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第二章:ジマの国
2-16:帰国
しおりを挟むなんだかんだあったジマの国もとうとうお別れの時が来た。
「それではヨテューン王、我々はこれで」
「アマディアス殿、ロストエンゲル王によろしくお伝え願おう。それと……」
ヨテューン王はアマディアス兄さんの横にいるイータルモアを見て言う。
「その、くれぐれもよろしく頼むぞ。タルメシアナ様はこちらに残らざるをえない故のぉ……」
なんかお爺ちゃんが孫娘見るような感じだね。
まぁ、イータルモアがアマディアス兄さんにぞっこんで、タルメシアナさんが脅しをかけた時点でどうしようもないのだけど、イータルモアのやつがイザンカに来るって言う事を聞かない。
もちろんタルメシアナさんにお願いしたものの、龍族は自我を確保した時点で後は自分でどうにかすると言う風習があるらしく、イータルモアの意志を優先させるとか言ってイザンカ王国に行くことを許可した。
そしてアマディアス兄さんにそっと耳打ちをしたりもしていた。
『モアを傷物にしてもいいですが、しっかりと責任は取ってもらいますよ? ああ、黒龍である私の母には私からちゃんと言っておきますから大丈夫です。それとモアを泣かすような事したらイザンカ王国滅ぼしちゃいますので忘れないでくださいね♡』
アマディアス兄さんが青い顔するのも分かる。
そんな訳で私たちと一緒にこいつも来る事となってしまった。
「こ、心得ておりますよ、ヨテューン王。それでは我々はこれで」
「うむ、ではよろしくな、アマディアス殿」
こうして私たちはジマの国を後にするのだった。
* * * * *
「ふう、父王に何と言ったら良いかな……」
「アマディアス様ですぅ~♡」
馬車に乗って一路帰路についたはいいが、目の前で悩むアマディアス兄さんにいちゃつくイータルモアがうざったい。
本来は私がアマディアス兄さんの隣に座っているはずなのに!
「しっかし、アマディアス兄ちゃんも災難だな。イータルモアが嫁さんに来るって事はあの黒龍と親戚になるって事だよな? あ、そうするとうちも関係が出来るのか?」
エイジは二人の様子を見ながらあっけらかんとそう言っている。
するとアマディアス兄さんはチラッと私たちを見て言う。
「これも王族の務め、致し方ないのだがな。お前たちにはまだ早いが良い機会だ、話しておこう。王族やその親族は国の為におのれの意志とは裏腹にこう言った婚姻をする事がある。今回は特に黒龍の孫娘と私が一緒になると言うのは近隣諸国にとって大きな意味が出来る。イザンカとジマの国はそのつながりがより強固になり、対してドドス共和国には強力な牽制となる。これはイザンカ王国にとって決して悪い事ではない。無いのだがな……」
アマディアス兄さんは隣にいて、腕に抱き着いているイータルモアを見る。
イータルモアはにこにこ顔でアマディアス兄さんに頬擦りしている。
「くぅっ! しかしまだニャ!! 先にアマディアス様の子供を作ってしまえばあたしの勝ちニャ!!」
アマディアス兄さんの同じく隣に座っているカルミナさんもアマディアス兄さんの腕を取ってそう言う。
「でも私の方が強いですぅ! お母様からもらったこの薄い本もたくさんあるですぅ。子供を作るのも私の方が先ですぅ!!」
アマディアス兄さんを挟んでにらみ合う二人。
力では何とカルミナさんの方が負けていた。
騎士たちとの手合わせの後、アマディアス兄さんにご褒美をねだるカルミナさんに、焼きもちを焼いたイータルモアが手合わせを挑んで、タルメシアナさんが面白半分でそれを許可し、鍛錬場がぼろぼろになる戦いを繰り広げ最後にはカルミナさんが負けると言う展開だった。
正直驚かされた。
弱冠十五歳のイータルモアが、カルミナさんを圧倒する姿は想定外だった。
タルメシアナさんの話では、生まれてしばらくして父親に色々と鍛えられたそうだけど、孫にも近い年齢だったせいもあり、父親からは特にかわいがられ奥義の数々を直接伝授されたとか。
確かにイータルモアの動きはマリーでさえも唸るほどだった。
それを見たアマディアス兄さんはまたぶつぶつ言ってたけど。
『これは想定外の戦力となるな。魔人に匹敵する。カルミナ殿も十分にすごいが、これでは『鋼鉄の鎧騎士』も歯が立たぬな……全く、恐ろしいな竜の血とは』
とか言っていた。
まぁ、確かにすごかったけど。
そんな事を思い出しながら馬車は揺られ、ジマの国の渓谷へと差し掛かる。
来た時はこの辺で野宿をしたけど、今回はまだもう少し先に行けそうだ。
渓谷を出ると黒龍の縄張りから出るのと同じなので、魔物が襲ってくる可能性もあるけど、現在の私たちの戦力は一国の軍隊以上。
下手な魔物が来ても全く脅威にすらならない。
なのでもう少し先にまで行く事となった。
「ジマの国とも完全にお別れだね。結構楽しかったかも」
「そうだな、エルリック一家のアストラやエストラとも仲良くなったし、今度はイザンカに遊び来いって誘ったしな!」
「そうだね、レッドゲイルだけでなく、ブルーゲイルにも来てほしいなぁ」
私のつぶやきにエイジはそう話す。
エルリック王子の所のアストラ君やエストラ君、シュナミリアさんとも仲良くなった。
これは政治的にどうのこうのでなく、子供同士で遊んでいるうちに自然と仲良くなったわけで、友達の少ない私やエイジにとっても楽しいひと時だった。
ジマの国。
最初は形式的な意味での訪問だったけど、行ってみれば結構いい所だった。
イザンカ王国とはまた違う感じ。
どことなく前世の日本に似ていた。
このイージム大陸は人が生きていくには過酷な場所だ。
それでもああいう国もある。
今回のジマの国訪問は私にとってもいい経験になった。
そんな事を思いながら私は遠ざかってゆくジマの国の天然の城壁である渓谷を見るのだった。
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