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第三章:イザンカ王国

3-15:プロトタイプ始動

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 エナリアの何気ない一言でとりあえず人とは違う間接構造で対処した新型「鋼鉄の鎧騎士」がロールアウトした。



「で、できましたわ!」

「やったね、ミリアリア姉さん!!」

 思わずハイタッチをしてしまう私たち。
 内骨格に動力となる魔晶石を二重間接または多重関節にして作り上げられたこれは、余裕のある場所にも補助の魔晶石を埋め込み、従来の外骨格型に比べてかなりスリムに見える。
 しかしその重量自体はほとんど変わらず、むしろこっちの方がやや重いほどだ。

 それ程コンパクトかつスペース的に密集した造りとなっている。


「それでは、この連結型魔晶石核を設置いたしますわね」


 ミリアリア姉さんはそう言って台座に座っている新型の「鋼鉄の鎧騎士」の操縦席のシートをどかす。
 そしてその後ろのスペースにある連結型魔晶石核を取り付ける所へそれを収める。


「ふぅ、これで良いですわ。アルム起動用の魔力注入をですわ」

「うん、じゃあちょっとどいてね」


 操縦席にミリアリア姉さんと入れ替わりに私が入ってシートに座る。

 基本「鋼鉄の鎧騎士」の操縦方法は各国同じだ。
 搭乗者の魔力を「鋼鉄の鎧騎士」に注入して、同期を計り自分がまるで「鋼鉄の鎧騎士」と一体化したかのような感じで操作する。
 なので、体をフルプレートアーマーのような拘束具が包み、口元の空いたヘルメットが下がって来て、目の前に「鋼鉄の鎧騎士」が見たものが自分の網膜にも映し出される。
 聴覚、視覚、触覚等々、必要最低限の感覚がつながり、まるで自分が巨人になったような感覚で操作をしてゆく。

 うちのばあい、それ以外は音声入力で出来るので例えば視覚強化して望遠とか、闇夜でもある程度夜目が効くようにとかもできる。

 さてさて、そんな「鋼鉄の鎧騎士」だけど、初起動には外部からの多めの魔力注入が必要となる。
 ほとんどの鋼鉄の鎧騎士が魔晶石核と言う動力源を保有しているが、これはいわば魔力増幅器。
 なので魔力が多く訓練された操縦者で無ければ「鋼鉄の鎧騎士」は扱えない。

 そしてイータルモアがもたらした連結型魔晶石核。

 こいつがすごいのは、魔晶石核が同じサイズに何個も封印されている物だと言う。
 つまり、投入魔力が多ければ多いいほど内部に含まれる魔晶石核が連動して動きだし、破格のパワーを引き出すわけだ。


「んじゃ、行ってみようか!」


 私はそう言って拘束具が装着されたのを確認して魔力を放出する。
 するとシートに後ろの連結型魔晶石核が反応して魔力がどんどん吸われてゆく。
 確かに、レッドゲイルで試した時の比ではない程魔力が吸われてゆく。
 それと同時に、同期し始めた網膜にこの新型「鋼鉄の鎧騎士」の素体が見ている風景が映し出される。

 ちなみに、「鋼鉄の鎧騎士」はどれもこれも主眼と複眼の三つ目構成になっている。
 頭も形状がちょっと前後に細長くなっているのが、どの「鋼鉄の鎧騎士」も同じだ。
 なので実際に網膜に映し出される風景は人の目より視覚が広くなるので最初は戸惑う。

「んっ、順調順調♪」

 動き出した一号機のプロトタイプは、同時に作成されたに二号機、三号機と基本は同じだけどいろいろとテストベースにする為に内骨格の一部が外されたままだった。
 とは言え、素体状態でも最低限の動きは出来るので、最終的には改修して他の機体と同じにするつもりだ。


