん、なんかこれすごい力を秘めていそうニャ。ホリゾンのやつよりずっと強そうニャ……」
「アルム様、扉を開きます!!」
大体の感覚がつながり、私は「鋼鉄の鎧騎士」を立ち上がらせる。
そしてマリーたちが工房の扉を開き、中庭へと向かう。
さて。
『それじゃぁ、試しに動いてみるからみんな下がっていてね』
そう言って私は中庭で基本動作を始める。
駆動する関節が交互に動いて魔晶石の負荷を軽減しながら動作をする。
すると思いのほか体の動きがスムーズに感じた。
「人体とは違う関節機構だけど、動き自体の感覚はそれ程変わらないな。よし!」
何度か準備運動ではないけど、基本動作を試した後に私は通常の踏み込みをして見る。
だんっ!
びゅうっ!!
「何っ!?」
「ほえー、早いですぅ!」
軽く踏み込みをして見ると、たったの一歩で四十メートル近くの移動が出来てしまった。
アマディアス兄さんとイータルモアの驚きの声が聞こえる。
「想定以上ですわね!」
ミリアリア姉さんもそんな事を言っている。
しかしこれは単純にこの新型の基本能力となる。
「これって…… じゃあ次は魔力を大目に注ぎ込んで!」
そう言って私は魔力を大目に注ぎ込み、踏み込みをして見る。
どんっ!
ビュびゅっ!!
「とっ、危ない、もう城壁だ」
私は慌てて急ブレーキをかける。
魔力を大目に連結型魔晶石核に流し込み、たった一歩の踏み込みをしたら城壁近くまで来てしまい、慌てて急ブレーキをかけるほどだった。
多分、六、七十メートルは移動しただろう。
振り返ってみると遠くに皆がいた。
しかし頭部ユニットが優秀なおかげでちっちゃくなった姿も声もちゃんと聞こえる。
「凄いですぅ! 連結型魔晶石核が使いこなされているですぅ!!」
「これほどまでとは……」
「やりましたわ!」
「え、なになに? あれアルム君がしたの!?」
「お兄様凄いです!!」
「えー?」
なんかみんな口々に言ってるな。
私は「鋼鉄の鎧騎士」を操作してみんなの元へ戻ってゆく。
そして加重テストや打撃テスト、盾を持った強度テスト等々いろいろとこなしてゆく。
「これで最後ですわ!」
ミリアリア姉さんの指示する最後のテストを終えて、各座して操縦席を開き私は降りる。
「ふ~、なんか自分の体に戻って感覚がおかしいね~」
「アルム大成功ですわ!!」
そんな私にミリアリア姉さんは抱き着いてくる。
「「「あ”-ッ!!!!」」」
喜び抱き着くミリアリア姉さんに他の姉妹も声をあげて私を引っ張りはがす。
「ミリアリア! アルムは私のっ!!」
「アルム君!」
「お兄様っ!!」
女たちにもみくちゃにされる私をしり目にアマディアス兄さんは不敵な笑みをする。
「ここまでとはな…… これで勝てる!」
などと意味深な言葉を言いながら拳を握っていたのだった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話
カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます!
お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あらすじ
学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。
ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。
そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。
混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?
これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。
※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。
割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて!
♡つきの話は性描写ありです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です!
どんどん送ってください!
逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。
受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか)
作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる