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第二章:ジマの国
2-3:国王
しおりを挟むなんだかんだ言ってみんなを【念動魔法】でお城まで運び終わった。
「いやはや、そのお年でこれだけの事が出来るとは、まさしく末恐ろしいですな」
「お褒めの言葉として受け取っておきましょう。アルム、ご苦労だった」
エラルド宰相は驚きの表情のままアマディアス兄さんにそう言っている。
アマディアス兄さんは私に対して労をねぎらってくれるが、何時もなら頭を撫でてくれるんだけどなぁ~。
イケメンの兄に頭を撫でられるのはOk。
でも国王である父王はなんか嫌。
父王も決して顔は悪くないのだけど、やはり若い男が良いわよね♡
今回はエラルド宰相の前なので我慢するけど、アマディアス兄さんと二人っきりの時はもっと褒めてもらおう。
「それでは城へとご案内いたしましょう。しばしご休憩いただけたなら我が国王にお会いいただきたい」
「分かりました。では少々休ませていただき身支度をさせていただきましょう」
私たちはエラルド宰相に案内されて応接間で一休みするのだった。
* * *
「なぁアルム、さっきの【念動魔法】だけど、あれって一度に複数を対象にってどうやってやるんだ?」
「へっ? いや、対象を認識して普通に【念動魔法】をかけているのだけど……」
「はぁっ? お前、それ呪文でやったら対象人数分呪文が長くなってその都度魔力を注がなきゃならないんだぞ?」
「え? そうなの?? 術式でいえば『対象認識、固定、【念動魔法】同時付与、魔力充填、目的地指定、運搬』の順でやればいいんじゃないの?」
「おまっ、そんな呪文の短縮考えたのかよ……それであれが出来るだなんて、賢者かよ?」
「アルム、少しいいか? 今の術式、お前が考えたのだな?」
「はい? そうですけど……」
応接間に通されて、一休みしている間にエイジがさっきの【念動魔法】について聞いて来た。
呪文で唱えるとさっき私が言ったようになるわけだけど、プログラムなどでもある同じ命令文をその回数するより、目的となる作業は一つにして、あとは対象を関数化して固定すればいい訳で……
まぁ、まとめてポイである。
でもこの世界の魔法は呪文の構築がいちいち対象ごとに唱えるので、面倒だからまとめてポイしたら出来た。
だから私は【炎の矢】などを一度に数百発発動できる。
やっている事は同じだけど、まとめてポイ。
後は魔力量に物を言わせればいい訳だ。
「なるほど、アルムのように膨大な魔力があればこそできる呪文だな。しかしこれは凄いぞ。私もこのやり方なら同じ魔法を一度に複数行使できそうだ」
「すっげーなアルム! 魔力量使うけど俺もやってみようっと!」
なんかアマディアス兄さんやエイジに驚かれて褒められた。
そう言えば、宮廷魔術師のドボルゲルクさんも一度に複数相手には出来ないって言ってたな。
もしやるとすれば呪文が倍の長さになるとか言ってたし……
うーんこの辺は、呪文は女神様からの聖なる賜りものとか言う概念があるから、あまりアレンジしたがらないせいだろう。
前世の私からしたら省ける所は極力省いてプログラムは軽く、機材への負担は少なく、そして作動がスムーズにってのが当たり前なんだけどね。
重要な所さえしっかりしていれば、無駄はいくらでも省けるものなのだから。
だから前世では銀行やお役所の面倒くさい手続きとかWeb上での手続きにイライラしたものだ。
あいつらお金使ってるくせしてなんであんなに分かりにくいモノ作るかね?
うちの会社に回してくれれば、もっとお安くそして必要最低限の分かりやすものに仕上げてやるのに!
機材だって在来を改造すれば互換性だってまだまだあるってのに……
……よそう。
悪い癖だ。
もうあっちの世界の事は関係ないんだから。
ついつい癖で合理化とコストダウンが頭から離れない職業病を発揮しそうになる頭を振ってアマディアス兄さんに聞く。
「そう言えば今のジマの王様って、伝説の竜の血を引いてるって本当なの?」
「言い伝えではな、それどころか竜の血に連なる者はこのジマの国には沢山いて、特徴的なのが赤い瞳を持つ者がその力が顕著に表れていると言われている」
赤い瞳?
アマディアス兄さんからそう聞いて私は思わずマリーを見る。
するとマリーはバツが悪そうに私から視線を外す。
「マリー?」
「アルム様……その、私は……」
「マリー、もういいではないか? ジェリア母上を魔獣から救ってくれたのはお前の力あっての事だ。その力、決して悪いものではないのだぞ?」
「しかしっ!!」
マリーの瞳は赤い。
そしてマリーは元ジマの国の騎士。
どう言う経緯で私の母、ジェリア母様と知り合ったかは知らないが、その後私専属のメイドをしてくれている。
「マリーも竜の血を引いてるの?」
びくっ!
