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第二章:ジマの国

2-32:アルム搭乗

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「アルム、なにするつもりだよ?」

「いや前々から気になっていたんだけど、うちの『鋼鉄の鎧騎士』ってパワー不足って言ってたよね? それにイータルモアが連結型の魔晶石核を持って来るとか言ってたよね? でもそんなうちの機体にハイパワーの動力源載せられるのかなって思ってね」


 エイジの質問にそう答えながら私はミリア司祭に聞いてみる。
 するとミリア司祭はにっこりと笑ってう。

「アルムエイド様は英雄に憧れますか? イザンカ王国の男児たるもの、そうでなくては。いいでしょう、特別に操縦席へご案内いたしましょう」

 なんかすんなりと許可が下りた。
 するとエイジが不服そうに言う。

「なんだよミリア司祭、俺が乗せてくれって言ってもだめだって言うくせに!」

「エイジ様は少しアルムエイド様を見習った方がいいでしょう。エイジ様も王族の血を引く者。将来このままではいけませんよ?」

 一体エイジはその昔内をやらかしたんだろうか?
 悔しがるエイジだったけど、とりあえず私はわくわくしながらミリア司祭にくっ付いて行って、座っているオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」の胸元まで階段を上ってゆく。
 そこはちょっとした足場になっていて、可動式の足場はオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」のお腹の辺まで伸びていた。


「こちらです」

 そう言ってミリア司祭は私たちを呼んで「鋼鉄の鎧騎士」のお腹の辺で何やら操作をすると、胸とお腹が開いて中が見える。
 そこは人が半立ちで座れる椅子があって、なにやらごちゃごちゃと鎧みたいなものがぶら下がっていた。


「それではアルムエイド様、そこに腰かけて両の手足を水晶に……とはいっても、
届きませんね。でもまぁ、固定具は付けられるでしょう。動かずそのままでいてください」

 そう言ってミリア司祭は私を椅子に座らせ、何やら操作をすると中にあった鎧みたいのが私の体にまとわりついて来た!


「うわっ!」


「大丈夫です、動かずにそのままでいてくださいね」

 驚く私にミリア司祭はそう言うも、最後に口元が開いた目元まで隠すような兜が下りてきて私の頭に装着される。

 既に胴体は上から降りて来た胸部を固定する鎧みたいので押さえつけられているので、ほとんど身動きが出来ない。
 そして降りて来た兜が目元まで覆いかぶさると、魔力が吸われる感覚がある。


「これって……」


 私は魔力を吸われるままにしていると、目元までを覆っていた兜の裏側に、いや厳密には網膜に何か映像が映り始める。

 それはかなり高い位置からの映像。

 不思議なそれを見て意識を集中して周りを見渡す。
 すると、まるで自分が大きくなって周りを見渡すような映像に代わる。


「な、なんか変なのが見える? って、あれ? これみんな? シューバッド兄さんやアプリリア姉さんが何かを覗き込んでいる??」

「え? シューバッド、アプリリア少し下がって!」

 エシュリナーゼ姉さんはそう言いながら自分も下がったようだ。
 すると、シューバッド兄さんやアプリリア姉さんが私の見ている画像の中で下がって、エシュリナーゼ姉さんが出て来た。

 と言う事はこれって……


「凄い! 今僕と『鋼鉄の鎧騎士』が見ている物が同じになっているんだ!!」

「そう言う事です。『鋼鉄の鎧騎士』の操縦は自身がそれと一体になる様なものです。残念ながらアルムエイド様はまだお身体が小さく、手足が水晶にまで届いておらぬので全身操作が出来ませんが、頭部ユニットは装着できているので視界や聴覚などは一体化が出来ますね」

 兜をかぶっているので、ミリア司祭は見えないけど、近くで彼女の声は聞こえる。
 そうか、「鋼鉄の鎧騎士」の操作方法は同化しての直接操作だったんだ。

 いや、正直技術者のはしくれとしてはどんなシステムだったのか非常に興味深かったんだよねぇ~。
 なにせ中古の解析をして独自開発したうちの「鋼鉄の鎧騎士」って、どう考えても劣化コピーだもの。
 その操作システムとか制御システムが真っ当に動いているかどうかだって怪しかったから。
 複雑手順や操作でなく、直感で動かせると言うのは便利ではあると思う。


「あ、でもそれ以外の操作ってどうやっているのですか?」

「基本的には音声入力が出来ますね。他国の者はもう少し違うようですが」


 私の質問にミリア司祭はそう言って答えてくれる。
 なるほど、その辺が他国とは違うのか。
 なんか必殺技を叫ぶヒーローロボットみたいになるのかな?


「それじゃぁちょっと試したいんですが、僕って魔力量が多いんですよ。この『鋼鉄の鎧騎士』が受けられるだけの魔力を流していていいですか?」

「ええ、いいでしょう。但し魔力切れを起こさないように注意してくださいね」

 ミリア司祭の少し笑い声の混じった回答が聞こえて来る。
 そう言えばミリア司祭って私の膨大な魔力量って知っているのかな?

 でも一応許可はもらったんだから気になっている事をやってみよう!

 私は一息入れてから集中して言葉に出しながら魔力を放出する。


「行きます! 魔力放出!!」

 
 ぶあっ!!


 私は押さえるよう注意を払っていた魔力を開放する。
 途端に漏れ出ている魔力が「鋼鉄の鎧騎士」に吸い取られるけど、まだ大丈夫のようだ。
 なので更に魔力を放出する。


 どばぁっ!


 ぐぐぐぐっ!


「キャッ!」

「うわっ!!」

「わっ、うごいたよーっ!」

「な、なんだ!? アルムなにした!?」

「アルム様!!」


「こ、これはっ!?」


 なんか入り口から声がするので「鋼鉄の鎧騎士」の頭を自分のお腹に向けると、左手が動いていた。
 いや、この感覚は左手だけでなく全身を感じ取れる?


