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第二章:ジマの国
2-2:ジマの国のお城
しおりを挟む翌朝、私たちは早めに出発をしていた。
「見えて来たな、あれがジマの国の街だ」
アマディアス兄さんは窓の外に見えるやはり小高い城壁を見ながらそう言う。
しかし、ここからでもわかる通り城壁の奥の方、北側の山肌にお城が立っている。
かなり古いお城の様で、うちのブルーゲイルのお城とどっこいどっこいだろうか?
そんな事を考えていると、検問の門まで来た。
「イザンカの方ですね? 連絡は来ております。どうぞお通りください」
衛兵たちはそう言ってビシッと左右に並んで略式の敬礼をする。
槍を胸の前で両手で持ち、やや浮かせて待機する。
そして私たちが通ると一斉に二回ほど槍を地面に打ちつけて音を鳴らす。
これがジマの国の略式の挨拶となるのだろう。
私たちの到来に街行く人たちも振り返る。
そして私たちの馬車はジマの国のお城へと向かう。
「へぇ~他の国の人たちって初めて見たけど、この国の衣服ってちょっと変わってるな?」
「前とじの服かぁ、『和服』みたいだね」
「わふく?」
私の一部日本語にエイジは首をかしげるもそれ以上は疑問に思っていなようだ。
門の近くにいる人たちは見た感じが和服っぽい。
浴衣のような感じの衣服が多く、たまに動きやすさ重視なのだろうズボンのようなものを穿いている人もいる。
意外とカラフルな衣服が多くて、その上から更にローブを羽織ったり、簡易鎧をつけている人たちもいる。
住民はやはり和服っぽいのが多くて、たまに貫頭衣みたいなのもいるけど、おおよそ浴衣のようにあでやかな服装が多い。
まだ午前の時間のせいか、路上には多くの露店が出ていて、新鮮そうな魚が並んでいる。
見た感じ、海魚っぽい。
「アルム、あれ見ろよ! クラーケンのちっちゃいやつだ!!」
エイジに言われて見ると、タコみたいのが茹で釜から引き上げられている所だった。
うわぁ~、本当にタコっぽい。
「ジマの国は海産物が豊富だからな、日常的に海産物を食べているらしい」
「海があるんですよね、アマディアス兄さん」
「ああ、東には漁港があるらしい。そこで毎日新鮮な魚が水揚げされていると聞く」
街並みを見る限り結構豊かそうだ。
野菜や肉はもちろんあるけど、圧倒的に魚などが多い。
このイージム大陸では街の規模とかはそうそう簡単には拡大できない。
理由は二つ。
一つは外敵から守るべき場所を拡大するのが容易でないからだ。
つまり外壁を拡大するには相当の労力と予算が必要となる。
もう一つが食糧事情。
畑も家畜も何も基本的には城壁の内部でやるしかない。
もし壁の外でそんな事をしていたらすぐに魔物たちの餌食になってしまう。
だから食料は毎年ギリギリの生産しか出来ない。
結果人口もそれほど増やす事は出来ず、ガレント王国から高いお金を払って穀物の輸入などをしているのが現状だ。
ガレント王国はウェージム大陸にある世界最大の国家。
そして豊かな大地の恵みがある場所。
穀物の総生産は自国では消化できない程で、結果外国へ輸出するほどだ。
「世界の穀物庫」と呼ばれ、そしてあの国には富が集まる。
「そう言う意味でもこの国は強いのかもしれんな……」
アマディアス兄さんは街の露店を見ながらそう言う。
確かに食糧問題一つとってもこのイージム大陸では重要な問題だ。
もともと土地も痩せているから作物の出来はそれ程良くはない。
この約千年間で、土地の改良などを指示した魔導士の人がいたらしいけど、元が元だから多少の改善でとどまっているとかエマニエルさんから教わっていた。
うーん、そう言えばうちのお城でも恰幅の良い人あまり見ないな。
海産物かぁ。
これで白いお米があれば最高なんだけどなぁ~。
生前の和食を思い出しちょっとよだれが出て来る。
こっちの世界に転生して、流石にこちらの食べ物には慣れたけど、正直生前の世界には劣る。
それは仕方ない事とあきらめてはいたけど、これだけ新鮮な魚があるならせめて塩焼きで食べたい。
欲を言えば醤油が欲しい!
