上 下
51 / 112
第二章:ジマの国

2-14:手合わせその二

しおりを挟む

 カルミナさんに代わって今度はアビスが広間に行く。
 対する相手はカミューさんとか言う小柄の女性の騎士。

 小柄ではあるものの、彼女は両の手にショートソードくらいの木刀を両手に持っている。
 二刀使いと言う事だろうか?


「両者良いか? では始めっ!」


 副団長は双方を確認してから開始の合図を送る。  
 と、まず初めに動いたのはカミューさんだった。

 しかし他の二人と違って最初から「操魔剣」を使っていない?
 普通にアビスに踏み込んで両の手に持つ短い木刀を打ち込む。
 
「ほう、なかなか」

 その動きは見事に双方の木刀が別の意志を持つかのように動き回る。
 実際に両手持ちの剣はどうしても意識が一点に集中してしまうので別々に剣が動くと言うのはかなりの上級者だ。

 なにせ、前世の私は高校の時には剣道部!
 宮本武蔵でさえ実戦では刀一本と言われる程に二本の刀を自在に動かすのは至難の業というのを知っている。
 だって、実際に高校の時面白半分でやってみたけど難しいのなんの。
 どうしても片方の動きに気を取られるともう片方の動きが鈍くなる。

 しかしあのカミューって女騎士は、まるで手に持つ木刀が別々の意志があるかような動きをさせる。
 実質同時に二人と剣を合わせているようなものだ。


「しかし私には届きませんね」

 だがアビスはどれもこれも余裕で避けている。
 そしてまだ一度も攻撃をしていない。


「『操魔剣』二刀流奥義、顎《あぎと》!」


 が、完全にアビスの懐に入ったカミューさんが動きを見せた。
 上下に大きく開いた木刀がまるで竜の顎のようにアビスに襲いかかる。

 が、その一撃は上下ともに見えない壁でふさがれている。


「このタイミングで技を繰り出すとは、貴女、戦い慣れていますね?」

 アビスは嬉しそうにそう言って指をパチンと鳴らす。
 と、カミューさんは慌ててその場から横に転げるように身をかわす。

 見ればさっきまでカミューさんの立っていた地面から土の槍が伸びていた。

「いい判断です。しかし詰めが甘い」

 そう言ったアビスはまた指を鳴らすと、カミューさんの周りに黒い雷が発生する。
 と同時にカミューさんは短い木刀を地面に突き刺し、身にまとっていた鎧を一瞬で空中に放り投げる。
 そして、自分はつきたてられた木刀のそれより低く上体を伏せる。


 ばちっ!
 ばちばちばちっ!


 黒い雷はカミューさんを襲ったと思った瞬間、宙にまう金属製の鎧や地面に突き刺された木刀に全て吸い込まれるかのように流れて行く。


「『操魔剣』無手奥義、槌《つち》!!」


 カミューさんは雷の一撃が自分を捉えてないのを確認すると、バチバチと電撃がスパークする中、まるでオオカミのようにアビスに飛び掛かり片手を伸ばす。

「無駄です」

 が、やはり見えない壁に阻まれる。
 しかしそこへカミューさんはもう片方の手を重ねるように打ち込む。


 ばんッ!
 ばばんっ!!


 一体何をと思ったら、アビスがお腹を押さえた。


「あの子、あの若さで無手奥義、槌《つち》を使うとは……」

 思わずマリーが唸った。
 そして珍しく驚きに目を見開いている。


「どう言う事?」

「あの技は、振動です。いくら固い壁や防具でも振動を伝えられればダメージは伝えられます」


 はい?
 振動って、波のあの振動!?

 いやいやいや、ちょっと待ってくださいマリーさん。
 確かにアビスの前には防壁が張られているでしょうけど、防壁とアビスの間には少なくとも五十センチはあるのよ?
 その間に例え空気があったとしてもそんな激しい振動を繰り出すだなんて!!

 だが、アビスがお腹を押さえたと言う事はダメージが届いている?


「少しはやりますね? こちらの世界で受肉して初めて触れられましたよ。だが、軽すぎる」

 そう言うアビスはにこやかな顔のままだ。
 あれって、まさかやせ我慢じゃないでしょうね?


「まいりました…… 私の負けです」

 
 しかし、ここでカミューさんはその場で動かなくなり、両の手をだらーんとしたまま敗北宣言をした。
 驚き彼女を見ると、肌のむき出しになった両の手が所々紫色になっていた。
 驚きマリーを見ると、苦虫をかみつぶしたような表情をしている。

「『操魔剣』で無理をしましたね……実際には素では出来ない技を瞬時ではあるものの『操魔剣』で力を底上げして無手奥義、槌を使った反動ですね」

 私の意を介したように解説をしてくれた。
 しかしその無理が祟ったのだろう、彼女は両手を全く動かせないでいる。


「そ、そこまで!」

  
 流石に副団長も状況を分かっていて、ここで終了を宣言する。
 カミューさんはすごすごと戻ってゆくと、回復魔法が使える人がすぐにカミューさんの腕に回復魔法をかけている。


「くっくっくっくっくっ、なかなかでしたね。この私に一撃を入れた事を誇りに思う事ですね」

 そんな彼女にアビスが珍しく賞賛の言葉をかけた。
 が、副団長はそれを聞いてアビスを睨みながら次の対戦者を呼ぶ。

「ロッゾ! カミューに恥じぬ戦いをしろ!」

「はっ!」



 呼ばれたロッゾという男性はアビスを睨みながら広場に足を進めるのだった。  
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...