風来坊エルフの旅路~あの約束を果たす為に~

さいとう みさき

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第二章:変わりゆく世界

その十:ドワーフの国

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 イージム大陸。

 この世界にある四つある大陸の東の大陸。
 四つの中で一番小さな大陸だけど、一番過酷な大陸でもある。
 
 何故ならここは古い女神様の中で暗黒の女神様が倒れた場所。
 故にその魔素が溜まっている為に魔物が多い。
 

「ここがイージム大陸か!」

 イオタは船から久しぶりに大地に足をつけて元気にそう言う。
 かくいう私も、久しぶりに大地に足を着きほっとする。

「はぁ~、やっぱり精霊力の安定している大地はいいわぁ~。おかげで精霊酔いもすっかりと抜けるし」

「俺もそうだな。揺れる時は揺れるあれは流石にきつい。川や湖の船とは全く違うのだから」

 私もイオタも船上ではさんざんな目に遭った。
 多少は心構えはあったけど、やっぱり二人ともダメだった。

 しかしそんな苦しみも陸に上がればそれまでだった。


「んで、これからどうする?」

「ここアスラックの港町でギルドに行ってキャラバンの紹介をしてもらった方がいいわね。いくら金、銀等級でもこのイージム大陸ではきついのよ」

 私がそう言うとイオタは怪訝そうな顔をする。

「そりゃあ、湿地帯では後れを取ったけどちゃんとした陸地なら俺だって」

「そう言う問題じゃないの。ほらあそこを見て」

 私はそう言って町の外を指さす。
 そこには高い城壁があった。

「ここイージム大陸ではああやって町や村が全部防壁に囲まれているの。それはここで発生する魔物の数が尋常じゃないからよ。この辺の地理をよく知らない冒険者や商人が単独で旅をしていればすぐに強力な魔物の餌食よ?」

 イオタは私が指さすその城壁を見ている。

「かなり高い城壁だな…… あれじゃあ『鋼鉄の鎧騎士』でも簡単には乗り越えられそうにないほどの」

「そうね、どこもかしこも十メートル以上はある城壁で囲まれているのが普通だからね。だから出来ればキャラバンの商隊と一緒に移動した方がいいわね」

 事実ここでは魔物の量もさる事ながら、魔物自体も強いモノが多い。
 グリフォンの群れが普通に襲ってくる事もあるし、下手をしたら巨人族が襲ってくる事もある。
 なのでこのイージム大陸では原則移動はキャラバンなどの商隊と一緒か、情報をうまく取り入れ、魔物が少ないルートを選ぶしかない。

「サーナがそう言うならそうしよう」

「よし、じゃあまずは冒険者ギルドへ行きましょ」

 そう言って私たちは冒険者ギルドに向かうのだった。


 * * * * *


「ドワーフの国経由しかない?」

「ああ、そうだ。今の時期はグリフォンが南下してくる時期で繁殖期だからな。岩山のドワーフ王国経由でないと餌を求めるグリフォンの群れに襲われるからな」


 冒険者ギルドで次の目的地であるドドス共和国へ向かおうとしたら、直通のキャラバンが無いそうだ。
 しかもこの時期はグリフォンの繁殖期で、腹をすかせたグリフォンが群れで襲ってくるらしい。
 一匹でもかなり強力な魔物なのに、群れで来られてはいくら用心棒がいっぱいなキャラバンでもたまったもんじゃない。

「そうするとドワーフ王国経由かぁ……」

「ドワーフの王国かぁ、確か大洞窟に街が丸々一つ入っているって噂だよな? 面白そうな所だよな!」

 ドワーフ王国オムゾン。
 過去私も行った事あるけど、あそこもあそこで土の精霊力がやたらと強く、精霊酔いまではいかないけど結構きつい場所だった。

 そしてドワーフ族!

 あの頑固で人の話を全く聞かない連中にはイライラしてくる。
 当時パーティーを組んだことがあったドワーフでさえ、最後まで頑固で人の言う事を聞かないのは変わらなかった。


「私、ちょっとドワーフ苦手なんだけど……」

「しかしさ、ファイナス市長からもらった報酬はかなりあるから、出来ればこんな安物の剣でなくもっといい剣が欲しいよ」

 あの大蛇と共にイオタが持っていた剣はどこかに行ってしまって見つからなかった。
 なのでツエマの町で剣を買ったものの、あまりいい剣ではなくイオタは不満を漏らしていた。
 しかし、ドワーフの王国であればどんな店でも人族の武器屋で売っているものよりずっと良いものが手に入る。
 私は観念して、ため息一つイオタに言う。

「分かた分かった。どうあがいてもドワーフ王国経由しかキャラバンが無いのなら仕方ない。それで行きましょう」

「やった! 出来れば防具も新調したいな」

「道具だけ良くなったって駄目よ?」

「う”っ、そ、それは……」

 私は苦笑して言う。

「前々から思っていたのだけど、時間のある時は稽古の相手してあげようか? 私は一応これでも金等級なのよ?」

「サーナが? でもサーナは精霊使いだろ、俺は戦士だし」

「そう思うならちょっと試してみる?」

 私がそう言うとイオタはちょっとむっとした感じでいう。


「流石にサーナに剣で負ける気はしない!」

「言うわね、じゃあ試してみるかしら?」


 私とイオタがそういがみ合っていると、ギルドの中にいる連中が騒ぎ始める。
 既に賭けも始まっていて、ギルドの職員まで乗り気だ。
 まったく、イージム大陸は相変わらず血の気の多いのばかりだ。


