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第二章:ジマの国
2-7:海辺
しおりを挟むどうしてこうなった?
今私たちはジマの国の東の漁港南側にある海水浴場のビーチに来ている。
正直、久しぶりに海が見られるのでウキウキしていた。
エイジに関しては初めて海を見るから前日から興奮でよく眠れなかったとか言っている。
そして今私たちは水着に身を包み、白い砂浜にいる。
ここは王族のプライベートビーチと言う事もあり、他には誰もいない。
久しぶりの海。
本当は心底楽しみたいのだが……
「さあ、ここが我が王家のプライベートビーチだ。存分に楽しんでくれたまえ!」
「お父様、とりあえずパラソルとかの設置が先ですわよ」
「姉さま、こっちで良いかな?」
「あなた、イザンカの方々に是非これを使っていただいては?」
「かぁさまぁ~、早く海入ろうよ~」
昨晩、宴で紹介のあったエルリック第一王子ご家族一行が一緒にいる。
「きれいな海ですね、アルム様」
「すっげー! ほんとうに水だけだ!!」
「み、水らだけニャ!」
うちの連中はまだわかる。
しかし……
「うーんたまにはこう言うのもいいですね」
「えへへへへぇ~アマディアス様ぁですぅ」
王族の方々はまだ分かるけど、タルメシアナさんとイータルモアまで来てる!
「あの、アマディアス兄さん、なぜこうなったんです?」
「あの後なぁ……」
私はアマディアス兄さんを捕まえてこちらでこそこそ話をする。
するとアマディアス兄さんはため息交じりに話始める。
「ヨテューン王から王子一家を紹介いただいたまでは良いのだが、ジマの国を楽しんでもらおうと言う事で国の名所を案内すると言い出してくれたのだ。問題はイータルモア殿がそれを聞いて海遊びをしようと言い出してな、結果これだ……」
「だからと言ってタルメシアナさんまで一緒ってどういうことですか?」
「アルムよ、分かってくれ……」
アマディアス兄さんは苦渋の表情だった。
イータルモアはほとんど押しかけ女房。
それに姑まで付いてくるのだから一緒にいるこっちはたまったもんじゃない。
一応はまだ公式には伏せてはいるけど、アマディアス兄さんの未来は決まったも同然だった。
理解はする。
これは王族としていつかは政略結婚とか、何かとか有るだろうから。
しかし、相手は女神や神話級の黒龍の孫!
そりゃぁそんなのが嫁に来ると言ったら大騒ぎになる。
そしてこの世界では女神の存在は絶対。
その孫が嫁いだ先の国に手を出すと言う事は女神に刃を向けるも同然。
政治的に見ればこのアドバンテージは絶大なものになる。
なるのだが……
私のアマディアス兄さんが取られちゃう!!
はい、そこの君、今そこかぁって思ったでしょう!?
そこに決まってるじゃない!!
私がこの世界に来たのはイケメンに取り囲まれ、イケナイ恋愛やはぁはぁ出来そうなラブロマンスが見られるって話しだったからよ?
しかも前世では達成できなかったロストバージンとか、めくるめくイケメンとの熱い恋物語も期待していたのに、なんで私の周りには女ばかり集まって来るのよ!!
そりゃぁ、第三王子とかに生まれ変わっちゃって女としては終わっちゃってるけど、男性同士のそう言うのだってあってもいいじゃない!?
さしあたり、長兄のイケメンが私をもっと甘やかしてくれてもいいじゃない!?
それなのに!!
「アマディアス様ぁ~一緒に遊ぶですぅ♡」
「うちの娘、よろしくお願いしますね♪」
この親子はぁっ!
「は、はははははは、い、今行きますよ……」
そう言ってアマディアス兄さんは肩を落としてあっちへ行く。
くぅうううぅぅ、アマディアス兄さんっ!!
「えっと、アルムエイド君だったよね? 一緒にあっちで遊ばない? エイジ君も待っているよ」
私が悔しくてほぞをかんでいると、アストラ君が声をかけて来てくれる。
アストラ君八歳。
エルリック第一王子の長男で、茶髪の聡明そうな感じの男の子。
悪ガキのエイジとは正反対の感じだけど、この歳で空気が読める出来る子。
弟のエストラ君六歳と違ってしっかり者だ。
既にエイジとエストラ君はあっちで膝まで水に浸かってはしゃいでいる。
「アルムエイド君ね。私とも遊びましょうよ♪」
更に声をかけてくれるのはシュナミリア王女で、十二歳。
アプリリア姉さんと同じくらいの歳で、エルリック第一王子一家の長女。
奇麗なピンク髪をさらりと流してにっこり笑って私に話しかけて来る。
非常に可愛らしく、うちの姉たちにも負けていない。
美少女で将来は確実に美人になる。
私は気付かれないように小さくため息を吐いてそちらに向かう。
アマディアス兄さんのことは一旦置いといて、今はお子様として海を楽しむしかないだろう。
久しぶりの海に私は頭を切り替えて子供たちに混ざって遊ぶのだった。
* * *
「はぁはぁ、う、海の水ってしょっぱいって本当だったんだな!」
「塩分が含まれているから体も浮きやすいしね。ただ、海からあがったら体を真水で洗わないと後でべたべたするよ?」
ひとしきりみんなで遊んで小休憩しようと砂浜に戻ってきながらエイジとたわいない事を話す。
なんだかんだ言って私も子供たちに混ざって海に入って遊び始めると結構楽しかった。
この辺は今の体が純粋に周りの同年代と一緒にいる事を是として、私の思考と切り離されて楽しんだようだ。
結局はしゃぎ始めると、理性より感情の方が強くなるようだ。
これについてはちょっと驚きだった。
転生してこの方、いろいろと前世のアラフォー女子としての考えが強く出て、周りからも魔法王ガーベルの再来だとか、賢者の素質があるだとか、天才だとか言われて来た。
なので余計に年相応の態度が取れていなかったのだろう。
今から思えば年上の人たちには良かったかもしれないが、私より小さな妹であるミリアリアなんか私とちょっと距離感があったようにも感じる。
今は実の妹なのだから、年相応にもう少しかまってやるべきだったかもしれない。
「アルム様、お飲み物を用意しました」
砂浜に戻って来ると、マリーたち大人組がパラソル……いや、これって運動会とかにあるテントみたいな日陰でくつろいでいた。
当然そこにはアマディアス兄さんとイータルモア、タルメシアナさんもしっかりといる。
「あれ? カルミナさんは??」
しかし大人組にいたはずのカルミナさんがいない。
するとマリーはあきれ顔になって海の方を見る。
そこには巨大な魚を担いだカルミナさんとシュナミリアさん、アストラ君がいた。
なんかあの二人に対して自慢げにカルミナさんは楽しそうに話をしている。
「にゃははははは、あたしにかかればざっとこんなモノニャ! 獣人であるこのあたしは水の中でも負けにゃいニャ!」
「凄いです! カルミナさんってこの人食い魚を一撃で倒してしまうなんて!」
「凄いよね、本当に!!」
ん?
今さらりとやばそうな単語が無かった??
人食い魚??
言われてカルミナさんがかついでいるその魚を見ると、ホオジロザメそっくり?
「おいアルム! エストラ君が!!」
私がそんなこと思っているとまだ海で浮き輪で遊んでいるエストラ君に近づくあの背びれ!
「まずい! あれって人食い魚だ!!」
私は思わず手に持つ飲み物を投げ出してそちらに駆け出すのだった。
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