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第三章:イザンカ王国

3-5:姉妹たち

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「アルムっ!! どう言う事? ミリアリアとレッドゲイルに行くって!?」


 部屋で着替えているとエシュリナーゼ姉さんが扉を蹴破って入って来た。

 
「そうです、アルム君! 私と言う姉がいながら一体どう言う事なんです!?」

「お兄様! 私をお嫁さんにしてくれるはずじゃなかったのですか!?」


 いや、アプリリア姉さんや妹のエナリアもやって来ていた。
 私はマリーに服を着させられてから姉妹に振り向いて言う。


「いや、レッドゲイルには工房で魔力炉を使わせてもらって魔鉱石の精製をね」


「そっちじゃないわよ!」

「そうです! 聞きましたよミリアリア姉さんとの事!!」

「お兄様、どう言う事かちゃんと言ってください!!」

  
 三人とも同時に叫ぶように言う。
 いや、目的は魔鉱石の精製で……

 ん?
 ミリアリア姉さん??

 えーと……


「ミリアリア姉さんがレッドゲイルに戻るとマルクス叔父さんに無理矢理お見合いさせられて困ってしまうって話?」


「それもあるけど、その後よ!」

「そうです、ミリアリア姉さんと婚約するってどういうことですか!?」

「お兄様のばかぁッ! 私、お兄様のお嫁さんいなるのずっと夢見てたって言うのにっ!!」


「……はいっ?」


 私とミリアリア姉さんが婚約?
 何それ??

 何時そんな事が決まった?
 いや、そもそもミリアリア姉さんはブルーゲイルに好きな人がいて、その人との恋を成熟させるために時間が必要だから、マルクス叔父さんのお見合いを回避するために……


「ああぁ、そう言う事か。それ誰から聞いたの??」


「「「ミリアリア(姉さん)から(よ)(です)!!」」」


 私の質問に三人同時に答えて来る。
 いやいやいや、ミリアリア姉さんもちゃんと説明しなきゃダメだろうに。

「あのねぇ、ミリリア姉さんはこのブルーゲイルに好きな人がいるんだよ? だからマルクス叔父さんのお見合いの話を阻止するために僕が一肌脱いだんだよ?」


「なっ!? もうミリアリアと一肌脱ぐような関係に!?」

「そんな、アルム君が汚されてしまったのですか!?」

「お、お兄様ぁっ!!」


 ちょっと待とうか君たち。
 なぜ急にそうなる?
 私はまだしっかりチェリーボーイですけど?
 確かにマリーに何度か襲われそうになったけど、ちゃんとアビスも使って逃げ出して清らかな身体なんですけど!!


「なんでそうなるの!? 僕はミリアリア姉さんと何も無いよ!?」


「嘘っ! じゃあなんでミリアリアとレッドゲイルに行くのよ!?」

「そうです! そりゃぁアルム君がすごくて『鋼鉄の鎧騎士』を制作するためにミリアリア姉さんと一緒に開発しているのは知ってますけど、ミリアリア姉さんにアルム君を開発されるのは許せません!」

「お兄様、開発するなら私を開発してください!!」


 あー、もう。
 なんか面倒になって来た。
 この人たち全然人の言う事を聞くつもりが無い。

 私は大きく溜め息をついてから言う。


「とにかく! 今回はミリアリア姉さんと将来を考えているって事にして話しをするだけで、マルクス叔父さんにはミリアリア姉さんに無茶なお見合いさせないようにさせるのが目的なんだから。そんな婚約とか言う話じゃないよ。ミリアリア姉さんがそう言っているのは、マルクス叔父さんに変に勘繰られないようにしてるだけだからね!」


 私が一気にそうまくしたてると、エシュリナーゼ姉さんもアプリリア姉さんもエミリアもじっと私を見てしばし黙り込む。


「つまり、ミリアリアは私たちにウソの情報を流してわざと信ぴょう性を高め、マルクス叔父さんを騙すつもりって事?」

「アルム君は本当に婚約とかするつもりはないのですね?」

「お兄様、じゃぁミリアリア姉さんと結婚するつもりは……」


「とにかく、みんながそうやって騒いでいるのがレッドゲイルにまで伝われば、マルクス叔父さんもミリアリア姉さんに無茶なお見合いはさせないだろうって事だよ」

 私がそう言うと、やっとみんなはお互いに顔を見合わせてから静かになる。


「じゃ、じゃぁミリアリアとは本当に何も無いのよね?」

「アルム君が開発されている事は無いのですね?」

「お兄様、本当なんですね?」


 静かにはなったけど、それでもしつこく聞いてくる三人。
 が、ここでマリーが余計な事を言う。


「大丈夫です。まだアルム様はパンツがガビガビになっていないのでそう言う事は出来ません。それに毎晩私がしっかりと警護してますので、アルム様は自室でちゃんとお休みになられてます。もし仮にそう言う事がしたくなったら即座に私がお相手させていただきますので大丈夫です」


 おいこらそこのメイド!
 なに個人情報でしかも恥ずかしい事言いながら、さらっととんでもない事を言い出す!?