「ほれ、エルフの嬢ちゃん使え!」

 どこの誰かは知らないけど、木刀を私に放り投げてきた。
 そしてイオタにも同じく木刀を投げる。

「それじゃあ、試してみましょうか?」

「おう、外出るぞ!」

 私とイオタはそう言ってギルドの外へ出る。
 すぐに面白がって周りに人だかりの円が出来る中、私とイオタは木刀を構える。


「さあ、金等級の力を見せてあげるわ!」

「剣なら負けない! 行くぞサーナ!!」


 イオタはそう言って一気に踏み込んできて私の胴を薙ぎ払おうとする。
 しかし、動きがあまりにも直線的。
 私はその軌道を読んで、先に回避をする。
 
 すると木刀を振り切ったイオタが私の予想外の動きにバランスを崩す。
 私はくるりと回ってイオタの背を取る。

「はい、後ろを取ったわよ?」

「くっ、まだまだぁっ!!」

 イオタは振り向きざまに木刀を振るけど、力を入れ過ぎて動きが大きい。
 これでは避けられた時にバランスを崩してしまう程だ。

 私はその攻撃をひらりとかわしながら、イオタの手に木刀を叩き入れる。


 バシッ!


「くっ!」


 から~ん!


 大ぶりの木刀をかいくぐり、振り抜かれた手を私に叩かれてイオタは木刀を落してしまった。
 そして私はイオタの顔の前に木刀の先端を突き付ける。


「うっ!」

「はい、私の勝ちぃ~♪」


 途端に周りから歓声が巻き起こる。
 イオタは悔しそうにしていたけど、素直に負けを認める。


「くっそぉ~、俺の負けだよ、あーちくしょう!!」

「だから言ったでしょ、私はこれでも一応は金等級だって」

 歓声の巻起こる中、私はイオタが落した木刀を拾い上げてそう言う。
 悔しそうにはしているけど、イオタは素直に今後私の稽古を受けることなった。

 そしてドワーフ王国へ出発するキャラバンに同行する事にして、出発までの一週間をここアスラックの町で過ごす事となるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 かんかんっ!

 ばっ!



「甘いっ!」
 

 
 ばしっ!


「くっ!」


 から~んッ!!


 あれから三日目、宿に泊まりながら時間のある時はイオタに稽古をつけて上げている。
 流石に戦士であるイオタは力と体力があるので、一撃一撃は強い。
 しかし、力任せのその太刀筋は簡単に予測できてしまうので、私に全て先読みされてしまう。


「だから言ったでしょ、込める力は最小限に。そして躱された時を考えて次の動作へつなげる動きをする事。非力な私でもイオタの伸び切った腕を狙えば容易に相手の木刀を叩き落とせるのよ?」

「くっそう~、またやられた!」

 ここ数日でそれでもイオタの成長は感じられる。
 私のアドバイスはちゃんと聞いているし、基本をちゃんとやればもっと強くなるだろう。
 
 だから私はあの人の真似をして見せる。


「いい事イオタ、イオタにも魔力があるの。魔力はこの世界のすべてに存在してそれは魂から出てくるものなのよ。だから自分から出て来る魔力を足に溜めて、それを一気に爆発させるの、こう言う風に!」


 私は自分の魔力を足に溜める。
 そして一定の魔力が足に溜まったらそれを一気に爆発させるかのように使う。
 すると、常人では出せない踏み込みが出来る。


 だんっ!


 離れた私の間合いの外から一気にイオタの胸元まで踏み込む。
 私のそのいきなりの動きにイオタは付いて来られず、いきなり目の前に現れた私の顔に驚く。


「うわっ!?」


「うふふふふ、こう言う風に私にも瞬間的には飛躍的に肉体を強化して動けるのよ?」

 目の前でそう言う私にイオタは驚き瞳をぱちぱちさせている。
 そして少し震える声で言う。


「サーナ、それって『操魔剣』なんじゃ……」

「ん、分かっちゃった? でも私に出来るのはこれだけ。踏み込みで一瞬だけ早く動ける事しかできないわ。だけどこれは全ての基本。これがちゃんと扱えるようになればイオタはもっともっと強く成れるわ」

 そう言ってにこりと笑う。
 イオタはそれでもまだ驚きの表情で目を見開いている。

「ちゃんと強くなってもらわないと、安心してイオタに寄りかかれないわよ?」

「え、あ、ああぁ……」

 私はイオタの胸に人差し指をあててそう言う。
 イオタはまだまだ強く成れる、きっとあの人みたいに。


「さてと、それじゃぁもう一回やるわよ?」

「お、おう!」



 一瞬あの人を思い出したけど、私はイオタにまたそう言って稽古を続けるのだった。 


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