「ふーん、凄いですぅ。連結型魔晶石核がいい具合に動いているですぅ」

「これが新型か、だいぶ華奢に見えるが?」

「大丈夫ですわ、アマディアス兄様。理論上はうちの元の機体の五倍以上の力が出る事になりますわ」

 見学に来ているイータルモアやアマディアス兄さんにミリアリア姉さんは説明をしている。


「アルム君頑張ってください!」

「お兄様、頑張って!」

「ちっ、まぁ『鋼鉄の鎧騎士』作成は仕方ないけどこれが終わったらアルムは私と一緒に居なさいよね!!」


 あ、なんかうちの姉妹も見に来てた。
 
 うーん、この新型の頭部ユニットはずいぶんと優秀だな。
 多分最後のエシュリナーゼ姉さんのつぶやきなんかはかなり小さな声だったはず。
 それを意識したら聞き取れるのだから。


「くーっくっくっくっくっくっ、素晴らしい! 流石我が主。憎っくき『鋼鉄の鎧騎士』ではありますが、我が主が乗り込めば魔人をも凌駕するそのお力が具現化したかのようです! ああぁ、素晴らしい!!」

「うーん、なんかこれすごい力を秘めていそうニャ。ホリゾンのやつよりずっと強そうニャ……」


「アルム様、扉を開きます!!」


 大体の感覚がつながり、私は「鋼鉄の鎧騎士」を立ち上がらせる。
 そしてマリーたちが工房の扉を開き、中庭へと向かう。

 さて。


『それじゃぁ、試しに動いてみるからみんな下がっていてね』


 そう言って私は中庭で基本動作を始める。
 駆動する関節が交互に動いて魔晶石の負荷を軽減しながら動作をする。
 すると思いのほか体の動きがスムーズに感じた。

「人体とは違う関節機構だけど、動き自体の感覚はそれ程変わらないな。よし!」

 何度か準備運動ではないけど、基本動作を試した後に私は通常の踏み込みをして見る。


 だんっ!

 びゅうっ!!
 

「何っ!?」

「ほえー、早いですぅ!」


 軽く踏み込みをして見ると、たったの一歩で四十メートル近くの移動が出来てしまった。
 アマディアス兄さんとイータルモアの驚きの声が聞こえる。

「想定以上ですわね!」

 ミリアリア姉さんもそんな事を言っている。
 しかしこれは単純にこの新型の基本能力となる。

「これって…… じゃあ次は魔力を大目に注ぎ込んで!」

 そう言って私は魔力を大目に注ぎ込み、踏み込みをして見る。


 どんっ!

 ビュびゅっ!!


「とっ、危ない、もう城壁だ」


 私は慌てて急ブレーキをかける。
 魔力を大目に連結型魔晶石核に流し込み、たった一歩の踏み込みをしたら城壁近くまで来てしまい、慌てて急ブレーキをかけるほどだった。
 多分、六、七十メートルは移動しただろう。 

 振り返ってみると遠くに皆がいた。
 しかし頭部ユニットが優秀なおかげでちっちゃくなった姿も声もちゃんと聞こえる。


「凄いですぅ! 連結型魔晶石核が使いこなされているですぅ!!」

「これほどまでとは……」

「やりましたわ!」

「え、なになに? あれアルム君がしたの!?」

「お兄様凄いです!!」

「えー?」


 なんかみんな口々に言ってるな。
 
 私は「鋼鉄の鎧騎士」を操作してみんなの元へ戻ってゆく。
 そして加重テストや打撃テスト、盾を持った強度テスト等々いろいろとこなしてゆく。



「これで最後ですわ!」


 ミリアリア姉さんの指示する最後のテストを終えて、各座して操縦席を開き私は降りる。


「ふ~、なんか自分の体に戻って感覚がおかしいね~」

「アルム大成功ですわ!!」


 そんな私にミリアリア姉さんは抱き着いてくる。


「「「あ”-ッ!!!!」」」


 喜び抱き着くミリアリア姉さんに他の姉妹も声をあげて私を引っ張りはがす。


「ミリアリア! アルムは私のっ!!」

「アルム君!」

「お兄様っ!!」


 女たちにもみくちゃにされる私をしり目にアマディアス兄さんは不敵な笑みをする。

「ここまでとはな…… これで勝てる!」



 などと意味深な言葉を言いながら拳を握っていたのだった。   

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