16 / 76
第一章:転生
1-15:獣人カルミナ
しおりを挟む「だから、あたしは使い魔じゃないニャっ!!」
召喚魔法陣から現れたのは年の頃エシュリナーゼ姉さんと同じくらいの獣人の女の子だった。
本来召喚魔法で人や亜人の召喚は出来ないはず。
なのに投入魔力量の多さで呼び出したのは目の前にいる猫の獣人。
金色の長い髪の毛に、アホ毛が頭頂部で揺れている。
お約束の頭上には猫の耳があって、腰の後ろからは尻尾が生えている。
ぴったりとした動きやすそうな衣服でスタイルはかなり良く、エシュリナーゼ姉さんより胸も大きい。
と言うか、全体的にエシュリナーゼ姉さんより大きい。
多分百六十センチは超えているだろう。
美人だけど、勝気な表情でややも釣り目。
まだ幼さが残る顔だが、どちらかと言うと悪ガキが大人になったような感じ。
「でもあなたは私の召喚魔法でここへ来たのよ? と言う事は私の魔力に引き寄せられてきたのだから、使い魔として私と契約して私の役に立ちなさい!」
「だからお前の使い魔じゃないって言ってるのニャっ!」
先ほどから話がかみ合わない。
私はため息を吐きながら彼女に聞く。
「えっと、初めまして。僕はアルムエイド。そっちは僕の姉でエシュリナーゼ姉さん。こっちはお付きのマリー。で、あなたは名前は?」
「ん? なんニャこのガキはニャ? んニャ、これはニャ??」
ぴくっ!
「がぁきぃ?」
私がとりあえず友好的に話をしようとしたら、大手企業の若い社員の様に横柄に私を見下すのでマリーが反応した。
「マリー、まてっ! 落ち着いて!!」
どこからともなくなぎなたを持ち出したマリーを制して、私はもう一度彼女に聞く。
「ここはイザンカ王国のイザンカ城。僕たちは訳あって優秀な使い魔の召喚をしていたの。そうしたらあなたが呼び出された。通常、人や亜人が召喚魔法で呼び出される事は無いはずなのに、なぜあなたが呼び出されたかを教えてほしいんだ」
マリーの腰に抱き着いて苛立つマリーを押さえつけながらそう聞くと、彼女はため息を吐きながら話始める。
「あたしはカルミナって言うニャ。ノージム大陸の獣人の村の戦士ニャ。ルド王国の遺跡にもぐっていて転移魔法の罠にかかって亜空間に飛ばされたところで、魔力の触手が伸びてきてこれ幸いと掴んだニャ」
言いながら腕を組んで周りをきょろきょろ見渡している。
転移魔法の罠って、魔法王国時代の遺跡辺りにあるかなり厄介な罠って本に書いてあったけど、ルド王国?
「ノージム大陸の獣人の村って…… それにルド王国の遺跡って、あそこって確か『狂気の巨人』が封じられていた滅びた王国よね? そんな所にまだ遺跡が残っていたの??」
「ふふ~ん、だからニャ! 獣人の村一番のこのあたしがその遺跡のお宝をゲットする為に未調査の遺跡に先行して進んでやったニャ!」
エシュリナーゼ姉さんが少し驚いたように聞くと、カルミナと名乗った獣人の女性は腰に手をつき、大きな胸を張りだすように言い放つ。
「ふん、大方駆け出しの冒険者か何かですね? 転移魔法の罠など、熟練の冒険者であれば簡単に見つける事が出来ます。どうせ手前にあった宝箱か何かに釣られて不用心に進んだ結果でしょう」
「ぐっ、そ、それはニャ……」
マリーはとりあえずなぎなたを収め、私を抱き上げながら頬ずりしてそんな事言っている。
すぐにエシュリナーゼ姉さんがマリーから私を引っ張り奪い取るけど、マリーのその言葉にカルミナさんは目線が泳ぐ。
「こ、これでも銅等級の星二つニャ! もうじき銀等級ニャっ!!」
「銅ぅ~? ふっ、その程度ですか!」
マリーは名残惜しそうに私を奪い取られてこちらを見ているも、カルミナさんに言われてそちらに顔を向ける。
そして胸元に手を突っ込んで、大きな胸の間からプレートのペンダントを引っ張り出す!
「銅などごまんといる等級! せめて私の様に金になってからモノを言う事です!!」
そう言って引っ張り出したマリーのペンダントは金色。
しかも星が二つも刻印されている。
「き、金等級の星二つぅっニャッ!!」
それを見たカルミナさん大いに驚く。
そういえば、マリーも昔は冒険者をやっていたとか。
冒険者は冒険者ギルドに登録するとああ云う風にランクが分かるプレートを渡される。
プレートにはその人の情報が記載されていて、何かの場合そのプレートだけは回収されてその冒険者がどうなったかは分かるようになっている。
「マリーも冒険者って聞いてたけど、金等級ってすごいの?」
「金等級……銅、銀、金のランクがあって、各ランクには無星から始まり星三つまでが最高。星三つまで行と上の色のランクへ昇格。マリーの金等級は星あと一つで満杯ね? と言う事は実質冒険者としては最強と言っても過言では無いわね」
エシュリナーゼ姉さんは私を抱っこしたままそう言う。
つまりマリーは冒険者の中でも最強の部類と言う事か?