そう、思っていたがやがて馬車はお城の門へ着く。
着くのだが……
「イザンカ王国が第一王子アマディアス様及び第三王子アルムエイド様、お招きにあずかり、参上いたしました」
ジマの国のお城の門番に対して、護衛の隊長がそう名乗りを上げると、すぐに門衛たちが出てきて左右に並ぶ。
そして赤いじゅうたんが馬車の元まで引かれ、エラルド宰相自ら出迎えに出て来た。
「お待ちしておりましたぞ、アマディアス殿下、アルムエイド殿下。ようこそお越しくださった。どうぞこちらへ」
「お招きいただき感謝いたします、エラルド宰相が自ら出迎えていただけるとは光栄ですな」
「なに、今は私も暇でしてね。これくらいの事はさせていただかないと」
そう言って二人して笑い始める。
笑っているけど、なんか目が笑っていない。
エラルド宰相はそう言いながら私たちの先導して門をくぐり長い階段の前にまで来る。
「アマディアス殿下は既にご存じでしょうが、こればかりはどうしようもない。ご覚悟よろしいですかな?」
「ええ、こればかりは試練のようなものと考えております故」
そう言ってエラルド宰相について階段を上り始める。
私もエイジも顔を見合わせ、長い階段を見上げる。
まぁ、階段位は仕方ないか。
そう思って私たちはアマディアス兄さんたちに着いてゆくのだった。
* * *
「い、今は何個目でしたかな、ぜーはーぜーはー」
「はい、今ので六個目です。次の詰め所で一休み入れましょう」
アマディアス兄さんは肩で息をしている。
勿論私たちもだ。
正直きつい。
なんでお城に行くまでにこんなに長い階段を延々と登らなきゃならないの!?
「アルム様、大丈夫でしょうか? そろそろ私がおぶりましょうか?」
「い、いや、まだ大丈夫、ぜーはーぜーはー」
「こ、これ、まだ半分もあるのかよ、ぜーはーぜーは―」
涼しい顔しているマリー。
さっき説明を受けたけど、ジマの国は城を守るためにわざと断崖絶壁の山の斜面に城が作られたらしい。
そして城に行くまでには十二の詰め所を通らなければならない。
各詰所には城を守るための金色の鎧をまとった十二人の戦士たちがいたとかいないとか聞いたけど、そんな事はこの際どうでもいい。
問題はこの長い階段がまだ半分も続くと言う事だ!!
「申し訳ございませんな。なにせ一度は滅びかけた国の為、城への防備はこれを続けるしかありませんでな」
「い、いえ、理解はします。ぜーはーぜーは―」
エラルドさんはやはりマリーと同じく涼しい顔でそう言う。
多分、しょっちゅうこの階段を上り下りしているのだろう。
鍛え方が違うと言うのか!?
「まったく、騎士見習の頃は毎日この階段を荷物を背負わされて何度も登らされたものです」
マリーはそう言って嫌そうな顔をする。
いや分かる。
分かり過ぎる!!
城を守るためにこう言う構造になっていて、ここしか道が無いってのも!!
でもなんかもっといい方法ないの!?
「あ、あの、【念動魔法】使っちゃだめですか?」
私は思わずエラルドさんに聞いてしまった。
するとエラルドさんはにっこりと笑って言う。
「どうぞご自由に」
「やった! それじゃぁアマディアス兄さん、エイジ行くよ!!」
許可が出た!
私は階段の上を見る。
まだまだ先は長いが、魔法を使って良いって言うのだから遠慮する必要はない!!
後ろから荷物を持ってヒーハーヒーハー言っている護衛の人たち含め私は対象人員を確認する。
そして遠慮なく魔力解放してここに居る全員を【念動魔法】で持ち上げる。
「なっ!?」
エラルドさんが驚くも、私はすぐに階段の見える先に皆を移動させる。
「うぉ、こりゃらくだ!」
エイジは私が念動魔法を使ったのに気付き、喜んでいる。
そして護衛の人たち含め驚きの声が上がるも、もう私たちは階段の一番上にまで移動していた。
「さて、次の場所へみんなを移動させますね!」
私はにっこりとしながらそう言うと、エラルドさんは驚いた顔のまま言う。
「いやこれは驚いた。荷物か自分だけ【念動魔法】で動かすとばかり思ってましたぞ」
「エラルド殿、貴殿は我が弟のこう言う所が見たかったのではないですか?」
「いやはや、これは想定外ですよ」
アマディアス兄さんと何か言っている様だけど、私はちゃっちゃとこの階段をみんなを連れて登ってゆくのだった。
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