31 / 76
第一章:転生
1-30:ユエバの町
しおりを挟むイザンカ王国領、ユエバの町。
ここは古くからイザンカ王国とドドス共和国、そして東にはジマの小国への中継点の町として知られている。
そして場所的にどの国の街にも向かえる冒険者が集まる冒険者の町とも言われている。
と、エマニエルさんには教わっていた。
私は城からは初めて出たので知識はあるけど現物は初めて見るものばかり。
見えてきたユエバの町は、首都ブルーゲイルの街同様に高い壁で囲まれた場所だった。
噂では百年程前に一旦町が破壊され、教会の鐘突き堂以外は瓦礫の山になったと言う話だが、いつの間にか元に戻っていたと言う訳の分からない状況もあったらしい。
町を瓦礫にする程の災害だか何だかの時には住民はこの近くにある世界最大の迷宮に逃げ込んでいたとか。
迷宮はあの黒龍の住処とも言われていて、黒龍はその最下層に通常は住んでいるらしい。
なのでその時は住民たちは黒龍の庇護を受けたとか。
うーん訳の分からん話だこと。
「まったく、邪魔です!」
「なんニャこの雑魚どもわニャ!」
「くっくっくっくっくっ、我が主様のお通りです、頭が高いですよ!」
ユエバの町の防壁近くに集まっている魔物たちがあの三人に吹き飛ばされていた。
「これ、町のもう一つの問題も片付いちゃったわね……」
「おいアルム! 前から気になってたんだがお前んとこのあの従者って一体何っ!?」
同じく馬車に乗っていたカリナさんとエイジがこちらに向かって聞いてくるも、正直には話せない。
あの三人の力は正しく規格外だ。
多分、あの三人で国の軍隊に匹敵するのでは?
私が回答に言い淀んでいると、アマディアス兄さんが助け舟を出してくれる。
「あの三人は我が国の精鋭部隊の者だ」
「いや、アマディアス兄ちゃん、それでも何百匹もいるゴブリンやオーク、コボルトにときたま混じってる他の魔獣も一緒にふっ飛ばしているんだけど!?」
「精鋭だからな」
「言い切った!?」
あくまでも精鋭部隊の者と言い切るアマディアス兄さん。
これ、ある意味開き直ってない?
まぁ、本当の事は言えないけど……
「マリーのやつ、また強くなってる…… 流石『ブラッドマリー』の異名は健在ね」
「ブラッドマリー!? 何ですかそれ!?」
カリナさんが言う物騒な二つ名に思わず聞き返してしまった。
するとカリナさんは意外そうな顔してこちらを見ながら話し始める。
「マリーは昔ユエバの町で冒険者やっていたのは知ってる? その時に前衛を任せると対象物を必ず血祭りにあげると言う強さを誇ったの。それでついたあだ名が『ブラッドマリー』、毎回返り血であの銀の髪の毛を真っ赤に染めていたっけ」
何それこわっ!
マリーは現在二十二歳。
私の専属としてこの五年間よく仕えてくれている。
……ちょっと待て。
確かお母様の所に来て、私がすぐ生まれてそれからずっと私専属になっていたって事は、冒険者の頃って十六、七歳?
その前にはジマの国にいたらしいから、マリーって一体……
「あの、そうするとマリーって冒険者の時って成人したばかり位だったんですか?」
「ああ、そう言えばそうかもね。人族ってすぐに年取るから細かい事は覚えてないけど、今の彼女はあの時より強くなってるわね。返り血であの銀の髪の毛を染める事がなくなってるもんね」
そう言ってカリナさんはなんか楽しそうにする。
私もつられて外を見ると、あの三人の中でマリーもなぎなたを振ってばったばったと魔物たちを処理していた。
確かにその姿は返り血を一滴もうけてはいなかった。
マリーさん、あなたって一体……
そんなこんなでユエバの町のもう一つの懸念事項だった、町周辺の魔物一掃が終わった。
私たちはカリナさんの先導でユエバの町に入るのだった。
* * * * *
町中は至って普通のものだった。
私のいるブルーゲイルは魔道具による街の整備が進んでいたが、ここユエバの町はそうではなかった。
何と言うか、ファンタジーの世界の町そのもの。
町並みも道路とかは地面がむき出しのままだった。
「おおっ! 外部から来訪者だ!!」
「じゃぁ、魔物たちはどこかへ行ったのか?」
「商業ギルドに連絡しろ!!」
町の城門を開いてもらって中に入るとそこにいた人びとが騒ぎになる。
どうやら魔物が大量に発生して町に閉じ込められていたようだ。
「カリナさん、もしかして今までユエバの町って出入りが出来なかったの?」
「ええ、大体三、四日前くらいからね。いくら弱い魔物でも数があれだけいたら冒険者で掃討するのは厳しかったからね。なので金等級である私が様子を見に出てたのよ」
そう言って薄い胸を張る。
エルフ族はその身体特徴的にスレンダーな種族だとか。
確かにカリナさんもそうだった。
その代わり身軽で魔力量が多く、精霊魔法の使い手ばかりだと聞く。
ちなみに、この世界には大きく分けて三つの魔法系統が存在する。
一つが私が得意とする魔法。
これは基本的には古代から連なる魔法を指し、女神様の御業の秘密を人に伝えたものとされる。
呪文や魔法陣の助力を使って魔法を発動させるやつだ。
生活魔法もこれに入る。
二つ目が精霊魔法。
これは先のエルフ族が得意として、精霊にエルフ語で呼びかけて魔力を代価に力の行使をするものらしい。
なので普通の魔術師には扱えない。
というか、まずはエルフ語が分かって精霊との交信をしなければならない。
精霊に気に入られないと精霊は呼びかけに答えず、結果魔法が使えない状態になると言う。
それと面倒なのが四大精霊と呼ばれる、土、水、火、風の精霊たちはその媒体が無いと存在できないので、例えば水の無い場所では水の精霊が使えない。
なので、精霊使いは水筒を持ち歩くとか。
三つ目が神聖魔法。
これは主に教会などの僧侶たちが使う魔法で、傷を癒したり病気を治したりする魔法で、凄いやつだと投入する魔力量によって失った手足まで再生できるとか。
ただ、この神聖魔法って今の女神様じゃない古い女神様からの恩恵らしく、その辺は「今までこうだったから!」的な感じであまり深く考えてはダメらしい。
それに疑問を持った瞬間、神聖魔法が使えなくなると言うなんとも皮肉な魔法らしい。
研究者の中には、「思い込みで魔法使ってんじゃね?」とか、「結局古代魔法と同じで呪文さえ分かれば普通の魔術師でも使えるんじゃね?」とか言われている。
確かに簡単な【回復魔法】と僧侶が使う【癒しの奇跡】の効果はほとんど同じ。
呼称が違うだけとも言われている。
さて、そんな事を思い出しながらいると、馬車はカリナさんの指示で大きな建物の前で止まった。
そしてカリナさんが馬車のみんなに声をかける。
「着いたわよ。ここがユエバの町の冒険者ギルドよ」
私たちは冒険者ギルドのへと入ってゆくのだった。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる