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第二章:ジマの国
2-24:アマディアスの婚約発表
しおりを挟むエイジたちが帰ってから約一週間後、アマディアス兄さんの婚約が発表される事となった。
「はぁ~、アマディアス様ぁ。イケメンだったのにイータルモアにとられたニャ。泥棒猫ニャ!」
カルミナさんが部屋の日当たりの良い所でぐったりしている。
結局あの後何度も夜這いに行ったらしいけど、ことごとく失敗したらしい。
いや、カルミナさんだけでなくイータルモアもそうだったとか。
アマディアス兄さん曰く、「まだ婚約しただけで正式に夫婦となった訳ではない。私はイータルモア殿を大切にする義務がある。故にそう言った事は夫婦になってからだ」だとか。
まぁ、実際の所はそれどころではないらしい。
うちの国の隠密である「草」とジマの国のローグの民が協力して近隣諸国へ事前に噂を流している。
つまり、黒龍の孫娘がイザンカ王国に嫁ぐので、イザンカ王国にも黒龍の加護が出来ると言う事。
そして、イータルモアの祖母には女神様がいると言う事も。
これは大きな話題になった。
つまり、イザンカ王国は黒龍の庇護下になり、更に女神様の加護まで受けられる可能性が出てきたと言う事だ。
流石にこれだけのカードが出てしまえばドドス共和国もそうそう手が出せなくなる。
今イザンカに対して大義名分が無ければ、それは黒龍に対するだけでなく女神様に対しても敵対するに等しくなる。
ドドス共和国は首都ドドスの街にイージム大陸最大の女神神殿を保有する。
そのドドス共和国が女神様に対して刃を向ける事は出来ない。
ドワーフ族がもたらす魔鉱石と女神様を祀る大陸最大の女神神殿がある事がドドス共和国の基軸となっているからだ。
ただでさえ魔鉱石の貿易量が減っている中、もう一つに基軸である女神様に対する反逆は絶対に行えない。
故に、イザンカ王国の第一王子と黒龍の孫娘であり女神の孫娘でもあるイータルモアがアマディアス兄さんと一緒になる事でドドスにはイザンカに手出しをする事が出来なくなってしまう。
「理屈は分かるんだけどねぇ」
私は言いながらエマニエルさんの研究の手伝いをしている。
どう言う事かと言うと、魔晶石に魔力だけでなく呪文も注入すると言う古代魔法王国時代の付与魔法の復活を試しているのだ。
もし、これが出来るとなれば今の時代では大騒ぎになるだろう。
なにせ、魔力を含んだ魔晶石は使ったらただの石になって再度魔力付与が出来なかったのだから。
いや、そもそも、魔力注入などと言う余裕は普通は存在しなく、だからこそ魔晶石が重宝されていたのだが。
シューバッド兄さんが私にくれたあの杖は、実は古代魔法王国時代の杖を修復した物だったらしい。
もともとくっ付いていた魔晶石がそれ用に調整されたもので、普通の魔晶石をくっつけたのではああはならなかったらしい。
杖自体も本来の使い方は、魔力増幅で減少では無かったとか。
それを逆の作用に改造したのがあれで、実はその原理自体があまり分からずに修復をしていたとか。
いや、そんな不明瞭なモノプレゼントされていたのか……
たまたまそれを知ったシューバッド兄さんが、魔術師たちにそれを修復させたけど魔術師たちにしてみれば「増幅で無く減少する魔法の杖なんて出来損ない」という認識しか無かったようだ。
普通はそうなんだけどね。
でもここに魔力が制御できずに駄々洩れさせていた弟がいたので、これ幸いと私にプレゼントされた。
確かに最初の頃は助かった。
ある程度の魔法なら余剰魔力の吸収で魔法の暴走がなくなったから。
ただ、容量が小さくて二回くらい使うとすぐに魔力がいっぱいになっちゃうのが問題だった。
アビスが現れ、そしてジマの国で「操魔剣」に出会い今の私はかなり魔力調整が出来るようになったので、細かい繊細な魔法を使う時以外はこの杖の出番がなくなって来ていた。
なので、今はエマニエルさんの研究の役に立っている。
「ところでエマニエルさん、この杖の術式の解読は出来たんですか?」
「はい、書き写すこと自体は出来たのですが複雑すぎて完全には解読できてません」
そう言って一枚の紙を引っ張り出す。
それは魔法陣やら魔術式がびっちり書き込まれた物だった。
ぱっと見、もの凄い内容なのはわかる。
私はそれをしばし見ていてある事に気付く。
「これって、付属の魔晶石を逆向けにつなげれば充填になるんだ……充電式乾電池のプラスとマイナスを逆にするだけで増幅と吸い取りが出来るって、便利なのか失敗作なのか……」
シューバッド兄さんが魔術師たちに修復させたとか言っていたから、さぞかし解析が出来ていると思ったら、多分付け間違えた時に魔力吸収されて分かったんだな。
解析できてないじゃん!
「アルムエイド様? この術式がお解りですか?」
「はい、ここがこうなって、メインの術式のサポートがこっちで、あ、ここで代行して演算……魔術式の代わりを疑似でやってその結果だけをこっちで代数的に埋め込んで……」
まぁ、魔術式はプログラムに似ている。
メインの術式にサブの術式が複雑に絡み合って最終的にその効果が発揮される。
呪文はその術式を読み上げ、魔術の構築をしてゆくわけだけど、ここまで複雑な術式だと詠唱だけで数時間かかってしまう。
しかし、使い方を理解して魔力を注入すれば詠唱と同じ効果が術式に流れ込んで、最後のトリガーである「力ある言葉」で発動する。
意外とこの世界の魔法ってのは理にかなっていたのだ。
「アルムエイド様、何と言う…… 凄いです! そうですか、複合魔法と同じような原理だったのですね!!」
「複合魔法?」
「ええ、大呪文などは魔術師数名で同時に詠唱に入り、そして魔法を発動させます。代表的なのが召喚魔法ですが、現在異世界からの召喚魔法はどう言う訳かその資料や書物がことごとく失われました。噂では以前の古い女神様が異世界召喚がかの『魔人戦争』の引き金になったと言う事で、世にある異世界召喚魔法のもろもろを回収したとされていますが」
えーと、エマニエルさん。
そうするとうちの魔術書庫には魔人を呼び出しちゃうやばい魔導書がある事になるんですが……
「とにかく、これで研究がまた一歩進みました! さぁ、アルムエイド様続きをしましょう!!」
「あ、あの授業は?」
「実施研修です! さあ一緒に魔道の奥義を探求しましょう!!」
完全に目の色が変わってしまったエマニエルさんを見ながら私はため息を吐く。
こう言う時だけは早くアプリリア姉さんがやって来てお茶会をして欲しい所だけど、みんなアマディアス兄さんの事で忙しいらしい。
私は仕方なく、またエマニエルさんの研究の手伝いを始めるのだった。
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