「これでわかりましたか猫。さあ、アルム様の御前です、頭を床にこすり付けてひれ伏すがいい!!」
マリーにそう言われ、カルミナさんはタジタジを数歩後ずさりはするものの、虚勢を張って反論する。
「召喚魔法のお陰で亜空間から出られたのは感謝するニャ。しかしそんなガキに使い魔とされるのは御免ニャっ!!」
「はぁ? あなたを呼び出したのは私よ? 何でアルムの使い魔になるのよ?」
カルミナさんはエシュリナーゼ姉さんでなく、私の使い魔となる事を拒否するって?
いや、呼び出したのはエシュリナーゼ姉さんのはずなのに??
「だって、この魔力の触手の出元はそこにいるガキニャよ?」
そう言って自分の胸を指さすけど特に何も見えない。
いや、でもこの感じは……
「エシュリナーゼ姉さんに流し込んだ僕の魔力痕?」
「え? じゃぁ、あなたを呼び寄せた魔力ってアルムの!?」
「そうにゃ! だからあたしはお前の使い魔じゃないニャ! でもガキの使い魔になるのは嫌ニャっ! どうせならイケメンのお金持ちの旦那様なら身も心も捧げてもいいけどニャ!!」
そう言って頬を赤らませて両の手を頬に当てて腰をくねくねと揺らす。
いや、旦那様って……
「騒がしい、一体何をやっているんだエシュリナーゼ?」
と、ここでアマディアス兄さんがやって来た。
「ここから莫大な魔力が漏れ出ていると聞いたぞ? 一体何をやっているんだエシュリナーゼ…… 何者だそいつは?」
「び、美形ニャぁーっ!!!!」
どうやら召喚魔法を使って、私の膨大な魔力が漏れ出して少し騒ぎになったのだろう。
エシュリナーゼ姉さんのこの部屋からと言うのに気付いて、忙しいアマディアス兄さんが直接様子を見に来たららしい。
「アマディアスお兄様、召喚魔法で引っ掛かった獣人の娘です。どうやらアルムの魔力に引っかかったようで、アルムの使い魔には出来そうなんですが……」
「呼び出したのはエシュリナーゼだが、魔力がアルムと言う事は、魔力供給者はアルムと言う事か。だとすれば契約はアルムとしか出来ないと成る訳か……」
アマディアス兄さんも魔術師としては博識。
宮廷魔術師にも劣らぬ知識を持っているけど、父王の補佐をする事が最近は多くなっていて政治の方面で忙しい。
「亜人が召喚されたと言う例は聞いた事がないが、契約が出来なければ元居た場所に返されるのが召喚魔法。どこにいたかは知らぬがそこの者、元居た場所に戻るか? それとも我が弟、アルムの従者として使えるか? 獣人の能力は護衛に適している。主従関係を結べば下手な者をつけるより安心はできる。どうだ獣人の娘よ、アルムの為に仕えてはくれぬか?」
そう言ってアマディアス兄さんはそっとカルミナさんの手を取り、ぐっと近づく。
しっかりと周りに薔薇のキラキラエフェクトをつけて!
「そ、そんなニャ////////」
「君の様な能力のありそうな者が我が弟の為に仕えてくれるなら、私も安心が出来るというモノだ。どうかな?」
ぐいっ!
アマディアス兄さんはそう言ってもう一つの手をカルミナさんの腰に回し、グイっと引き寄せる。
この時点でカルミナさんの顔は緩み切っていて、真っ赤になっている。
その瞳はウルウルとして、アマディアス兄さんの目をじっと見つめている。
……これ、落ちたな。
アマディアス兄さんは周りの女官からもとても人気が高い。
もちろん貴族令嬢たちからも。
しかし、何時もクールに立ち回っていて女性たちには一定の距離を保つように接している。
それがここまで押して来るとは!!
「わ、分かったニャ。契約でも何でもするニャ////////」
「うむ、では誓いの口づけを」
アマディアス兄さんはそう言って更にカルミナさんを引っ張りよせると、カルミナさんは何かに期待したように目を閉じ、唇を突き出す。
それを見たアマディアス兄さんは口元だけを二っと笑いに歪ませ、私の首根っこを掴みひょいっとカルミナさんの顔の前に持ってくる。
ぶっちゅぅ~っ!
「ええぇっ!?」
「んちゅ~♡ 私の旦那様ぁ~ニャ♡」
しかし、カルミナさんがキスしたのは私の頬だった。
と、その瞬間、私とカルミナさんが輝き出して、私から延びる魔力の触手見えるようになって、それが輝くを失いながらカルミナさんに向かって消えて行く。
「ふむ、これで契約は完了だ。獣人の娘よ、我が弟の盾となり剣となれ。その生涯我が弟の為に使うがよい!!」
「へっニャ?」
そうアマディアス兄さんに言われ驚き目を見開くカルミナさん。
慌てて私から離れ、急いで胸元を開く。
ぶるんと双丘の谷間が見えて、その左胸の上に刻印があった。
「あ”あ”ぁ”-ニャっ!! 契約の刻印ニャぁッ!!!!」
「あーあ、私が呼び出したのにアルムの使い魔になっちゃった。でもまぁ、獣人ならその能力は確実だからまあいいか」
「アルム様、アルム様には私と言う者があると言うのに……こうなったら新参者を徹底的にアルム様に従うよう教育をするまでです!!」
「うむ、これで下手な護衛より信用できる護衛が出来たな。アルムよ、その娘も今日よりお前の護衛につける」
悲鳴を上げるカルミナさん。
あきらめのため息を吐くエシュリナーゼ姉さん。
イラつくマリー。
そして、何故か悪い笑顔をするアマディアス兄さん。
私はカルミナさんを見ながら思う。
また厄介事が増えたのではと……
11
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる