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第二章:ジマの国
2-8:夏の海辺の日常
しおりを挟む「エストラ君っ!! 【絶対防壁】、【転移魔法】、【氷槍】!!」
私は考えるより先にエストラ君に対して手を伸ばし、魔力を込める!!
事は一刻の猶予も無い!
「アルム様!?」
「おいアルムっ!?」
「この魔力量はっ!?」
「ふわっ、なんなんですぅ!? これお婆ちゃんたちよりすごい魔力ですぅっ!」
「アルム!?」
なんか後ろでマリーやエイジ、魔力に反応したタルメシアナさんやイータルモア、アマディアス兄さんが騒いでいる。
でもそんなのにかまっている暇はない!!
私の魔力に反応してエストラ君の周りに分厚い絶対防壁が展開される。
それは通常は攻撃に対して壁になるのだが、魔力を惜しみなく飛ばした結果完全に球体で三百六十度と彼の周りを包み込む。
そしてその場からすぐにこちらに引き寄せようと、【転移魔法】を発動させるのだけど、エストラ君のすぐ後ろに例の異界の門が現れる。
「ちょっ! エストラ君を異界に連れ去っちゃダメっ!!」
私がそう強く念じて叫ぶと、開いた扉から出始めた黒い手や瞳が一斉にびくつく。
それと同時に上空に現れた氷の槍が数百個一斉に海の中にいる人食い魚に向かって降り注ぐ。
どしゃどしゃどしゃっ!
ぼふんっ!
ビキビキビキビキっ!!!!
【氷槍】は一瞬で周辺の海を氷で閉ざし、人食い魚を氷漬けにする。
いや、それどころか温度をどんどん下げて海を完全に氷漬けにしてしまった。
ぶわっ!
本来汗ばむ陽気だったのがまるで真冬のような冷気を伴い、そしてアストラ君を包んだ【絶対防壁】の球体を扉から伸び出た黒い手たちが上空へと持ち上げ、冷気から遠ざけてくれていた。
あ、いくつか黒い手や目玉も凍っちゃっている??
「何という魔力です!?」
「海が凍ったですぅ!」
「アルム様っ!」
「さぶっ! アルムなんなんだよこの氷は!?」
すぐに私のそばにタルメシアナさんやイータルモア、マリーやエイジがやって来る。
私は黒い手に持ちあげられているエストラ君を見上げる。
「ふう、とりあえず無事みたい。良かった」
「いや、アルムこれはどういうことだ?」
安堵の息を吐きながらそう言う私にアマディアス兄さんが上着をかぶりながらやって来た。
それに私はすぐに答える。
「エストラ君のすぐ近くに人食い魚がいたんです。エイジがそれに気付いたけど周りに誰もいなくて、それで慌てて魔法を使ったんです」
「それは、大義なのだが流石にこれはやり過ぎなのではないか?」
アマディアス兄さんはそう言って海を見る。
確かに、慌てていたとはいえ海が完全に凍ってしまい、夏の陽気が一気に真冬のような寒さになってしまった。
カルミナさんやエルリック夫妻が慌ててエストラ君の救出をしているが、異界の門も半分くらい凍ったままでエストラ君を降ろした黒い手や瞳たちも困惑している。
「わ、我が主よ…… 酷いです…… ずっと私をこんな所に閉じ込めておくだなんて……」
あ、半分凍ったアビスが扉から出て来た。
こいつは魔人だから死にはしないと思ってたけど、ずっと扉の中に捕まっていたのか?
「アビスか? お前なら異界の扉から出てくるくらいで来たんじゃないのか?」
「お戯れを……我が主の呼び出しこの扉は七大冤獄の最下層、冷層獄。たとえ魔人でも凍り付いたが最後抜け出る事は出来ませぬ」
なんかものすごいの呼び出しちゃった?