私がそう聞くとマリーは体を震わせ涙目になりながら私を見る。
「アルム様! 私は絶対に自我を無くすことはもうありません!! ですから、どうかおそばに置かせてください!!」
その場にひれ伏し床に頭をこすりつけるかの如く懇願するマリー。
あまりの事に私は理解が追い付けず、困惑しながらアマディアス兄さんを見る。
「マリーはな、ジュリア母上を助けたと同時にイザンカの騎士たちを皆殺しにしたのだよ……だが、ジュリア母上のお腹の中にいたお前に気付いたらしく、我を取り戻した。それがマリーがお前に尽くしたいと願う理由なのだよ……」
「マリーが??」
驚きの話だった。
ジェリア母様をマリーが救ったと同時にうちの騎士たちを皆殺しに?
訳が余計に分からなくなった。
私はひれ伏しているマリーを見る。
するとマリーは震える声で話始めた。
「アルム様……私はこの血のせいでジマの国にいられなくなり、冒険者に身を落しました…… しかし戦いの興奮で我を忘れ竜の血が私を支配すると自我を失い見るものすべてを血祭りにあげてしまう…… 私はそんな呪われた女だったのです。ですから戦いから離れた所に、アルム様のような心休まるお方のおそばに置いていただき、仕えさせていただきたかった。イザンカの騎士たちを殺した罪滅ぼしをしたかった。ですから!」
「あー、なんか色々あるみたいだけど、マリーはマリーだよ。何時も僕の面倒を見てくれるお姉さんだもんね? これからもよろしくね!」
私にしてみれば、そんな事は些細な事だ。
誰だって何かしらの問題はある。
そしてそれがあるからと言ってその人自身が変わる事は無い。
だから私にとってマリーはマリーで、この五年間ずっと一緒にいてくれた親友のようなも。
前世の私とだったら、きっと仲の良い友人になれたと思う。
「アルム様!」
抱きっ!!
「むぎゅおっ!!」
私がそう言うとマリーは私に抱き着いて来た。
それも激しく、強く。
おかげでマリーの大きな胸に顔がうずまり呼吸が出来ない!!!!
「アルム様の為、私はこの命、いえ、魂も捧げます!!」
「もごもご……ぷはっ! だからマリー抱き着かないでってば! 息が出来なくなるんだってば!!」
まったく大げさな。
でもまぁ、マリーの事が少しわかった。
今まで気にはなっていたけど、マリーはマリー。
私の姉みたいなものだ。
「さて、それではジマの国の国王に会いに行こうか。マリーもいいな?」
「……はい」
アマディアス兄さんはそう言ってマリーに確認を取る。
何故国王に会うのにマリーに確認をするのだろう?
首をかしげながら私たちはアマディアス兄さんに着いて、王様に会いに行くのだった。
* * *
「よくぞ参られた、アマディアス殿」
「ヨテューン王に置かれましては益々のご健勝のこととお喜び申し上げます」
アマディアス兄さんはそう言って立ったまあではあるが、正式なお辞儀をしてジマの国王に挨拶をする。
そして私たちも同じく立ったまま挨拶をする。
「お初にお目にかかります、イザンカ王国第三王子、アルムエイドにございます」
「お初にお目にかかります、イザンカ国レッドゲイル領、マルクスが嫡男エイジ=エルグ・ミオ・ド・イザンカにございます」
私もエイジも礼儀にのっとった方法で挨拶をする。
エイジも一応王族の血縁者であるために立ったままの挨拶となる。
「小さいのに立派な挨拶だ。よくぞ来た、ジマの国はそなたらを歓迎する」
「「ははっ、ありがとうございます!」」
私とエイジは教えられている方通りの返答をしてさらに深く頭を下げる。
「さて、アマディアス殿、エラルドからもいろいろと話は聞いておる。ジマの国としては盟約に従い、友好国であるイザンカ王国を支援する立場に変わりはない」
「ははっ、ありがとうございます。我が父王に代わりまして御礼申し上げます」
うーん、いきなりその話を出すとは。
この国王様も大胆だね。
でもこれでアマディアス兄さんも余計な詮索は出来なくなったわけだ。
これってエラルド宰相の差し金かな??
「時に後ろに控えているそこの侍女よ、前に出て来てはくれぬか?」
ジマの国王は私たちとの形式的な挨拶が終わると、後ろで控えていたマリーに声をかける。
ちらっと見るとマリーは、意を決したように前に出てジマの国王の前で跪き、頭を下げながら言う。
「ご無沙汰しております、国王陛下…… いえ、伯父上。お変わりないようで」
「はっはっはっはっはっはっ、お前も元気そうで何よりだ。イザンカに厄介になっていると聞くが元気だったか?」
「はい、お陰様で我が一生を捧げるに値するお方に出会えました」
「ほう…… アマディアス殿が娶ってくれると言うのか?」
「いえ、我が生涯を捧げるはこちら、アルムエイド様にございます」
「ほう……」
マリーがジマの国の国王の姪!?
何それ、聞いてないんですけど!!
しかし、ジマの国王は私を見てニヤリと笑うのだった。
え、えーとぉ……
何なのよ一体!?
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