「そんな、こんな年端も行かない子供が何という魔力量なのです!?」


 そんな中、ミリア司祭の驚きの声がすぐ近くから聞こえて来る。

 
「アルム様! 『鋼鉄の鎧騎士』を動かさないよう注意してください! 皆様が近くにいて危ないです!!」


 マリーのその声が近くで聞こえて来た。
 なので私は体を動かさないように注意をしてさらに意識を集中すると……


 あっ!
 これって!!


 背中から吸い取られる魔力の行き先に、何やら魔力を集める所が感じられる。
 それは今にも破裂しそうなくらいパンパンになっているけど、どうやらこれが心臓部のようだ。
 多分これ以上私の魔力を注ぎ込むと壊れそうなんだけど、なんだろうこの感じ??
 そこから四肢に流れる魔力をたどってゆくと、何と言うか自分の体の周りにもの凄く温かい感じがする。
 そこに魔力の触手を伸ばすと、それはどんどん魔力を吸い取り始める。

 それと同時に周りで驚きの声がする。


「『鋼鉄の鎧騎士』が銀色に輝き始めた!?」

「なにっ? どうなっているのアルム!?」

「あ、アルム君!!」

「くーっくっくっくっくっくっ! 素晴らしい、流石我が主!! 今この『鋼鉄の鎧騎士』の外装は本来以上の力を発揮してます!! 嗚呼、何と言う美しい輝き!!」

「ニャッ! にゃんか『鋼鉄の鎧騎士』がニャッ!!」


 何が起こっているのだろう?
 確かに「鋼鉄の鎧騎士」の視界を通して見えてくるのは体がぼんやりと輝き始めている??
 これって、オリジナルの部分が私の魔力で反応している??


「アルム様っ!!」

 
 マリーがそう叫んだ瞬間だった。



 ブッシュ―っ!!!!



 途端に目の前の画像が消えた。
 そして私から魔力を吸っていたそれが止まる。
 と、同時に外でも騒ぎが起こる。


「うわっ! 何この煙!?」

「ごほごほ、蒸し暑い!」

「うわぁ~ん! これいやぁ~」

「皆様! 猫、執事皆様を安全な場所へ!! アルム様っ!!」

「お、おいアルムっ!」

「アルムエイド様! 今すぐ拘束を外します!!」


 みんなが騒ぐ中、ミリア司祭が私を拘束していや鎧みたいなものから引っ張り出す。
 そして急ぎ、「鋼鉄の鎧騎士」から離れ、私とみんなの安全を確認してほっと胸をなでおろす。


「これは想定外でした。まさかアルムエイド様があそこまで魔力量が多いとは。私も初めて見ましたが、オリジナルの外装までもアルムエイド様の魔力に反応するとは…… しかし参りましたね、多分中の素体はアルムエイド様の魔力量に耐えられず、コアが壊れたようです。安全の為の強制冷却装置が稼動したようですね……」

 そう言ってまだ煙を体の節々から吐き出す「鋼鉄の鎧騎士」を見上げる。

 えっと、そうするともしかして私ってこれ壊しちゃった??
 えーっ!?
 国家予算の数年分のやつを!?

「あ、あのもしかしてこれ壊れちゃったとか??」

 恐る恐るそう聞く私にミリア司祭は困ったような笑顔を向けて言う。

「ええ、多分…… しかし、全ては私の責任です。アルムエイド様のせいではありません」

 そう言ってはくれるものの、それはまずい。
 下手したらミリア司祭がお咎めを喰らってしまう。


「あ、あの、その、ぼ、僕……」


「アルム! 壊れたなら直せばいいのよ! 任せなさいこの姉がこんなのパパっと直して見せるわ!!」

「いや、エシュリナーゼ姉さんは『鋼鉄の鎧騎士』専門外じゃないか? アルム、アマディアス兄さんとも相談して腕のいい魔術技巧師を探してもらおうよ」

「あ、アルム君! 私も手伝います!!」

「お兄ちゃん、ごめんなさいするの? じゃあ、あたしも一緒にごめんなさいしてあげる!!」


 私の困惑に姉や兄、そして妹も声を上げる。
 確かにこのままじゃいけない。
 エシュリナーゼ姉さんの言うように直さなきゃ!




「おーっほっほっほっほっほっ! どうやら『鋼鉄の鎧騎士』の事でお困りの様ですわね?」



「うわっ、ミリアリア姉ちゃん!?」

 みんなして私を励ましてくれる中、甲高い笑い声と共に背景に光をまとい、一人の美少女が仁王立ちで口元に手を当てて立っていた。
 それは紛れも無くエイジの姉、ミリアリア姉さんだった。


「ミリアリア! 何の用よ?」

「あら、エシュリナーゼ姉さん、『鋼鉄の鎧騎士』の件でお困りで無くて? 覚えているかしら、私の専攻は『鋼鉄の鎧騎士』の研究と改良ですわよ?」
  
「あっ……」


 エシュリナーゼ姉さんの質問にミリアリア姉さんは見下すように言い放つ。


「アルムエイド、この私に任せなさいですわ! あなたのその膨大な魔力と私の研究を合わせればこのオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』は本物にきっと限りなく近づきますわ!!」

 そう言ってミリアリア姉さんは私に手を差し伸べる。
 私はその手を思わず取ってしまった。

 そう、これが本物のオリジナルに近づく……
 それって技術者にとってもの凄くそそる話だ。




 そして我がイザンカ王国は独自の「鋼鉄の鎧騎士」に対して歴史的な第一歩を踏み始める事になるのだった。

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