あの時は女湯を覗き見られた腹いせにどこかに飛ばしてやろうと思っただけなんだけどなぁ……
「アマディアス殿、助かりましたぞ。わが息子エストラを救い出していただき感謝の言葉も無い」
「いえ、エストラ殿を助け出したのは我が弟にございます。エストラ殿は大事ありませぬか?」
「ええ、あの寒さの中、防壁のお陰で無傷ですよ。いや、本当にありがとう」
あ、エストラ君を救出し終わったエルリック王子がアマディアス兄さんにお礼を言いに来た。
アマディアス兄さんは私の背を押してエルリック王子にそう答える。
するとエルリック王子は私を見てにこりと笑う。
「アルムエイド殿、感謝したしますぞ。噂にたがわぬその魔法。いやはや、確かに魔王法ガーベルの再来だ」
なんかそう言って絶賛してくれる。
うーん、でもまぁエストラ君が大丈夫だったのでいいか……
でも近くにいたタルメシアナさんがぶつぶつ何か言っている。
「しかし、異界の扉を呼び寄せるとは……しかもこれが噂の最下層、第七氷獄とは…… 魔人ですら氷漬けにすると言われているものですね…… しかしあの魔人、良く生き残ってたものです」
「あ”-っ! あ、あのタルメシアナさん!!」
近くにいたタルメシアナさんがまだ半分凍り付いている異界の扉を見上げながら思わずそんな事を口走る。
アビスが魔人だって事は、みんなにはないしょなので私は慌ててタルメシアナさんの手を引っ張って余計な事を言わせないようにしようとすると……
「まっ///////」
何故か手を引く私をじっと見る。
そしていきなり私もを抱き上げる。
がばっ
だきっ!
「う~ん、女の子も良いですが、男の子も良いですねぇ~♡ 次に旦那が転生して来たら頑張っちゃって次は男の子が欲しいです♡」
「うわっ、ちょっとタルメシアナさん!?」
いきなり抱き上げられ、あのデカい胸に押さえられながら頬ずりされる。
これ、マリーよりデカいし、カルミナさん並!?
それに抑える力が尋常じゃない!
まったく身動きできずに頬ずりされる。
「アルム様っ! タ、タルメシアナ様、アルム様は私の旦那様です! そのような事はぁっ!!」
「お母様、男の子が欲しかったですぅ? じゃあ、私が頑張ってアマディアス様との間にかわいい男の子を生むですぅっ!」
「どうでもいいけど、この凍った海どうするニャ?」
「さぶっ!」
抱きしめられ頬ずりされていると周りがごちゃごちゃと。
しかし、カルミナさんの言葉にタルメシアナさんは思い出したかのように私を降ろして海を見る。
「確かに、このままではまずいですね。こんなのお母様に見つかったら怒られてしまいます。皆さん下がっていてくださいね」
そう言ってタルメシアナさんは大きく息を吸うと、一気に凍った海に向かって炎を吐き出す。
それは正しくドラゴンの炎。
ものすごい熱量が凍った海を焼き尽くす。
その炎は黒龍ゆずりなのだろう。
しかもタルメシアナさんは女神と黒龍の娘。
ただのドラゴンブレスでは無かった。
ずぼぼぼぼぼぼぉっ!!!!
「うわっ、あっつっ! 【絶対防壁】!!」
タルメシアナさんのドラゴンブレスに今度は熱風が襲ってくるので、私は慌ててみんなも含めて【絶対防壁】を展開する。
おかげで真夏の遊園地の殺人的熱風並なそれも遮られ、一安心。
前世で何を血迷ったのか、若い時代に千葉だけど東京の名前を冠した夢の国に皆で夏休みに行って酷い目に遭ったのを思い出す。
「すっげぇ……」
防壁内でエイジたちがみるみる溶けて行く海を見て驚嘆の声を上げる。
が、タルメシアナさんがいきなりドラゴンブレスと止める。
「ふはぁ~! 流石に久しぶりなので息が続きません、酸欠です!」
なんかぜぇぜぇ言ってる?
もしかしてチアノーゼ起こしかけている。
と、そこへイータルモアがタルメシアナさんを支えて気づかう。
「お母様、残りは私がやっておきますですぅ。残りのこのくらいなら私でも出来ますですぅ」
そう言ってイータルモアも大きく息を吸い、ドラゴンブレスを放つ。
いや、お前も出来るんか―ぃっ!
完全に人型で、タルメシアナさんと違い角も尻尾も無かったから忘れてたけど、こいつも竜の血を継いでいたんだ。
普通の人間で水着を着た美少女が口から大量のドラゴンブレスを吐き出している。
その光景に思わず固まるアマディアス兄さん。
あー、これやっぱりどうしても逃げられなくなってるね、アマディアス兄さん。
あっちではエルリック一家がタルメシアナさんとイータルモアが海を元に戻そうとしているのを応援している。
うん、平和的解決だな、多分。
そんな様子を見ながら私はそう思うのだった……
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