「アルムっ! やっぱりマリーにも手をだしていたのね!!」

「アルム君! 初めてはお姉ちゃんが相手してあげるってあれだけ言っているのに!!」

「お、お兄様が経験積んで私を迎えてくれるなら、私は我慢しますけど……」




「だぁ~かぁ~らぁ~っ!!」




 部屋で私の叫ぶ声がこだまするのだった。


 * * * * * 


「ミリアリア姉さん、なにエシュリナーゼ姉さんたちに変な事吹き込んでいるんだよ。僕とミリアリア姉さんが婚約とか!」

「あら、別にいいではありませんの? お父様もそこまで話を聞けばまず大人しくなりますわ♪」

 
 明日、レッドゲイルに出発する前に私とミリアリア姉さんは開発室で話をしていた。

 目的の魔鉱石は既に馬車に積んである。
 そしてエマニエルさんの所に行って再充填した魔晶石もたくさん準備出来た。
 まぁ、私が直接行っている間は私が魔力供給するつもりなので魔晶石はその後の為なんだけどね。


「でも、これでイザンカ王国の悲願であるオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』もそれ相応になりますわね」

「それはそうなんだけどさ…… イータルモアが持って来た二十体分を全て使うにはだいぶ時間がかかるけどね」

 現在イザンカ王国は全部でニ十体の「鋼鉄の鎧騎士」を保有している。
 そのほかにも、傭兵部隊の中古がメインの「鋼鉄の鎧騎士部隊」に五体。
 合計で最大二十五体が国防を担っている。

 とは言え、傭兵部隊は主に街の周辺に出る大型の魔物相手がメインだし、ここ百年近く「鋼鉄の鎧騎士」を使った戦争は起こっていない。
 模擬戦で訓練はしているものの、入れ替えには時間的余裕はあるだろう。


「僕が壊したオリジナルの中の素体、何とか動いている様だけどあれから入れ替えだよね?」

「そうですわね。いざと言う時にあのオリジナルが動けないのは大問題になってしまいますから…… 今までのように『鋼鉄の鎧騎士祭』でお飾りで動くだけではいけませんもの」

 そう言ってミリアリア姉さんは部屋の小窓から外の倉庫の台座に座っている「鋼鉄の鎧騎士」を見上げる。  


「イザーガ兄さんの情報が間違いであればいいのですが……」

「ん? イザーガ兄さんから何か有ったの?」

「いえ、これはまだ確定では無いのですわ。ただ、ドドスの動きが怪しくなってきているのでいち早くオリジナルだけでも新型の素体に代えたい所ですわね……」


 そう言えば、アマディアス兄さんもそんな事言っていたっけ?

 ドドス共和国。

 イザンカ王国とも浅からぬ因縁がある国。
 国としてのまとまりは弱いとされているも、歴史上あまり友好的にはなっていない。
 あちらの国が軍備増強ともなればどこだって身構えるだろう……


「そう言えば、シューバッドにガレント王国から話が来ているそうですわね? 確か公爵家の娘がこちらに嫁入りの打診だとかで、ですわ」

「えっ? シューバッド兄さんに!!!?」


 なんだと?
 私のシューバッド兄さんにそんな話がっ!?


「先にエシュリナーゼ姉さんに話が来るべきなんじゃないの!?」

「あら、エシュリナーゼ姉さんはあなたと一緒になる事を伯父様に提言していて、いろいろな国からのお話をすべて断っているじゃありませんの?」

 いやいやいや!
 本気かあの姉!?
 マジで十歳も年下の私を狙っていたのかぁッ!?

「ですから余計に私にそう言った話がまわって来るのですわ。まったく、王家なのだから自分の責務位果たしていただきたいですわ!」

 そう憤慨するミリアリア姉さん。
 しかし私を見るとにっこりとほほ笑む。


「でもアルムのお陰でそんな気持ちも吹き飛んでしまいましたわ! 私、今とても嬉しい気持ちでいっぱいですわ!」

「それは良かったですねぇー」


 思わず棒読みでそう返してしまったが、まぁミリアリア姉さんのがその好きな人とうまくいきますように。

 

 今回矢面に出る私としてはそう願うのだった。

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