上 下
22 / 75
第一章:転生

1-21:兄の指導

しおりを挟む

 私を襲った刺客がジマの国の意向で無いことが分かった時点で、その対応が変わって来ていた。


「そうすると、アマディアス兄さんはしばらく忙しくなるって事?」

「ああ、そうだ。だからお前には専属の家庭教師をつける事にした。まずは今まで通り礼儀作法から始まり、魔道以外の事も学んでもらおう。そして落ち着いた頃には私と一緒に城外に出て民の様子も見て回ろう」

 一緒に朝食を取りながらアマディアス兄さんはそう言ってくる。
 まぁ、警備やら何やらと任されていた兄さんだ、このあいだの問題でさらに忙しくなるのは仕方ない。
 それに「草」と呼ばれる密偵たちもジマの国から引き上げているらしいし、更にその「草」たちに他の事を色々指示もしているようだ。
 たまにジマの国の事でマリーとも話もしているし。

 私は頷き答える。


「分かりました。それでその先生は何時から?」

「既に呼んである。食事が終わったら私の執務室へ来なさい」

 そう言ってアマディアス兄さんは先に席を立つ。
 私は残りの朝ごはんを急いで食べるのだった。


 * * *


 アマディアス兄さんの執務室へ行って扉を叩く。
 何故かマリーはじめカルミナさんやアビスも一緒だった。


 コンコン  


「アマディアス兄様、アルムエイドです」

「入れ」

 
 扉をノックして声をかけると、アマディアス兄さんに入室を許可される。
 扉を開き、中に入ると一人の女性が執務机の前にいた。


「紹介しよう、教育係のエマニエルだ。彼女はイザンカ王国の貴族令嬢だが、魔法学園ボヘーミャの首席卒業者でもある。宮廷魔術師のドボルゲルクは公務に忙しくなるから今後は魔術に関しても彼女が指導をする」

 アマディアス兄さんがそう言うと、エマニエルさんと言う女性は胸に手を当て、膝を軽く沈ませて挨拶をしてくる。
 これは貴族の女性の略式の挨拶だ。


「エマニエル=ラダ・ユニウスと申します。本日よりアルムエイド様の教育係を賜たわりました。どうぞよろしくお願い致します」

「アルムエイドです。よろしくお願いします」

 黒に近い深い藍色の長い髪の毛を頭上に巻きつけ、すっとこちらを見る。
 美人さんだけど、才女なのだろう目つきが鋭い。
 動きやすいロングスカートだけど、その立ち回りはなんかマリーを思い起こさせる。
 何と言うか、隙が無いと言うか。


「それでは早速頼むぞ、エマニエル」

「はい、私めにお任せを」

 エマニエルさんはそう言ってアマディアス兄さんに頭を下げてから私を見て言う。


「それでは早速アルムエイド様の現状をお教えください」

「現状ですか? えーと、とりあえず魔導書は読めるくらいには。それと古代魔法王国の上位言語、コモン語、下位言語は習得しています。それと魔法の方は……」

 手をかざし、そこに魔力を掻き集める。
 そしてイメージをして小さな炎を作ろうとするのだが……


 ごうぅっ!


 手のひらの上に何故か【火球】ファイアーボールが出現する。
 本当はそれこそマッチの火のイメージなのに……


「ここれは火炎魔法、【火球】ファイアーボール!? アルムエイド様、いつ詠唱を?」

「いやぁ、ほら、生活魔法の【点火】魔法のつもりだったんですが……簡単な魔法なら呪文唱えなくても出来ますよね?」

 しまった、何時もの癖で詠唱を端折った。
 でも生活魔法の【点火】の呪文なんてたったの三つの言葉の組み合わせ。
 それくらいなら……


「まさか、無詠唱魔法っ!?」

「アルム、それは本当か!?」


 しまったぁ……
 アマディアス兄さんにもバレた。

 私は仕方なく、乾いた笑いをしながら言う。


「ぐ、偶然ですよ。短い呪文なら早口で言えるし、心の中で先に詠唱してますから。あはっ、あははははっはっ!」

 しかしアマディアス兄さんとエマニエルさんは驚いた表情のままだ。


「魔力漏れをしているのは知っていたが、まさか無詠唱魔法が使えるとは……」

「何と言う事でしょう。十万人に一人、いえ百万に一人と言われる魔法の才覚。こ、これは……」


 あ、あれ? 
 アマディアス兄さんとエマニエルさんの私を見る目が変わった??


「エマニエル、アルムは」

「はい、間違いなく天才です!! ああっ、アルムエイド様。私はあなた様の教育係としてとても幸せです。無詠唱魔法が出来、そのお年で古代魔法王国の文字どころか三つの言語に精通しているとは!! 分かりました。アルムエイド様の教育方針は最上級のモノに組み替えさせていただきます! 我がイザンカの始祖、魔法王ガーベルの再来とは正しくアルムエイド様の事です!!」


 えーと、エマニエルさん?
 なんか変なスイッチ入ってませんか??


「くっくっくっくっくっ、我が主ほどのお方であれば当然。既に魔道の極みすら習得したも同然のお方」

「アルムって、魔力すごいだけじゃニャいニャ? そう言えばあたしが話す下級言語も分かっているニャ」

「猫は言葉遣いをもう少しよくしなさい。アルム様の従者として恥ずかしい」


 なんか後ろでみんなが言っている。
 そう言うのはやめてほしいんだけど……


「アルムよ、お前を見誤った。無詠唱魔法など我が王族では初めてだ。まさしく魔法王ガーベルの再来。兄は嬉しいぞ!!」

 何とアマディアス兄さんは椅子から立ち上がり、こちらにまで来て私に抱き着く。


 だきっ♡


 わふっ!
 これ何のご褒美!?

 うわ~、アマディアス兄様ぁ~♡


「アルムいいニャぁ~。あたしもアマディアス様とイチャイチャしたいニャ」

「猫は欲望を駄々洩れしない。私だってアルム様を抱っこしたいです……」

「くっくっくっくっ、我が主よ、必要であれば人間の座布団をいくらでも御用意いたしますぞ?」


 ちょおっと待ちなさい、あなたたち。
 特に最後のアビス!
 人がアマディアス兄様に抱っこされて至福の時を感じているのに!!


「アルムよ、早速この事は父上に報告しよう。我が王家からとうとう無詠唱魔法の使い手が生まれ出たのだ!」

「あ、アマディアス兄さん……」


 ひとしきり抱き着いていたアマディアス兄さんはそう言ってさっさと執務室を出て父王の元へ行ってしまった。
 出来ればもう少し抱っこされて兄様の香りをくんかくんかしたかったのにぃ~。



「ふふふふふふ、これは楽しくなってまいりましたね。アルムエイド様、早速お勉強を始めましょう!!」


 エマニエルさんはそう言って極上の笑みを浮かべるのだった。





 え、えぇとぉ……   
 ちょっと困惑する私だったのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

処理中です...