上 下
9 / 110
第一章:転生

1-8:襲撃

しおりを挟む

「やっと来たか、アルム! さあ、お前の魔法を見せてくれ!!」

 
 誕生日会の挨拶をやっと受け終わり、しばし談話となったので休憩と言って私は中庭に来ている。
 そこで待っていたのはいとこのエイジ。
 彼に呼び出され、私は疲れてはいたけどやって来たのだ。


「魔法を見せろって、何をすればいいのかな?」

「そうだな、あまり派手だとまた親父殿に怒られるから、水生成魔法をやってくれよ」

 水の生成魔法かぁ。
 基本中の基本で、この世界の人なら誰でも呪文を唱え集中すれば使える生活魔法と言うやつだ。
 最初の頃、私もこう言った生活魔法を宮廷魔術師に習った。
 
 この世界が技術的に進歩しにくい理由はこう言った基本の所で魔法が便利に代行しているかららしい。
 生活魔法は基本生活の中で特に重要視されるいくつかの魔法の事を示す。
 水生成魔法、着火魔法、明りの魔法、そして軽いものを動かす念動魔法がそれにあたる。

 エイジの言う水生成魔法はその中の一つ、たとえ砂漠でもこの魔法さえ知っていれば水には困らない魔法だ。


「ん、じゃぁそこの噴水に【水生成魔法】してみるね」

 私は言いながら手の平を噴水に向けて水生成魔法を発動させる。
 私の場合、イメージしてそこへ魔力を送り込めばその魔法は発動する。

 程無く噴水の上に噴水の大きさを凌駕する水の玉が浮かび上がる。


「へっ?」


 エイジが間の抜けた声をあげると同時にその水の塊が噴水に落ちて、一気にあふれ出す。
 中庭一面にあふれ出た水が流れ出し、排水溝へ次々と向かって流れだす。


「ちょ、ちょちょちょちょちょマテぇっ!! アルムお前なにしたぁっ!?」

「え? 【水生成魔法】を使っただけなんだけど??」


 バシャバシャとくるぶしまで水に濡れたままエイジは私の所までやって来てガシッと肩を掴む。
 うーん、後十年もしたらこのシュチュエーションはなかなかなのだけど、いくら美少年でも今はまだね。


「どう言う事だよ!! お前呪文も唱えずにしかもあんなデカい水の塊作り出すだなんて!!」

「え~あ~、あれでもかなり魔力しぼってはいるんだけど……」


 そう、これが今の私の問題点。
 魔法が使えるのは楽しくていろいろ学んでいるけど、試して使うと力加減が出来ず必ず目的の数段上のレベルの魔法になってしまう。
 込める魔力を極限に押さえてもあれだ。
 普通の【水生成魔法】は、一回につきコップ一杯程度の水しか生成できないらしい。  
 だからこそ一般生活魔法として役には立つ者の脅威にはならない。
 着火魔法だって、釜戸に火をつけたり、たばこの先端に火をつけるくらいの威力しか出せない。

 今私が出した水生成魔法は、宮廷魔術師に言わせれば【水の壁】ウォーターウォールと言う防御系魔法の上級レベルらしい。


「あ、ありえねぇ…… いくらイザンカ王家血を引いててもここまでだなんて、ありえねぇっ!!」

 少し涙目のエイジ。
 何そこまで興奮しているのかしら?




『まったく、末恐ろしい子供だ……やはり今のうちに消しておくべきだな!』


 しかし涙目のエイジに揺さぶられていると聞いた事のないくぐもった声がして首元に冷たい空気が忍び寄る。


 
 がっきーんッ!



 が、すぐにそれは甲高い音に弾かれる。


「アルム様!」


「え? マリー??」

 見ればマリーがなぎなたを構えて私のすぐ後ろにいた。
 

『ほう、あれを防ぐか? 貴様ただのお着きではないな??』

「アルム様に手出しをするとは恐れ多い! ただでは済みませんよ!!」


 そう言ってマリーはなぎなたの刃ですっとドレスのすそを切って、奇麗なすらっとした足をむき出しにする。
 なぎなたを構え、周囲を油断なく見渡し、向こうの茂みの方へと走り出す。


「はぁっ! 操魔剣なぎなた奥義、疾風!!」


 踏み込みの二歩目のマリーは常人のそれをはるかに凌駕した動きをした。
 まるで爆発したかのように二歩目が十数メートルの距離を縮め、茂みになぎなたを突き刺す。
 するとその突きにまるで風の渦が巻き付いているかの如く茂みを爆散させその後ろにいた黒装束の人物を弾き飛ばす。


『くっ、操魔剣だと!? 貴様、ジマの国の騎士かっ!?』

「ふっ、昔の話。今はアルム様専属メイドです!!」


 いや、マリーって私専属だったっけ?
 確かに色々お世話してもらっているけど……
 

「あれほど愛らしいアルム様に刃を向けるとは、貴様一体どこの者です!?」

『言うと思うか? だがっ!』


 そう言ってその黒装束は足元に何かを投げつけると、それが破裂してまばゆい光を放つ!


「くっ!」

『ここは引かせてもらう!』


 そう言って光が収まる頃にはその黒装束の姿は完全になくなっていた。

   
「逃がしたか…… アルム様、お怪我は有りませんか!?」

「あ~僕は大丈夫。それよりエイジが……」

 なんか一度にあったので内緒で防御魔法系の最上位、【絶対防壁】を展開していたのだけどマリーのお陰で不要だったみたい。
 でもエイジはあまりの事で腰を抜かしている。


「な、なんなんだ!? あれは一体!? それにその女、何モンなんだ!?」

「エイジ様、お騒がせ致しました。私はアルム様専属のメイドにございます」

「め、メイドぉ!? メイドがなんであんな戦闘できるんだよ!?」

「自衛のために鍛えておりましたので。ささ、アルム様ここはまだ危険やもしれません、どうぞ私の元へ♡」


 マリーはそう言って私を抱きしめる。
 相変わらず胸が大きいから抱き着かれるとその胸に顔がうずまって苦しい。


「ぷはっ! 僕は大丈夫だから放してよ!」

「いけません、まだ近くに刺客がいるやもしれません!! 私から絶対に離れませんように! 何なら今晩はベッドの中まで護衛いたします!!」

 何故そこで鼻息荒くなるマリーさん?
 いや、昔っから私の事面倒見てくれるのは嬉しいのだけど、最近さらに近くないですか?

 何となく姉たちと同じ雰囲気を醸し出すマリー。
 私はじたばたもがいているけど、騒ぎを感じた人たちがやって来た。


「どうなされましたか!?」

「賊がアルム様を狙いました、残念ながら逃げられました、すぐに追っ手を!!」

 こちらに来た衛兵にマリーは要点だけ言って私とエイジを引き連れて部屋の中へと行く。
 
 しかし、いきなり物騒な事に巻き込まれたけど、あの刺客って一体。
 私の事を『まったく、末恐ろしい子供だ……やはり今のうちに消しておくべきだな!』とか言ってたけど、あれって一体?


 私はまだまだ知らないことがいっぱいあるって事かしら?



 マリーに抱きかかえられたまま私はそんな事を考えるのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...